開放電圧 (Open Circuit Voltage: Voc) とは
開放電圧(Voc)とは、太陽光発電モジュールやバッテリーなどの直流電源において
外部に何の負荷も接続されていない(つまり、回路が開いている)状態で
その両端子間に発生する電圧のこと。
=電流が全く流れていない状態での、最大電位差を示す。
太陽光発電モジュールにおける開放電圧について
太陽光発電モジュールの場合、開放電圧は以下の特性を持っている。
光の強さ(日射量)に比較的影響されない
- 太陽電池セルは、光の強さが増すと発生する電流(短絡電流 Isc)は増加するが
電圧(開放電圧 Voc)は飽和傾向にあり、日射量による変化は比較的少ない。
これは、光が当たることで電子と正孔が生成され、それらがP-N接合部の電位差を打ち消す方向に働くため。
光の強度が増しても、電位差の打ち消し能力は大きく変わらない傾向がある。
温度の影響を大きく受ける
- 太陽電池モジュールの開放電圧は、温度の上昇とともに低下する。
逆に、温度が低いほど開放電圧は高くなる。
これは、半導体のバンドギャップエネルギーが温度によって変化するため。
温度が上がると、熱エネルギーによってキャリア(電子と正孔)の動きが活発になり
内部抵抗が変化して電圧降下が生じやすくなるため。
※一般的に、結晶シリコン系モジュールでは、温度が1℃上昇するごとに開放電圧は約0.3%〜0.4%低下すると言われている(モジュールによって異なる)。
モジュールの直列接続数と関連
- 太陽光発電システムでは、必要な電圧を得るために複数のモジュールを直列に接続する。
直列に接続されたモジュールの開放電圧の合計が、ストリング全体の開放電圧となる。
開放電圧は、パワーコンディショナ(PCS)を選定する上で非常に重要な要素となる。
PCSには入力電圧範囲(MPPT電圧範囲や最大入力電圧)があり
ストリングの開放電圧がこの範囲内に収まっている必要がある。
特に、冬場の低温時に開放電圧が最大となるため
PCSの最大入力電圧を超えないように設計する必要がある。
開放電圧の測定
開放電圧は、基本的に電圧計を測定したい端子に直接接続するだけで測定できる。
電流が流れない状態での測定なので負荷を接続する必要はない。
- 電池・バッテリー
テスター(マルチメーター)の電圧測定レンジ(DCV)で電池のプラス端子とマイナス端子にプローブを当てる。
- 太陽電池
太陽光が当たっている状態で、パネルのプラス端子とマイナス端子にテスターのDCVレンジでプローブを当てる。
- 溶接機
溶接機を起動し、溶接棒と母材が接触していない状態で、出力端子間にテスターのACVまたはDCVレンジでプローブを当てる。
開放電圧と定格電圧(動作電圧)の違い
- 開放電圧 (Open-Circuit Voltage; OCV)
負荷が接続されていない状態での最大の電圧。電流は流れない。
- 定格電圧 / 動作電圧 (Operating Voltage): 機器が正常に動作している(負荷が接続され、電流が流れている)状態での電圧。この電圧は、機器の内部抵抗による電圧降下が含まれるため、通常、開放電圧よりも低い値になる。
例えば、乾電池には「1.5V」と表示されているが、これは「公称電圧」または「定格電圧」に近い値であり
実際に負荷を接続して使っている時の電圧のこと。
新しい乾電池の開放電圧を測ると、1.6V程度を示すことがある。
開放電圧が重要な理由
- システム設計の基準
太陽光発電システムの設計において、パワーコンディショナ(PCS)の最大入力電圧を決定する際に
最も重要な指標の一つとなる。
特に、低温時の最大開放電圧がPCSの許容範囲内であることを確認する必要がある。
- 故障診断
モジュールの故障診断にも利用される。設計値と比較して開放電圧が異常に低い場合
モジュールの損傷や配線の問題を示唆している可能性がある。
- システムの安全性
過大な電圧は、PCSやその他の電気機器の損傷、最悪の場合は火災の原因となる可能性がある。
そのため、開放電圧の適切な管理はシステムの安全性確保に不可欠な要素となる。