高調波についての概略
高調波(Harmonics)とは、商用電源の基本周波数(日本では50Hzまたは60Hz)の
整数倍の周波数を持つ電流や電圧の成分のこと。
例)基本周波数が50Hzの場合
- 第2高調波:100Hz
- 第3高調波:150Hz
- 第5高調波:250Hz といった周波数の成分が高調波と呼ばれる。
これらの高調波成分が基本波(純粋な正弦波)に重なることで
電圧や電流の波形が歪んだり、ひずみが生じたりする。
この歪んだ波形全体を「ひずみ波」と呼ぶ。
高調波が発生する原因
高調波の主な発生源は、非線形性を持つ機器のこと。
線形な回路では、入力と出力の間に比例関係があり、波形が歪むことはないが
非線形な機器では、入力と出力の関係が直線的ではなく、波形が歪んで高調波が発生する。
具体的な発生源としては、以下のようなものがある。
電力変換装置(インバーター、コンバーター、整流器など)
半導体スイッチング素子(サイリスタ、IGBT、MOSFETなど)を使用して
交流から直流、または直流から交流へ変換する機器のこと。
例)エアコン、冷蔵庫、LED照明、パソコンの電源、電気自動車の充電器など。
これらの機器は、電流を断続的に流したり、電圧をスイッチングしたりするため
基本波以外の高調波成分を多く含んだ電流や電圧を発生させる。
アーク炉や溶接機
アーク放電を利用する機器で、放電の非線形性により高調波が発生する。
変圧器や電動機などの磁気飽和現象
鉄心を持つ機器では、磁束密度が飽和する領域で使用されると、電流と磁束の関係が非線形になり
高調波が発生する。特に、変圧器の励磁電流には第3高調波が多く含まれる。
OA機器や家電製品
- スイッチング電源を使用しているパソコン、プリンター、テレビなどの多くの電子機器も高調波を発生させる。
-
高調波による影響
高調波は、電力系統や接続されている機器に様々な悪影響を及ぼす。
- 機器の過熱・損傷
- 変圧器や電動機、コンデンサなどの機器は、高調波電流によって過熱し
寿命が短くなったり、故障したりする可能性がある。
特に、鉄損(渦電流損、ヒステリシス損)や銅損が増加する。
- 電力損失の増加
- 高調波電流によって電力系統全体の電力損失が増加し、エネルギー効率が低下する。
- 保護リレーの誤動作
- 高調波によって電流や電圧の波形が歪むと、保護リレーが誤動作し
不要な回路遮断を引き起こすことがある。
- 通信障害
- 高調波による電磁誘導や静電誘導により、通信ケーブルにノイズが乗り
通信障害を引き起こすことがある。
- 力率の低下
- 高調波電流は無効電力成分を増加させ、力率を低下させる原因となる。
力率が低いと、電力会社からの電力供給コストが増加することがある。
- 電圧の歪み
- 高調波電流が系統のインピーダンスを流れることで、電圧波形も歪み
他の機器の動作に悪影響を与える可能性がある。
- 共振現象
- 系統のインダクタンスとコンデンサが特定の高調波周波数で共振すると
高調波電流や電圧が異常に増大し、機器の損傷や保護機器の誤動作を引き起こすことがある。
高調波対策
高調波による悪影響を抑制するために、以下のような対策が講じられる。
- アクティブフィルター
- 高調波を打ち消すような逆位相の電流を注入し、高調波成分を除去する最も効果的な対策の一つ。
- パッシブフィルター
- 特定の高調波周波数に同調させたLC(コイルとコンデンサ)回路を接続し
高調波電流を吸収または短絡させる。。
- 高調波抑制対策済機器の導入
- 高調波の発生量が少ない機器や、高調波抑制機能を内蔵した機器を選定する。
- 多パルス整流方式の採用
- 例えば、6パルス整流器の代わりに12パルス整流器を使用するなど
整流回路のパルス数を増やすことで、発生する高調波の次数を高くし、影響を軽減する。
- リアクトルの挿入
- 高調波電流の流入を抑制するために、系統にリアクトルを挿入することがある。