始動電流は、特にモーター(電動機)を起動する際に発生する
定格電流を大幅に上回る一時的な大電流のこと。
モーターが停止状態から加速し、定格回転数に達するまでの期間に流れる。
始動電流は、モーターの健全な運用、電力系統の安定性、そして設備全体の保護にとって非常に重要な要素。
モーターを選定する際には、その定格電流だけでなく、始動電流の特性や
駆動する負荷に適した始動方法を考慮することが必要。
適切な対策を講じることで、トラブルを未然に防ぎ、設備の寿命を延ばすことができる。
交流モーター(特に誘導電動機)は、以下の理由から始動時に大きな電流が流れる。
逆起電力の欠如
低いインピーダンス
負荷の慣性
モーターが駆動する機械(ファン、ポンプ、コンベアなど)には
それぞれ質量と慣性がある。
停止している重い負荷を動かし始めるには、大きなトルクが必要となる。
この大きなトルクを発生させるために、モーターはより大きな電流を流そうとする。
負荷の慣性が大きいほど、モーターが定格回転数に達するまでの時間が長くなり
その間、始動電流が流れ続けることになる。
始動電流の大きさは、モーターの種類や設計、始動方法によって大きく異なるが
一般的には定格電流の5倍から10倍にも達すると言われている。
例)定格電流が10Aのモーターであれば、始動時には50Aから100Aもの電流が瞬間的に流れる可能性がある。
始動電流の持続時間は、モーターが定格回転数に達するまでの時間となる。
これは負荷の慣性やモーターの特性によって異なり、数秒から数十秒程度続くことがある。
※重い負荷を始動させる場合や、始動方法によってはさらに長くなることもある。
ブレーカーやヒューズのトリップ
電源投入時に定格電流の数倍もの電流が流れるため、通常のブレーカーやヒューズでは
「過電流」と判断され、モーターが正常に起動する前に回路を遮断してしまうことがある(誤トリップ)。
これにより、設備の稼働が停止したり、頻繁な復旧作業が必要になったりする。
電源電圧の低下(電圧降下・フリッカ)
大電流が流れると、電源ケーブルや変圧器、配電盤のインピーダンスによって
一時的に電源電圧が大きく降下する。
この電圧降下は、同じ電源系統に接続されている他の機器の動作に影響を与え、誤動作や性能低下
(例:照明のちらつき=フリッカ)
を引き起こす可能性がある。
設備への機械的ストレス
急激な大電流は、モーターや駆動系の機械部品(シャフト、ギア、ベルトなど)に
大きなトルク変動と衝撃を与える。
これにより、部品の早期劣化や破損につながる可能性がある。
電力会社への負担と電気料金
始動電流は、電力会社の変圧器や配電線にも一時的な過負荷を与える。
また、力率が悪化し、電力会社によっては電気料金の割増対象となる可能性もある。
モーター自体の発熱
大電流はモーターの巻線抵抗によって大きな熱を発生させる。
始動時間が長すぎると、モーターの巻線が過熱し、絶縁劣化や焼損につながる危険性がある。
直入れ始動(全電圧始動)
スターデルタ始動(Y-Δ始動)
原理
始動時にはモーターの巻線をスター(Y)結線とし、定格回転数に近づいたところでデルタ(Δ)結線に切り替える。スター結線時は、モーター巻線にかかる電圧が相電圧(線間電圧の1/3倍)になるため
電流が定格の1/3に抑制される。トルクも1/3になる。
リアクトル始動 / 補償器始動(コンペンセータ始動)
ソフトスタータ(Soft Starter)
インバータ始動(Variable Frequency Drive; VFD)
原理: 電源の周波数と電圧を同時に制御することで、モーターの回転速度を任意に調整できる装置。
始動時には、周波数と電圧を低い状態から徐々に上げていくため、始動電流を定格電流に近い値に抑えながら
スムーズな加速が可能。