絶縁劣化の概略
絶縁劣化とは、電気設備に使用されている絶縁材料が、時間や様々な外部要因の影響を受けて
本来持っている電気を通さない(絶縁する)能力が徐々に低下していく現象のこと。
最終的には、電気を通してしまう状態(絶縁破壊)となり
短絡、地絡、感電などの重大な事故につながる可能性がある。
絶縁劣化の種類
1. 熱的劣化 (Thermal Degradation)
電気設備が運転中に発生する熱や、周囲環境からの熱によって絶縁材料が劣化する現象。
- 過負荷運転
定格電流以上の電流が流れ続けると、導体や絶縁体に過剰な熱が発生し
絶縁材料の化学結合が破壊されたり、炭化したりして劣化が進行する。
- 周囲温度の上昇
高温の環境下での運転は、絶縁材料の化学反応速度を速め、劣化を促進する。
- 放熱不良
冷却系統の不具合や埃の堆積などにより放熱が妨げられると、熱がこもり、局所的な過熱を引き起こす。
2. 電気的劣化 (Electrical Degradation)
電圧ストレスによって絶縁材料が損傷する現象。
- 部分放電 (Partial Discharge: PD)
絶縁材料内部や表面の微小な空隙(ボイド)や不均一な電界集中部で発生する小さな放電現象。
部分放電が繰り返されると、絶縁材料の化学結合が破壊され、徐々に劣化が進行し
最終的には絶縁破壊に至る。
- 過電圧
雷サージ、開閉サージ(スイッチの開閉時に発生する過渡的な電圧上昇)
地絡事故などによる異常な高電圧が印加されると、絶縁材料に大きなストレスがかかり
瞬時または累積的に劣化を引き起こす。
- 高調波
電圧波形に歪みが生じると、絶縁材料に通常とは異なる周波数のストレスがかかり
部分放電の発生を促進したり、過熱を引き起こしたりする場合がある。
3. 環境的劣化 (Environmental Degradation)
周囲の環境条件が絶縁材料に影響を与える現象。
- 水分 (Moisture)
湿気は絶縁材料の誘電率や誘電正接を増加させ、絶縁耐力を低下させる。
特に、絶縁材料内部に水分が浸入すると、部分放電の発生源となったり
導電路を形成したりすることがある。
- 汚損 (Contamination)
埃、塩分、化学物質、油などが絶縁材料の表面に付着すると、導電性の膜を形成し
漏れ電流が増加する。これにより、フラッシュオーバー(絶縁表面に沿った放電)や
トラッキング(絶縁表面に沿って導電性の炭化路が形成される現象)を引き起こし
絶縁破壊に至る可能性がある。
- 紫外線 (UV Radiation)
屋外で使用される絶縁体は、太陽光に含まれる紫外線の影響を受け
表面が劣化したり、ひび割れが生じたりすることがある。
- 化学物質
酸、アルカリ、溶剤などの化学物質が絶縁材料に接触すると
化学反応によって材料が変質し、絶縁性能が低下する。
4. 機械的劣化 (Mechanical Degradation)
物理的な力によって絶縁材料が損傷する現象。
- 振動・衝撃
運転中の振動や外部からの衝撃によって、絶縁材料に亀裂が生じたり、剥離したりすることがある。
- 熱伸縮
運転中の温度変化による材料の膨張・収縮によって、異なる材料間でストレスが生じ
亀裂や層間剥離を引き起こすことがある。
- 外力による損傷
設置時やメンテナンス時の不注意による引っかき傷、圧縮、せん断など。
5. 時間的劣化 (Aging Degradation)
- 経年変化
長期間の使用により、絶縁材料の分子構造が徐々に変化し
弾力性や機械的強度、電気的特性が低下する。
これは、上記で述べた熱的、電気的、環境的要因が累積的に作用した結果として現れることが多い。
絶縁劣化のメカニズム
これらの原因によって絶縁劣化が進行する一般的なメカニズムは、以下の通り。
- 初期段階
絶縁材料内部や表面に微小な欠陥(空隙、異物、傷など)が存在したり、部分放電が開始したりする。
- 進行段階
欠陥が拡大し、絶縁材料の化学結合が破壊され、炭化物が生成されたり、水分が浸入したりする。
この段階では、絶縁抵抗の低下や誘電正接の増加といった電気的特性の変化が見られる。
- 最終段階
劣化が臨界点に達すると、絶縁材料は急速にその絶縁耐力を失い
最終的に絶縁破壊(絶縁貫通)に至り、地絡や短絡などの事故を引き起こす。