高圧進相コンデンサの絶縁劣化についてのまとめ

高圧進相コンデンサは、工場の力率改善や電気料金の削減に貢献する重要な設備だが
経年劣化や異常な電気的ストレスによって絶縁劣化が進行し
最終的には故障に至る可能性がある。

絶縁劣化のメカニズムと原因

絶縁劣化のメカニズム

  • 素子内部の絶縁破壊
    コンデンサの内部素子は、複数の誘電体(絶縁紙やプラスチックフィルム)と
    電極(金属箔や蒸着金属膜)から構成されている。
    これらが繰り返し電圧印加されることで、微小な部分から絶縁が破壊されていく

  • 過電流の増加
    内部素子の絶縁破壊が進行すると、その部分に電流が集中し、過電流が増加する。

  • 焼損・炭化とガス化
    過電流によって素子が焼損・炭化し、内部アーク熱が発生する。
    これにより、絶縁油が分解されてガスが発生し、コンデンサ内部の内圧が上昇する

  • ケースの膨張・破壊
    内圧の上昇が限界を超えると、コンデンサ容器が膨張し、最終的に容器やブッシングが破壊に至る。
    これが故障(短絡・地絡)となる。

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MULTI 計器総合カタログより画像引用

絶縁劣化の原因

  • 経年劣化
  • コンデンサは一旦電源が投入されると常に全負荷で稼働し続け
    開閉のたびに大きな突入電流や過渡過電圧にさらされる。
    これにより、内部の絶縁体が徐々に劣化する。
    ※一般的に、高圧進相コンデンサの更新推奨時期は「15年」とされている。

  • 高調波:
    系統に含まれる高調波成分は、コンデンサに流入し、過熱や絶縁破壊を促進する可能性がある。
    特に、特定の高調波次数(第5高調波など)とコンデンサの容量が共振すると
    過大な電流が流れ、劣化が加速する。

  • 過電圧・突入電流
    電路の開閉時などに発生する過電圧や突入電流は
    コンデンサの絶縁体に大きなストレスを与え、劣化の原因となる。

  • 油漏れ
    油入式のコンデンサの場合、ケースからの油漏れは絶縁劣化や絶縁破壊の大きな要因となる。
    油が漏れると密閉状態が保てなくなり、絶縁性能が低下する。

  • ケースの発錆・腐食
    ケースの発錆や腐食は油漏れの原因となるため、これも絶縁劣化につながる。

  • 保守不備
    定期点検の不実施や
    劣化兆候が見られるコンデンサの交換を行わないなどの保守不備も事故の原因となる。

絶縁劣化の影響

高圧進相コンデンサの絶縁劣化は、以下のような影響を及ぼす。

  • 力率悪化
    コンデンサが正常に機能しなくなることで、設備の力率が低下し
    電気料金の割引が受けられなくなる、または割増料金が発生する可能性がある。

  • 故障・停電
    絶縁劣化が進行すると、最終的にコンデンサが短絡・地絡故障を起こし
    波及事故(工場全体の停電など)を引き起こす可能性がある。

  • 機器への悪影響
    高調波による影響が増大し
    他の電気機器(変圧器、電動機など)の過熱や誤動作寿命短縮につながる場合がある。

  • 火災
    内部の素子の焼損やアーク放電が激しくなると、火災が発生するリスクもある。

絶縁劣化の診断方法

コンデンサの絶縁劣化を早期に発見し
事故を未然に防ぐためには、定期的な点検と適切な診断が重要となる。

目視点検

  • ケースの膨らみ
    コンデンサは劣化が進むと膨らむ性質がある。
    特に高圧進相コンデンサは膨らみが顕著に出やすいので、ケースの変形を確認する。
  • 油漏れ
    油入式コンデンサの場合、油漏れの有無を確認する。
  • 発錆・腐食
    ケースの発錆や腐食がないかを確認する。
  • 接続端子の過熱変色・緩み
    端子部分に異常がないかを確認する。

絶縁抵抗測定

  • 絶縁抵抗計(5000Vまたは10000Vが一般的)を用いて
    全端子一括間とケース間の絶縁抵抗値を測定する。
  • 一般的に、1000MΩ以上あれば問題ないとされているが
    停電年次点検の際には碍子の清掃を十分に行う必要がある。
    ※絶縁抵抗の低下を防ぐため。

その他の診断方法

  • 静電容量測定
    静電容量が低下している場合、劣化が進行している可能性がある。

  • 損失角(tanδ)測定
    絶縁体の状態を評価する指標で、絶縁劣化が進むと損失角が大きくなる。

  • 部分放電測定
    絶縁体内部で発生する微小な放電を検出し、絶縁劣化の初期段階を診断する。

  • 熱画像診断(サーモグラフィ)
    コンデンサの表面温度を測定し、異常な発熱がないかを確認する。
    部分的な発熱は絶縁劣化の兆候である可能性がある。

  • 異常音
    「チリチリ」「シューシュー」といった異常音は
    内部で放電が発生している可能性がある。

絶縁劣化への対策

  • 計画的な更新
    日本電機工業会は、高圧進相コンデンサ設備の更新時期を「15年」と推奨している。
    推奨時期を目安に、計画的な更新を実施することが重要となる。

  • 直列リアクトルの設置
    高調波による影響を抑制するため、コンデンサと直列にリアクトルを挿入することが一般的。
    これにより、高調波に対して回路が誘導性になり、波形歪の拡大を抑制し
    コンデンサへの高調波電流の流入を低減する。
    また、突入電流の抑制や開閉時の再点弧防止にも効果がある。

  • 高圧限流ヒューズ(PF)の設置
    コンデンサ内部の素子破壊が進行した場合の二次災害(短絡・地絡事故)を防止するため
    回路に高圧限流ヒューズを設置することが推奨されている。
    ただし、蒸着電極コンデンサ(SHコンデンサ)の場合、自己回復機能により大きな事故電流が流れにくいため
    限流ヒューズの施設が不要な場合もある。

  • 保護装置の内蔵
    最近のコンデンサには、内部圧力が上昇した際に電流通路を遮断する保安装置が内蔵されているものもある。

  • 定期的な点検と診断
    前述の診断方法を参考に、定期的にコンデンサの状態を点検・診断し
    異常を早期に発見することが重要となる。

  • 適切な選定
    高調波成分の多い設備では、高調波対策が施されたコンデンサや
    直列リアクトルとの組み合わせを検討するなど
    荷や系統の状態に応じた適切なコンデンサを選定することが重要です。

  • メーカーの推奨事項の遵守
    コンデンサメーカーの取扱説明書や推奨する点検・保守方法を遵守することが
    寿命を延ばし、安全性を確保するために不可欠となる。
名無し管理事務所