放電終止電圧について基礎知識まとめ

放電終止電圧についての概略

放電終止電圧(Discharge End-of-Discharge Voltage / Cut-off Voltage)とは
バッテリー(蓄電池)を放電していく際に、これ以上放電を続けるとバッテリーの性能劣化や故障
さらには安全上の問題が発生する可能性があるため、放電を停止すべき下限の電圧値を指す。

この電圧を下回ると、バッテリー内部の化学反応が効率的に進まなくなったり
電極材料に不可逆的な損傷が生じたりするため
電池の寿命を延ばし安全に使用するために非常に重要な指標となる。

放電終止電圧が設定される理由

放電終止電圧が設定される主な理由は以下の通り。

バッテリーの寿命保護

多くの種類のバッテリーにおいて、放電終止電圧を下回る「過放電」状態に陥ると
バッテリー内部の電極材料や電解液に不可逆的な化学変化が生じる。

例)リチウムイオン電池では、過放電によって正極のコバルトや負極の集電体である銅が溶け出すことがある。

これらの現象は、次に充電しようとしても容量が回復しない
あるいは著しく低下する原因となる。
放電終止電圧を守ることでバッテリーのサイクル寿命(充放電を繰り返せる回数)を最大限に引き出すことができる。

安全性の確保

特にリチウムイオン電池など、一部のバッテリーは過放電が極端に進むと
内部構造が不安定になり、発熱、発煙、発火、さらには破裂といった重大な事故につながる可能性がある。
放電終止電圧は、このような危険な状態を未然に防ぐためのセーフティリミットとして機能する。

機器の安定動作

バッテリー駆動の機器では、電圧が一定以下に下がると
電子回路が正常に動作しなくなること
があります。

例)モーターの出力が低下したり、デジタル機器が誤動作したり、突然シャットダウンしたりする原因となる。

放電終止電圧は、機器が安定して動作するために必要な最低限の電圧を確保する意味合いもある。

代表的なバッテリーの放電終止電圧の目安

バッテリーの種類によって、放電終止電圧の目安は異なる。

  • リチウムイオン電池 (Li-ion)
    一般的に1セルあたり 2.5V~3.0V 程度が目安とされる。
    多くの機器では保護回路が搭載されており、2.5V以下にならないように制御されている。
    ※過放電は非常に危険なため、厳格な管理が必要です。
  • ニッケル水素電池 (Ni-MH)
    1セルあたり 0.9V~1.0V 程度が目安
    過放電が進むと「メモリー効果」とは異なる形で容量が低下したり
    電池内部で分極が起こり、充電しても電圧が上がりにくくなることがある。
  • 鉛蓄電池
    1セルあたり 1.8V 程度が目安。
    12Vの自動車用バッテリー(6セル直列)の場合、全体で 10.5V 程度が放電終止電圧となる。
    過放電は、電極に硫酸鉛が強固に付着する「サルフェーション」を引き起こし
    充電しても容量が回復しにくくなる原因となる。

放電終止電圧を下回るとどうなるか(過放電)

放電終止電圧を下回る「過放電」状態になると
前述の理由から以下のような問題が発生する。

  • バッテリーの劣化・寿命短縮
    最も一般的な影響。容量の低下、内部抵抗の増加などが起こり、バッテリー本来の性能を発揮できなくなる。
  • 充電不能になる
    特にリチウムイオン電池では、過放電が深刻な場合
    保護回路が働いて充電を受け付けなくなることがある。
  • 異常発熱・発火・爆発
    リチウムイオン電池に特有の危険な現象。
    過放電によって不安定になった電極材料が、その後の充電時などに内部短絡を引き起こし
    熱暴走に至る可能性がある。
  • 機器の故障
    機器によっては、低電圧での動作が想定されておらず
    回路が破損する可能性がある。

放電終止電圧を高く設定しすぎるとどうなるか

逆に、放電終止電圧を本来の推奨値よりも高く設定しすぎると
以下のようなデメリットが生じる。

  • 利用できるエネルギー量の減少
    バッテリーがまだ使用可能な容量を残しているにもかかわらず
    途中で放電が停止してしまうため、バッテリーの持つエネルギーを最大限に活用できなくなる
    これにより、電気自動車の航続距離が短くなったり、モバイル機器の動作時間が短くなったりする。
  • 充電サイクルの増加
    同じ作業量をこなすために、より頻繁に充電が必要となり、結果的に充電回数が増え
    バッテリーのサイクル寿命に悪影響を与える可能性も考えられる。
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