リチウムイオン電池は、その高いエネルギー密度、長寿命、自己放電の少なさから
現在、様々な分野で最も広く利用されている二次電池(充電して繰り返し使える電池)。
特に、再生可能エネルギーの導入拡大や電気自動車の普及に伴い
蓄電システムの中核技術としてその重要性が増している。
蓄電池としてのリチウムイオン電池の特性と優位性
蓄電池に求められる主な特性は、以下の通り。
- 高いエネルギー密度: 同じ体積や重量でより多くの電力を貯められること。
- 高い出力密度: 短時間で大電流を供給できること。
- 長いサイクル寿命: 何度も充放電を繰り返しても、容量が劣化しにくいこと。
- 高い安全性: 異常時に発火や爆発のリスクが低いこと。
- 広い動作温度範囲: さまざまな環境下で安定して動作すること。
- 低い自己放電率: 使わない間も電力が失われにくいこと。
- 低コスト: 導入や運用にかかる費用が低いこと。
リチウムイオン電池は
これらの特性において他の蓄電池(鉛蓄電池、ニッケル水素電池など)と比較して
多くの優位性を持っている。
リチウム電池の特徴
エネルギー密度
鉛蓄電池の約2倍、ニッケル水素電池の約1.5倍〜2倍と非常に高く
これにより機器の小型化・軽量化、あるいはより長時間の電力供給が可能になる。
サイクル寿命
一般的に2,000〜6,000サイクル以上と長く
用途によっては10,000サイクルを超えるものもある。
これにより、長期間にわたって使用できる。
自己放電率
月あたり数%程度と非常に低く、長期間の放置でも電力の損失が少ない。
高効率
充放電効率が90%以上と高く、電気エネルギーの無駄が少ない。
蓄電池としての用途と特徴
蓄電池としてのリチウムイオン電池は
その用途によって求められる特性が異なる。
定置用蓄電システム (ESS: Energy Storage System)
再生可能エネルギーの導入拡大や電力系統の安定化
非常用電源として、大規模な蓄電システムが世界中で導入されている。
- 太陽光発電・風力発電の出力安定化
- 太陽光や風力は天候によって出力が変動するため、発電量が需要を上回ったり下回ったりする。
リチウムイオン蓄電池は、発電量の多い時に充電し、少ない時に放電することで
電力系統への出力変動を吸収し、安定した電力供給を可能にする。
- 系統安定化サービス
周波数調整や電圧安定化など
電力系統の品質を維持するためのサービスにも利用される。
- ピークカット・ピークシフト
電力需要が少ない夜間に充電し、需要が高まる昼間に放電することで
電力会社からの購入電力量を削減し、電気料金を抑えることができる(ピークシフト)。
また、瞬間の電力需要のピークを抑えること(ピークカット)も可能。
工場やオフィスビルなどで導入が進んでいる。
- 非常用電源・BCP対策
地震や台風などの災害による停電時、病院、データセンター、避難所、重要インフラなどで
安定した電力供給を確保するための非常用電源として利用される。
- 家庭用蓄電池
住宅に設置され、太陽光発電で発電した余剰電力を貯めたり
夜間の安い電力を貯めて昼間に使用したりすることで、電気代の削減や災害時の備えとして利用される。
定置用蓄電システムに求められる特性
- 長寿命(10年以上)
- 高い安全性
- 低コスト(kWhあたりのコスト)
- 高い充放電効率
- メンテナンスの容易さ
電気自動車 (EV)・プラグインハイブリッド車 (PHEV)
モビリティ分野における電動化の推進は、リチウムイオン電池の最大かつ成長著しい市場。
- 高いエネルギー密度
一充電走行距離を伸ばすために最も重要な要素となる。
同じバッテリー重量でより多くの電力を貯める必要がある。
- 高い出力密度
加速時など、瞬時に大電流を供給できる能力が必要。
- 急速充電性能
給油時間に近い短時間での充電が求められる。
- 長寿命
車両の寿命と同等の耐久性が求められる。
- 安全性
衝突時の衝撃や過酷な使用環境下での安全性が非常に重要。
- 広い温度範囲での性能維持
寒冷地でも暖地でも安定して性能を発揮する必要がある。
EV/PHEV用バッテリーに求められる特性
- 極めて高い安全性
- 非常に高いエネルギー密度
- 高い出力密度
- 急速充電性能
- 長寿命(10年、10万km以上)
- 広い動作温度範囲
c. 産業用(フォークリフト、AGV、ロボットなど)
従来の鉛蓄電池からの置き換えが進んでいる。
- 高効率: 充放電効率が高く、電力消費を抑えられる。
- 小型・軽量: 搭載機器の小型化・軽量化に貢献する。
