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始動電流についての基礎知識まとめ

始動電流は、特にモーター(電動機)を起動する際に発生する
定格電流を大幅に上回る一時的な大電流のこと。
モーターが停止状態から加速し、定格回転数に達するまでの期間に流れる。

始動電流は、モーターの健全な運用、電力系統の安定性、そして設備全体の保護にとって非常に重要な要素。
モーターを選定する際には、その定格電流だけでなく、始動電流の特性や
駆動する負荷に適した始動方法を考慮することが必要。
適切な対策を講じることで、トラブルを未然に防ぎ、設備の寿命を延ばすことができる。

目次

始動電流が発生するメカニズム

交流モーター(特に誘導電動機)は、以下の理由から始動時に大きな電流が流れる。

逆起電力の欠如

  • モーターが回転すると、その回転によってモーター内部に逆起電力という電圧が発生する。
    逆起電力はモーターに印加されている電源電圧とは逆向きに作用し
    電源から供給される電流を抑制する役割がある。
    しかし、モーターが停止している状態(始動時)では、まだ回転していないため
    この逆起電力はゼロとなる。

    オームの法則 (I=V/Z) を考えると、モーターのインピーダンス
    逆起電力がゼロの状態では非常に低くなる。
    そのため、電源電圧がほぼそのままかかり、結果として非常に大きな電流が流れることになる。

低いインピーダンス

  • 誘導電動機は、停止時には巻線が短絡状態に近い(滑りが100%)ため
    変圧器の二次側が短絡している状態に似ている。
    このため、インピーダンスが非常に低くなり、大電流が流れる。
    回転が始まり滑りが減少するにつれて、インピーダンスは上昇し、電流は減少する。

負荷の慣性

モーターが駆動する機械(ファン、ポンプ、コンベアなど)には
それぞれ質量と慣性がある。
停止している重い負荷を動かし始めるには、大きなトルクが必要となる。
この大きなトルクを発生させるために、モーターはより大きな電流を流そうとする。
負荷の慣性が大きいほど、モーターが定格回転数に達するまでの時間が長くなり
その間、始動電流が流れ続けること
になる。

始動電流の大きさ

始動電流の大きさは、モーターの種類や設計、始動方法によって大きく異なるが
一般的には定格電流の5倍から10倍にも達すると言われている。

例)定格電流が10Aのモーターであれば、始動時には50Aから100Aもの電流が瞬間的に流れる可能性がある。

始動電流の持続時間

始動電流の持続時間は、モーターが定格回転数に達するまでの時間となる。
これは負荷の慣性やモーターの特性によって異なり、数秒から数十秒程度続くことがある。

※重い負荷を始動させる場合や、始動方法によってはさらに長くなることもある。

始動電流による問題点

ブレーカーやヒューズのトリップ

電源投入時に定格電流の数倍もの電流が流れるため、通常のブレーカーやヒューズでは
過電流」と判断され、モーターが正常に起動する前に回路を遮断してしまうことがある(誤トリップ)。
これにより、設備の稼働が停止したり、頻繁な復旧作業が必要になったりする。

電源電圧の低下(電圧降下・フリッカ)

大電流が流れると、電源ケーブルや変圧器、配電盤のインピーダンスによって
一時的に電源電圧が大きく降下する。
この電圧降下は、同じ電源系統に接続されている他の機器の動作に影響を与え、誤動作や性能低下
(例:照明のちらつき=フリッカ)
を引き起こす可能性がある。

    設備への機械的ストレス

    急激な大電流は、モーターや駆動系の機械部品(シャフト、ギア、ベルトなど)に
    大きなトルク変動と衝撃を与える。
    これにより、部品の早期劣化や破損につながる可能性がある。

      電力会社への負担と電気料金

      始動電流は、電力会社の変圧器や配電線にも一時的な過負荷を与える。
      また、力率が悪化し、電力会社によっては電気料金の割増対象となる可能性もある。

        モーター自体の発熱

        大電流はモーターの巻線抵抗によって大きな熱を発生させる。
        始動時間が長すぎると、モーターの巻線が過熱し、絶縁劣化や焼損につながる危険性がある。

          始動電流の対策(始動方法)

          直入れ始動(全電圧始動)

          • モーターに直接定格電圧を印加する最もシンプルな方法。

          メリット: 構成がシンプルでコストが安い。

          デメリット: 始動電流が最も大きく、機械的衝撃も大きい。
          電源容量に余裕がある小型モーターや、始動頻度が低い場合にのみ適用される。

          スターデルタ始動(Y-Δ始動)

          • 三相誘導電動機の最も一般的な始動方法です。

          原理

          始動時にはモーターの巻線をスター(Y)結線とし、定格回転数に近づいたところでデルタ(Δ)結線に切り替える。スター結線時は、モーター巻線にかかる電圧が相電圧(線間電圧の1/3​倍)になるため
          電流が定格の1/3に抑制される。トルクも1/3になる。

          メリット: 始動電流が直入れの約1/3に抑制される。比較的コストが抑えられる。

          デメリット: 始動トルクも小さくなる。スターからデルタへの切り替え時に
          電流やトルクの変動(サージ)が発生する可能性がある。

          リアクトル始動 / 補償器始動(コンペンセータ始動)

          • 原理: モーターと電源の間にリアクトルコイル)または始動用変圧器(オートトランス)を挿入し
               始動時に電圧を降下させて電流を抑制する。

          メリット: 始動電流の抑制効果が高い。複数段階で電圧を切り替えることで、より滑らかな始動も可能。

          デメリット: 装置が大型になり、コストが高い。

          ソフトスタータ(Soft Starter)

          • 原理: サイリスタなどの半導体素子を用いて、モーターへの印加電圧を徐々に上昇させることで、電流とトルクを滑らかに制御する。

          メリット: 非常に滑らかな始動が可能で、機械的衝撃を大幅に低減できる。
               始動電流のピーク値を低く抑えられる。

          デメリット: 比較的高価。高調波発生の原因となることがある。

          インバータ始動(Variable Frequency Drive; VFD)

          原理: 電源の周波数と電圧を同時に制御することで、モーターの回転速度を任意に調整できる装置。
          始動時には、周波数と電圧を低い状態から徐々に上げていくため、始動電流を定格電流に近い値に抑えながら
          スムーズな加速が可能。

          メリット: 最も滑らかで効率的な始動が可能。始動電流をほぼ定格電流に抑えられる。
          運転中の速度制御や省エネルギー化も実現できる。

          デメリット: 最も高価。高調波発生源となりやすい。

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