無停電年次点検についての基礎知識まとめ

無停電年次点検は、事業所全体の電気を止めることなく、電気設備の年次点検を行う方法のこと。
通常の年次点検(停電点検)では、事業所の電気を一時的に遮断する必要があるが
無停電年次点検では、業務への影響を最小限に抑えながら点検を実施が可能。

無停電年次点検についての概略

自家用電気工作物(キュービクルなど)を設置している事業所は
電気事業法に基づき、年に一度の電気設備の定期点検が義務付けられている。
これまでの一般的な点検は、電気を停めて行う「停電年次点検」だった。

しかし、病院、データセンター、24時間稼働している工場、大型量販店など
停電が事業に大きな支障をきたす事業所のために導入されたのが「無停電年次点検」となる。
これは、特定の要件を満たすことで、停電を伴う年次点検の頻度を3年に一度に延長し
その間の2年間は電気を遮断しない状態で点検を行うことが可能になる制度
のこと。
(下記参照)

経済産業省 
主任技術者制度の解釈及び運用(内規)(令和3年3月1日付け20210208保局第2号)
4.(7)③イ括弧書きにおける停電点検の延伸に係る要件の明確化について
より引用

無停電年次点検を行う基準解釈や試験項目は法人によって異なるので注意が必要。

無停電年次点検のメリット・デメリット

無停電年次点検のメリット

  • 業務への影響を最小限に抑える
    最大のメリットは、停電による業務停止や機器のシャットダウンが不要になること。
    これにより、営業時間の短縮や生産ラインの停止といった経済的損失を回避できる。

  • 顧客へのサービス継続
    病院や商業施設など、顧客へのサービス提供が中断できない場所で特に有効。

  • 計画性の向上
    停電を伴う点検の計画や調整の負担が軽減される。

無停電年次点検のデメリット・注意点

  • 点検方法の制約
    通電状態での点検となるため、機器に直接触れることができない。
    そのため、特殊な測定器(コロナ放電チェッカー、放射温度計など)を使用して診断を行う。

  • 全ての事業所に適用されるわけではない
    無停電年次点検を導入するには
    経済産業省が定める一定の技術的要件を満たす必要がある。

    例)信頼性の高い絶縁監視装置などのスマート機器の導入
    直前の停電点検で異常がないことなど。

  • 3年に一度は停電点検が必要
    無停電年次点検を導入しても、完全に停電点検が不要になるわけではなく
    3年に一度は、停電を伴う年次点検を実施する必要がある。

  • 費用
    一般的な年次点検と比較して、特殊な機器や技術が必要になるため
    器材をそろえるために費用(イニシャルコスト)が高くなる可能性がある。

無停電年次点検ができないケース

内規の(イ)に抵触する場合

月次点検で低圧回路に絶縁不良があり、低圧絶縁監視装置において頻繁に警報が発生している需要家は
「省令第58条に規定された値以上であること」に適合しない
(停電年次点検により、不良回路の絶縁抵抗値を再測定が必要)。

(2) 内規の(ロ)に抵触する場合

引込柱または高圧受電設備のA種接地抵抗値(10Ω以下)が過大なケースは
接地抵抗値が電気設備の技術基準の解釈第17条に規定された値以下であること」に適合しない。

内規の(ハ)に抵触する場合

非常用予備発電装置が常用電源停電時に自動的に起動できない場合の多くは
起動用の蓄電池が経年劣化により電圧不足になっていることが原因。
非常用予備発電装置のセルモータが回らない状態が、「(二)の条件」に適合していないということになる。

無停電年次点検の実施方法

高圧機器診断 超音波式放電探知器による絶縁劣化診断

高圧機器等の接触不良・絶縁不良箇所から発生する放電に伴う超音波音から絶縁状態を診断する。

この絶縁診断は、停電年次点検における『高圧絶縁抵抗測定』に該当する

放射温度計による過熱診断

機器の異常な発熱や過熱の有無を診断する。

停電年次点検における『触診による過熱の有無確認』に該当する

絶縁監視装置による24時間監視

漏電の有無を常時監視する。

接地抵抗測定

活線状態でも接地抵抗を測定できる専用の機器を使用し
接地線の断線や不良がないかを確認する。

これらの診断で異常が見受けられた場合は
停電して詳細な点検や修理が必要になる。

無停電年次点検の法令上の位置づけ

電気事業法に基づき、自家用電気工作物の設置者は電気設備の定期点検を行う義務がある。
経済産業省の指針により、特定の条件を満たすことで
停電を伴う年次点検の頻度を3年に一度に延長し、その間の2年間は無停電で点検を行うことが認められている。

無停電年次点検を導入する際には、事業場の保安管理業務を外部委託する場合
保安規程を「無停電年次点検」に対応したものに改定し、国(保安監督部)へ届け出る必要がある。

無停電点検を導入の条件

  • 信頼性の高い機器であること
    リコール対象になっていない機器や、適切な保護装置が設置されているなど
    信頼性が高いと認められる設備である必要がある。

  • 絶縁状態が良好であること
    絶縁監視装置による常時監視や、活線状態で測定した絶縁抵抗値が基準値以上であることが求められる。

  • 設備に法令違反がないこと
    技術基準に適合している必要がある。

  • 経年劣化が著しくないこと
    区分開閉器(PAS)などの主要機器に、錆や腐食といった経年劣化が目立たないことが条件。

参考資料

新電気2023.2 houw to 無停電年次より引用

名無し管理事務所