- 長寿命: 交換頻度を減らし、メンテナンスコストを削減する。
- メモリー効果なし: 継ぎ足し充電が可能で、運用上の制約が少ない。
蓄電池のリチウムイオン電池の種類と材料
蓄電池としてのリチウムイオン電池は、主に正極活物質の違いにより
様々なタイプが存在し、それぞれ異なる特性を持っている。
- コバルト酸リチウム (LCO)
- 主にスマートフォンやノートPCなど、小型民生機器に多く使われる。
- 高いエネルギー密度を持つが、安全性や寿命の面で課題があり
大型用途にはあまり使われない。
- 三元系 (NMC: ニッケル・マンガン・コバルト酸リチウム / NCA: ニッケル・コバルト・アルミニウム酸リチウム)
- EVの主流です。高いエネルギー密度と比較的高い出力特性、優れたサイクル寿命を両立している。
- ニッケルの比率を高めることで、さらに高エネルギー密度化が進められている
(例:NMC811など)
- リン酸鉄リチウム (LFP):
- EVや定置用蓄電池で採用が広がっている。
- コバルトを使用しないため、コストが低く、資源制約も少ない。
- 非常に高い安全性と長いサイクル寿命が特徴だが、エネルギー密度は三元系に劣る。
- マンガン酸リチウム (LMO)
- EVや医療機器などに採用されることがある。
- 比較的高い安全性と出力特性を持つが、エネルギー密度とサイクル寿命は他の正極材に劣る。
- チタン酸リチウム (LTO) (負極材)
- 一般的なグラファイト負極の代わりにLTOを負極に使うことで
非常に高速な充放電(数分で充電完了)と極めて長いサイクル寿命(数万サイクル)を実現できる。 - 電圧が低くなりエネルギー密度も低いため、主にハイブリッドバスや産業用ロボット
急速充電が必要な用途に限定される。
蓄電池システムとしての構成要素
リチウムイオン電池は単体で使われることは少なく
複数のセルを組み合わせた「バッテリーパック」として
さらに安全で効率的な運用を可能にするための周辺機器と組み合わせて
「蓄電システム」として利用される。
- セル
リチウムイオン電池の最小単位。
- モジュール
複数のセルを直列・並列に接続し、一体化したもの。
- バッテリーパック
複数のモジュールを収納し、外部接続端子、冷却機構
そして最も重要なBMS (Battery Management System) を統合したもの。
- BMS (バッテリーマネジメントシステム)
- リチウムイオン電池の安全性と性能を確保するために不可欠なシステム。
- セル電圧監視: 各セルの電圧を常に監視し、過充電・過放電を防ぐ。
- 温度監視: 各セルの温度を監視し、異常発熱を防ぐ。
- 電流監視: 充放電電流を監視し、過電流を防ぎます。
- セルバランシング
各セルの電圧が均一になるように調整し、容量のばらつきを抑え、電池全体の寿命を延ばす。 - 残容量推定 (SOC: State of Charge): 電池の残りの容量を正確に推定する。
- 健康状態推定 (SOH: State of Health): 電池の劣化度合い(寿命)を推定する。
- 故障診断・保護機能: 異常を検知した場合、充放電を停止するなど、安全を確保するための制御を行う。
- PCS (パワーコンディショナー)
- 直流であるバッテリーの電力を、交流の電力系統や家庭で使用できる電力に変換する装置。
また、電力系統からバッテリーに充電する際には、交流を直流に変換する。 - 太陽光発電のパワーコンディショナーと一体化した製品も多いです。
- 冷却システム
電池は充放電時に発熱するため、適切な温度範囲を維持するための冷却システム(空冷、水冷、冷媒など)が
必要。特にEV用バッテリーや大規模蓄電システムでは重要。
蓄電池としてのリチウムイオン電池の今後の課題と進化
- エネルギー密度と出力密度のさらなる向上
EVの航続距離延長や、よりコンパクトな蓄電システムの実現には、この両方の性能向上が求められる。
シリコン負極やリチウムメタル負極などの次世代材料、全固体電池化などが研究されている。
- 長寿命化: より長い期間使用できる電池は、システムのLCC(ライフサイクルコスト)削減に直結する。
- 資源問題とサプライチェーン
リチウム、コバルト、ニッケルといった主要材料の供給安定化と
資源の偏在による地政学リスクへの対応も課題となる。
リサイクル技術の確立や、ナトリウムイオン電池など
より資源が豊富な材料を用いた電池の開発も進められている。
- リサイクル技術の確立
使用済みリチウムイオン電池からの希少金属回収は
資源の有効活用と環境負荷低減のために不可欠。