直流高圧絶縁測定におけるキック電流現象の有無や成極指数、弱点比、不平衡率の判定方法まとめ

キック電流現象の有無の判定

キック電流現象とは、高圧の直流電圧を印加した際に
一時的に測定電流が急増する現象を指す。
これは主に、測定対象の絶縁物に水分が含まれていたり、ひび割れなどの重度の欠陥がある場合に発生する。

判定方法

絶縁抵抗測定を開始した直後(ごく短時間)に
メータの指示値(またはグラフの電流値)が一旦大きく振れてから、急激に下がる挙動が見られた場合
キック電流現象あり」と判定される。

この現象がある場合、その絶縁体は非常に劣化しているか、異常な状態にある可能性が高いと判断される。
正常な絶縁体では、印加直後の電流(充電電流)は大きいが
この「急増・急落」の特別なパターンは示さず、電流は時間とともに滑らかに減少する。

デジタル式絶縁抵抗計では、充電電流の自動補正機能が働く場合もあるため
アナログ式ほど明確な「キック」として現れないこともある。

成極指数 (Polarization Index: PI) の判定

成極指数 (PI) は、絶縁体の長期的な状態乾燥度を評価するために用いられる指標。

定義

10分後の絶縁抵抗值と1分後の絶縁抵抗值の比。

判定方法

良好: 2.0 以上
注意(許容範囲): 1.0~2.0
不良: 1.0 未満

PIは体積抵抗(電流)の変化に基づいているため
対象が高容量の機器(大型変圧器など)や、測定時間が10分では不十分な場合
あるいは測定温度が極端に低い場合は、より長い時間で測定するか、他の指標と併用する必要がある。

弱点比の判定

高圧絶縁測定における弱点比(じゃくてんひ)とは
2種類の異なる試験電圧で測定した絶縁抵抗値の比のこと。
絶縁体の電圧依存性=印加電圧によって絶縁抵抗値が
どのように変化するかを評価するための指標として用いられる。

絶縁体に劣化(特に水トリーなど)の兆候があるかどうかを判断するのに役立つ。

測定方法

低めの試験電圧(例: V1 = 3 kV or 5 kV)を印加し、絶縁抵抗値 R1 を測定する。

高めの試験電圧(例: V2 = 6 kVまたは 10 kV)を印加し、絶縁抵抗値 R2 を測定する。

これら2つの絶縁抵抗値の比を計算する。

※どちらの値を分子・分母にするかは診断基準によるが
一般的には絶縁抵抗値の低下傾向を見るため
比が1より小さくなるか大きくなるかで判断する。

判定基準

弱点比の診断的意味

弱点比は、絶縁体の局部的な劣化潜在的な弱点を検出するのに特に有効。

  • 1に近い値:絶縁体の状態は健全である可能性が高い。
  • 1から大きく外れた値
    印加電圧の上昇に伴って絶縁抵抗値が大きく低下している(電圧依存性が強い)ことを示しており
    絶縁体に劣化や弱点がある可能性が高いと判断される。
    劣化部分に電圧がかかることで、漏れ電流が非線形的に増大していることを示唆している。

補足: 成極指数との違い

不平衡率の判定

不平衡率は、主に多相機器(例:三相交流の電動機や変圧器など)の巻線間
各相の対地間の絶縁抵抗値を比較し、機器の健全性均一性を評価するために用いられる。

測定対象となる値

  • 絶縁抵抗値:高圧絶縁抵抗計を用いて測定される値。
  • 直流漏洩電流:直流電圧を印加した際に流れる微少な電流。
    ケーブルなどの劣化診断では、この漏洩電流の測定がより重要視される。

計算方法

漏洩電流を用いる場合の相間不平衡率の定義は以下の通り。

理想的な状態(健全な状態)では、三相の絶縁特性は均一であるため
最大値と最小値の差が小さくなり、不平衡率は低くなる(0%に近い)。

一方、絶縁劣化がある状態では、特定の相だけ劣化が進み漏洩電流が増加するため
三相間で大きな差が生じ、不平衡率は高くなる。

不平衡率が高いことの意味

相間不平衡率が高い(異常に高い)場合、それは以下のような状況を示唆しており
高圧機器の絶縁劣化診断において重要な指標となる。

  • 特定の相の絶縁劣化
    三相のうち、特定の相だけが部分的に絶縁が劣化している可能性が非常に高い。
    これは、製造上の欠陥、敷設時の損傷、部分放電の進行などが原因で
    特定の箇所に「弱点」が生じていることを示す。

  • 早期劣化の兆候
    絶縁抵抗値そのものがまだ十分に高い(例えば、1000 MΩ以上)場合でも
    不平衡率の上昇は、将来的な絶縁破壊につながる初期の異常を捉えることができる場合がある。
  • 信頼性の低下
    不平衡率が高い状態を放置すると、最も劣化の進んだ相から絶縁破壊に至るリスクが高まる。

機器が新品に近いなど、元々絶縁抵抗値が極めて高い状態(例:10,000 MΩ超)では
測定値の微細な変動が大きな不平衡率として計算されてしまい
誤ったデータ(信頼性の低いデータ)となる可能性がある。
そのため他の指標(絶縁抵抗値の絶対値、成極比、弱点比など)と総合的に判断する必要がある。

表によるCVケーブルの劣化判定基準(参考)

参考資料

chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://soukou.co.jp/pdf/0103.pdf
ハイボルトテスタ HVT-25
株式会社双興電機製作所 取り扱い説明書[第5版]より一部引用

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