トランジスタに増幅させたい信号は
直流ではなく交流信号(音声信号など)である場合がほとんどであるが
交流信号だけを入力してもトランジスタは正常に増幅してくれない。
なぜバイアス回路が必要なのか?
トランジスタのベース–エミッタ間は
p形とn形の半導体によるpn接合=ダイオードと同じ構造をしている。
(上図参照)
左図:バイアス電源無し 右図:バイアス電源あり
そのため、交流信号をそのまま加えると
ダイオードの整流作用によって正の波形しか流れず
出力信号は大きく歪んでしまう。
これを防ぐために、あらかじめ直流電圧を加えて入力波形全体を底上げし
負の電圧にならないように設定する。
この直流電圧を与えるための回路がバイアス回路となる。
波形を用いた解説
左図:バイアス回路ありの交流信号波形 右図:バイアス回路ありの交流信号波形
ベース–エミッタ間のダイオードの整流作用によって
制御信号の ib は正波側のみ流れ、負波側は流れないため
出力信号電圧 vo は歪んでしまう。
(上左図参照)
このような問題を解消するのがバイアス回路となる。
バイアス回路の役割は、直流電圧によって交流信号電圧 vi を底上げし
出力信号電圧 vo が歪まないようにすることとなる。
上右図のように直流電源 VBB (>l vi l)を挿入すれば
ベースーエミッタ間入力電圧 (vi+ VBB)は負にならないので
交流出力信号 vo はきれいな正弦波になる。
(上右図参照)。
代表的な3つのバイアス回路
固定バイアス回路
自己バイアス回路
ベース抵抗 RB をコレクタ側に接続する方式。
コレクタ電流が増加するとコレクタ電圧が下がり
結果としてベース電流を減らす「負帰還」が働くため
固定バイアスよりも安定性が向上する。
電流帰還バイアス回路
エミッタに安定化抵抗 RE を接続し
さらにベース電圧を2つのブリーダ抵抗で分圧して設定する方式。
温度変化等でコレクタ電流が増加しても
エミッタ抵抗による電圧降下でベース–エミッタ間電圧が絞られ
電流を一定に保つ強力な帰還作用(自己修正動作)を持つ。
動作点(Qポイント)と熱暴走の危険性
トランジスタを信号の歪みなく動作させるには
無信号時の基準となる電圧・電流の状態である「Qポイント(静止点)」を
アクティブ領域の適切な位置に設定・維持することが極めて重要となる。
熱暴走のメカニズム
トランジスタは温度が上がるとベース–エミッタ間電圧 VBE が減少し
直流電流増幅率 hFE が増加する。
これによりコレクタ電流が増加し、さらに素子が発熱するという悪循環に陥り
最悪の場合、トランジスタの焼損や破壊(熱暴走)を引き起こす。
実務で使われるのは「電流帰還バイアス」が主流
実務の回路設計においては、部品の個体差(hFEのばらつき)や
周囲温度の変化に対する「安定性」が最優先される。
| バイアス方式 | 回路の複雑さ | 安定性 | 実務での採用度 | 備考・特徴 |
| 固定バイアス | 非常に簡単 | 悪い | ほぼ使用されない | 熱暴走のリスクが高い。素子の個体差の影響を直接受ける。 |
| 自己バイアス | やや簡単 | 普通 | 条件により使用 | コレクタからの負帰還を利用。トランス負荷などでは効果が薄い。 |
| 電流帰還バイアス | 複雑 | 非常に良い | 主流(広く使用) | ブリーダ抵抗とエミッタ抵抗による強力な自己修正動作を持つ。 |
- ROHM株式会社 エレクトロニクス豆知識「トランジスタとは」
- 東芝デバイス&ストレージ株式会社 半導体基礎知識「バイアスと動作点」
新電気2019年12月号新電気2019年12月号「特集 強電技術者のための電子回路」より一部引用