逆フラッシオーバとは、架空送電線路で発生する雷事故の一種。
通常、送電線は雷から保護するために、電線の上部に「架空地線」と呼ばれる保護用の電線が張られており
雷が落ちた場合、架空地線が雷電流を受け止めて大地に流すように設計されている。
しかし、この架空地線や、それを支持する鉄塔に直接落雷があった場合、話は少し複雑になる。
雷撃による鉄塔・架空地線の電位上昇
架空地線や鉄塔に雷が落ちると、その雷電流は架空地線や鉄塔を通って大地へ流れ込もうとする。
しかし、鉄塔と大地の間には「接地抵抗」と呼ばれる電気的な抵抗が存在する。
雷電流は非常に大きく、かつ瞬時に流れるため、この接地抵抗によって
鉄塔や架空地線の電位(電圧)が一時的に著しく上昇する。
がいしの絶縁破壊
雷撃によって上昇した鉄塔・架空地線の電位が、その電位を絶縁して送電線と切り離している「がいし」(碍子、絶縁体)の絶縁耐力(耐えられる電圧の限界)を超えてしまうことがある。
送電線への放電(フラッシオーバ)
がいしの絶縁耐力を超えると、鉄塔・架空地線から送電線へ向かって電気的な放電(アーク)が発生する。
これがフラッシオーバとよばれる。この放電によって
雷電流の一部が本来電気を通すべきではない送電線に流れ込み、送電線に異常な高電圧が侵入する。
この現象を「逆フラッシオーバ」と呼ぶのは、一般的に雷が送電線に直接落ちて
フラッシオーバを起こす「直撃雷によるフラッシオーバ(遮へい失敗)」とは異なり
保護する側の架空地線や鉄塔から、保護される側の送電線へ逆方向に放電が起きるため。
逆フラッシオーバが発生すると、送電線に高電圧が侵入するため
以下のような影響が生じる可能性がある。
逆フラッシオーバを防止・軽減するためには、主に以下の対策が講じられる。
接地抵抗の低減
鉄塔の接地抵抗をできるだけ低くすることが最も重要となる。
接地抵抗が低いほど、雷電流が大地へ流れやすくなり、鉄塔の電位上昇を抑えることができる。
具体的な対策
鉄塔の基礎部分から周囲の地面に長く金属線を埋設することで
大地との接触面積を増やし、接地抵抗を低減する。
がいしの性能向上
より絶縁耐力の高いがいしを使用したり、がいしの個数を増やしたりすることで
送電線と鉄塔間の絶縁を強化し、フラッシオーバを抑制する。
アークホーンの設置
がいしの両端に「アークホーン」と呼ばれる金属製の角のような部品を取り付ける。
これにより、がいしに沿って発生するアークをアークホーン間に限定させ
がいし本体の損傷を防ぐ。
※これはフラッシオーバ自体を防ぐものではなく、がいしの保護が主な目的。
送電線用避雷装置の設置
近年では、鉄塔や送電線に直接取り付けることができる
送電線用避雷装置(ラインアレスタなど)の導入も進められている。
これらは、異常な高電圧が発生した際に瞬時に雷電流を大地に逃がし
送電線への高電圧侵入を防ぐ役割を果たす。