FIT制度とFIP制度の違いについての備忘録

FIT制度(固定価格買取制度)FIP制度(フィード・イン・プレミアム制度)
どちらも再生可能エネルギーの導入を促進するための国の支援制度だが
電気の買取方法や事業者の役割に大きな違いがある。

FIP制度は、FIT制度によって一定程度普及した再生可能エネルギーを
より効率的で自立的な電源へと転換させていくための重要なステップとなる。
日本では、比較的大規模な再生可能エネルギー発電所からFIP制度への移行が進められており
将来的には小規模なものも対象となる可能性も考えられている。

FIT制度(Feed-in Tariff):固定価格買取制度について

2012年7月に導入された制度で
再生可能エネルギーの普及を初期段階で強力に推進することを目的としている。

FIT制度の仕組み 

  • 固定価格買取
    再生可能エネルギーで発電された電気を、電力会社が国が定めた固定価格
    一定期間(太陽光発電の場合、住宅用10年、産業用20年など)買い取ることが義務付けられている。
  • 市場価格との分離
    発電事業者は、電力市場の価格変動に関わらず、安定した収入を得ることができる
  • インバランスリスクの免除
    発電計画と実際の発電量に差(インバランス)が生じた場合でも
    発電事業者にはペナルティ(インバランス料金)が基本的に発生しなかった。
  • 非化石価値の帰属
    発電された再生可能エネルギーの「非化石価値(環境価値)」は
    固定買取価格に含まれるため、発電事業者が個別に取引することはできない。

FIT制度のメリット・デメリット

メリット:

  • 安定した収益
    固定価格で買い取られるため、発電事業者は長期にわたる安定した収益を見込みやすく
    投資回収の計画が立てやすい。
  • 導入の促進
    初期投資回収のリスクが低減されるため、再生可能エネルギー設備の導入が飛躍的に増加した。
  • 手続きの簡素さ
    発電事業者が市場価格を意識する必要がなく、運用が比較的シンプル。

デメリット:

  • 国民負担の増大
    固定価格が市場価格より高い場合、その差額が「再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)」として
    国民の電気料金に上乗せされるため、国民負担が増大する傾向にあった。
  • 市場からの乖離
    電力市場の価格変動に関わらず電気を買い取るため
    再生可能エネルギーが電力市場から切り離された状態となり
    市場の効率的な運用を阻害する可能性が指摘された。
  • 発電量の最適化へのインセンティブ不足
    インバランスリスクが免除されるため
    発電事業者が電力需要に合わせて発電量を調整するインセンティブが働きにくいという課題があった。

FIP制度(Feed-in Premium):フィード・イン・プレミアム制度について

FIT制度の課題を解決し、再生可能エネルギーを電力市場に統合して
自立的な電源としての成長を促すことを目的として、2022年4月に導入された制度。

FIP制度の仕組み

  • 市場価格+プレミアム
    発電事業者は、発電した電気を卸電力取引市場や相対取引で自ら売電する。
    その市場価格に、国が定めた「プレミアム(補助金)」が上乗せされて交付される。
  • 参照価格の変動
    市場価格が変動するため、発電事業者が受け取る売電価格も変動する。
    プレミアムの単価は、市場価格に応じて変動するように設計されており
    極端に市場価格が低い場合にはプレミアムが厚くなるなど、一定の収入は確保されるようになっている。
  • インバランスリスクの負担
    発電事業者は、発電計画と実際の発電量との差(インバランス)に対して
    責任を負い、インバランス料金を支払う必要がある。
    これにより、発電事業者は電力の需給バランスを意識した発電や
    蓄電池などを活用した計画的な運用が求められる。
  • 非化石価値の取引
    発電された再生可能エネルギーの「非化石価値(環境価値)」は発電事業者に帰属するため
    事業者はこれを「非化石証書」として市場で売却し、追加の収入を得ることができる。

FIP制度のメリット・デメリット

メリット:

  • 市場統合の促進
    再生可能エネルギーが市場価格を意識して電力を売買するようになるため
    電力市場全体の効率化と、再エネの主力電源化を促進する。
  • 効率的な発電・運用
    インバランスリスクを負うため、発電事業者は蓄電池の導入や需要予測の精度向上など
    より効率的な発電・運用を行うインセンティブが生まれる。
  • 新たなビジネスモデルの創出
    非化石価値の取引や、蓄電池を活用した
    アグリゲーションビジネス(多数の分散型電源を統合して制御する事業)など
    新たなビジネスモデルが期待される。
  • 国民負担の抑制
    市場価格を意識した運用により、長期的に見れば再エネ賦課金の国民負担を抑制する効果が期待される
    (ただし、市場価格の変動によっては高くなる可能性も)。

デメリット:

  • 収益の不確実性
    市場価格に連動するため、売電収入が変動し、FIT制度に比べて収益の予測が困難になる。
  • 運用コストの増加
    インバランスリスクの管理や、市場価格を意識した売電戦略の策定、蓄電池などの設備投資など
    発電事業者の運用コストや手間が増加する。
  • リスク管理の専門性
    市場変動リスクやインバランスリスクを適切に管理するためには
    より高度なノウハウや専門性が必要となる。

FIT制度とFIP制度の違いまとめ

太陽光発電メンテナンスガイドより画像引用

名無し管理事務所