サーミスタは、温度によって電気抵抗が大きく変化する性質を持つ半導体素子のこと。
サーミスタという名前は「Thermal(熱)」と「resistor(抵抗器)」を組み合わせた造語で
その名の通り、温度を検知するセンサーとして幅広く使われている。
サーミスタの主な種類と特徴
サーミスタは、温度が上がったときの抵抗値の変化の仕方によって
主に以下の2つのタイプに分けられる。
NTCサーミスタ(Negative Temperature Coefficient)
「負の温度係数」を持つサーミスタ。
温度が上昇すると、抵抗値が減少する。
特徴
抵抗値がなめらかに変化するため
-50℃から150℃程度の広い温度範囲で、精密な温度測定に適している。
応用例
エアコン、冷蔵庫、炊飯器、電子体温計、スマートフォン、自動車の冷却水温センサーなど
身の回りの多くの製品で温度センサーとして利用されている。
PTCサーミスタ(Positive Temperature Coefficient)
「正の温度係数」を持つサーミスタ。
NTCとは逆に、温度が上昇すると抵抗値が上昇する。
特徴
ある特定の温度(キュリー温度)を超えると
抵抗値が急激に増加するのが大きな特徴。
この性質を利用して、過熱防止や回路保護に使われる。
応用例
- 過熱保護
自動車のモーターや電子機器のバッテリーなどが過熱しないよう
温度が上がると電流を抑制して保護する働きをする。
- 自己温度制御ヒーター
半田ごてや電気カーペットなど、一定の温度を保ちたい機器のヒーターとして使われる。
PTCサーミスタ自体が温度上昇によって発熱量を減らすため
特別な制御回路が不要で、省エネにもつながる。
サーミスタの利点と応用
共通する主なメリット
- 高感度: 温度変化に対する抵抗値の変化が非常に大きいため、わずかな温度の変化も正確に検知が可能。
- 小型・安価: 小型で大量生産しやすいため、多くの機器に手軽に組み込むことができる。
- 応答が速い: 温度変化に素早く追従する。
サーミスタの動作は、半導体材料の電気伝導メカニズムに基づいており
サーミスタに使われるのは、マンガン、コバルト、ニッケル、鉄などの
金属酸化物を焼結して作られたセラミックス半導体となる。
NTCサーミスタの場合
- 温度が低い状態では、半導体内の電子は原子に束縛されており
自由に動けまない。このため、抵抗値が高くなる。
- 温度が上昇すると、熱エネルギーによって電子が原子の束縛から解放され
自由に動くことができるようになる(キャリア数が増加する)。
- 自由電子が増えると、電流が流れやすくなるため、抵抗値は急激に減少する。(NTCの原理)
この抵抗変化は非常に大きいため、わずかな温度変化も高感度に検出できる。
PTCサーミスタの場合
- PTCサーミスタは、特定の温度(キュリー温度)を境に抵抗値が急上昇する特性を持つ。
これは、サーミスタの主成分であるチタン酸バリウム(BaTiO₃)が
キュリー温度以下では強誘電体として機能し、温度が上昇しても抵抗値が比較的安定しているのに対し
キュリー温度を超えると結晶構造が変化し、半導体から絶縁体に近い状態に変化するため。
この相転移により、抵抗値が指数関数的に急上昇し、電流が流れにくくなる。
この性質を利用して、過電流保護や自己制御ヒーターに利用される。
サーミスタの活用例と選定
1. 温度測定・制御
最も一般的な用途。電子体温計や炊飯器、エアコンの温度センサーとして
NTCサーミスタが広く使われている。
選定ポイント
- B定数(B constant)
NTCサーミスタの感度を示す重要な指標。
B定数が大きいほど、抵抗値の温度変化が大きくなり、高感度になる。
- 抵抗値(R値
25℃における抵抗値で、標準的な値(例:10kΩ)が使われる。
- 許容差(Tolerance)
抵抗値のばらつきを示す指標で、±1%や±5%などの値がある。
精度の高い測定には許容差の小さいものを選ぶ。
2. 過電流・過熱保護
PTCサーミスタが使われる。
機器の異常発熱を検知し、電流を遮断することで回路や部品を保護する。
選定ポイント
- キュリー温度(T_c)
抵抗値が急上昇し始める温度。
保護したい対象の温度に合わせて選定する。
- 動作電圧・電流
使用する回路の電圧や電流に対応している必要がある。
3. 突入電流抑制
電源投入時に一時的に流れる大電流(突入電流)を抑制するために、NTCサーミスタが使用される。
- 仕組み
電源オフ時は抵抗値が高いため、突入電流を抑制する。
電源オン後、自己発熱によってサーミスタの温度が上昇し、抵抗値が下がることで
通常動作時の電力損失を最小限に抑える。
他の温度センサーとの比較
サーミスタは、熱電対や白金測温抵抗体(RTD)といった
他の主要な温度センサーと比較して、それぞれに利点と欠点がある。