キック現象とは
キック現象とは、絶縁耐力試験中や高圧絶縁抵抗測定試験時、ケーブルに印加している電圧を上昇させていく際に
漏れ電流が急激に変動(増加または減少)する現象を指す。
特に、電流が急激に増加するパターンが注意すべき兆候とされる。
この現象は、ケーブルの絶縁体内部に
通常では見られないような絶縁破壊の初期段階や、部分的な絶縁の弱点(欠陥)が存在している可能性を
示唆している。
キック現象が起きる原因
キック現象の主な原因としては、以下のような絶縁体の劣化や異常が考えられる。
水トリー(Water Treeing)の発生
- 高圧CVケーブル(架橋ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブル)などの絶縁体中に
微量の水分と電界が作用することで、樹枝状の微細な亀裂(水トリー)が発生する。
- 水トリーは、絶縁体の導電性を局所的に高め、絶縁性能を低下させる。
この水トリーが成長し、電界集中が起きやすい箇所に到達すると
試験電圧を印加した際に急激な電流の変化としてキック現象が現れることがある。
- 水トリーは、製造時の異物混入、ケーブルの傷
敷設環境からの水分浸入(水に浸かる、結露など)などが複合的に絡んで発生する。
ボイド(気泡)や異物の存在
- ケーブルの製造工程で絶縁体中に気泡(ボイド)が残ったり
微小な異物が混入したりすることがある。
- これらのボイドや異物があると、その周囲に電界が集中しやすくなり
試験電圧を印加した際に部分放電が発生したり、電流経路が不安定になったりして
キック現象につながることがある。
部分放電の発生
- 絶縁体内部の微細な空隙や欠陥部分で、印加電圧によって絶縁破壊が部分的に発生し
微小な放電(部分放電)が起きることがある。
- この部分放電が起きると、一時的に電流が増加したり、不安定になったりするため
キック現象として観測されることがある。
その他、絶縁体の損傷
ケーブルの敷設時の無理な曲げや外力による物理的な損傷、熱劣化などによって
絶縁体が部分的に傷ついている場合も、キック現象の原因となることがある。
キック現象の重要性
キック現象は、まだ「絶縁破壊」に至っていない段階であっても
将来的に絶縁破壊につながる可能性のある「劣化の兆候」と捉えられる。
特に、高圧ケーブルは一度事故が起きると広範囲に影響を及ぼし
復旧に時間とコストがかかるため、このキック現象を早期に発見し
対策を講じることが非常に重要となる。
絶縁耐力試験や高圧絶縁抵抗測定において、キック現象が確認された場合は
そのケーブルは劣化が進んでいたり不良が発生していると判断され
早急に交換や補修などの対策を検討する必要がある。
キック現象の対策方法
キック現象そのものに対する直接的な対策というよりは
キック現象の原因となるケーブルの絶縁劣化を防ぐための対策が重要になる。
- 定期的な絶縁診断
高圧ケーブルは定期的に絶縁診断を行い、絶縁状態を監視する。
- 適切な敷設
ケーブルの敷設時に無理な曲げや過度な張力を避け、損傷を与えないようにする。
- 環境管理
ケーブルが水に浸からないようにする
適切な温度・湿度管理を行うなど、敷設環境を改善する。
- 高品質なケーブルの選定
製造段階でボイドや異物の混入が少ない、高品質なケーブルを選定する。
- 開閉サージ対策
開閉操作時に発生する過電圧(開閉サージ)も絶縁劣化の一因となるため
適切な遮断器の使用やサージアブソーバーの設置など、過電圧対策を行う。
参考資料
社団法人 日本電線工業会 判定基準について(2)判定基準 より引用
ムサシインテック DN-11 取り扱い説明書 第19版 より一部引用