地絡(漏電)の基礎知識まとめ(発生メカニズム・保護協調・探査手法)

「地絡」と「漏電」の違いと定義

一般的には「漏電」という言葉で馴染み深い現象だが
電気技術の世界では「地絡」という言葉が持つ意味や影響範囲は広く
低圧設備から高圧受電設備まで、それぞれのステージで異なる保護対策が求められる。

一般に「地絡」と「漏電」は同じ意味で使われることが多いが
電気工学や実務の現場では、ニュアンスや使われる対象が異なる。

  • 漏電(Electric Leakage)
    主に低圧設備(家庭や一般店舗など)において、電線や電気機器の絶縁が劣化・破損し
    電気が本来の回路以外(機器の金属外箱や建物の建材など)に漏れ出ている「状態」。
  • 地絡(Ground Fault)
    電路と大地(グラウンド)との間の絶縁が著しく低下し
    アース(大地)を通って電流が流れる「事故現象」を指す。
    ※高圧・特別高圧の電力系統においては、漏電とは呼ばず「地絡事故」と呼ぶことが多い。

簡単に言えば、「大地を帰路とする閉回路が形成され、意図しない電流が流れる現象」の総称が
地絡であり、そのうち低圧設備での現象を一般的に漏電と呼んでいることが多い。

地絡が発生する電気的メカニズム

B種接地工事と地絡の閉回路

配電用変圧器の低圧側(二次側)の1線には
混触による異常電圧上昇を防ぐために「B種接地工事」が施され、大地と繋がっている。

もし、負荷側(モーターや家電など)で絶縁不良が起こり
電気が機器の外箱(D種接地などが施されている)や建物の鉄骨を通じて大地に漏れ出ると
以下のルートで電気が流れます。

【電源(変圧器)】→【充電部】→(絶縁破壊)→【機器外箱・大地】→【B種接地線】→【電源(変圧器)】

大地を巨大な導体として利用し
電気の帰り道(閉回路)が形成されてしまうことが地絡の正体となる。

地絡の主な種類

地絡はその状態によって大きく3つに分類される。

  1. 完全地絡(デッドグラウンド)
    電線が直接大地や接地された金属に接触し
    地絡抵抗がほぼ0Ωになった状態。非常に大きな地絡電流が流れる。
  2. 不完全地絡
    絶縁物の劣化や水分の付着などにより、ある程度の抵抗値(数kΩ〜数MΩ)を持った状態で漏れ出ている状態。
    発熱を伴い、火災の原因になりやすいのがこのパターンとなる。
  3. 間欠(かんけつ)地絡
    風での電線の揺れや、一時的な水濡れなどにより
    地絡が起きたり直ったりを繰り返す状態。
    原因箇所が特定しづらく、実務者を悩ませる厄介な現象。

地絡がもたらす2つの危険性(感電と火災)

地絡(漏電)を放置すると
「感電」と「火災」という2つの命に関わる事故に直結する。

① 感電リスクと人体への影響

人間の体が充電部と大地に同時に触れることで
人体を通って地絡電流が流れる現象が「感電」となる。
人体への影響は流れる電流の大きさと時間によって決まる。

  • 1mA: 感知電流(ピリッと感じる)
  • 5mA: 苦痛を感じる
  • 10〜20mA: 筋肉が痙攣し、自力で離れられなくなる(不随意電流)
  • 50mA〜100mA: 心室細動(心臓の痙攣)を起こし、致命傷となる

後述する「漏電遮断器」の感度が「15mA」や「30mA」に設定されているのは
人が自力で電源から離れられなくなる前、あるいは心室細動に至る前に回路を遮断するため。

② 地絡火災のメカニズム

不完全地絡が発生すると、漏れ出た電流(地絡電流 Ig)が流れる経路の抵抗(接触抵抗 Rg)によって
ジュールの法則に基づいた熱が発生する。

発熱量 Q = Ig^2 × Rg × t [J]

この熱が周囲の木材やホコリを引火点まで熱することで火災に至る。

実際は、ほとんどの現代の建物には漏電遮断器が設置されており
地絡が発生すれば瞬時に(0.1秒以内など)回路が切り離される。
そのため、純粋な漏電による火災は、古い建物や漏電遮断器が未設置の回路を除けば減少傾向にある。

地絡が発生する主な原因

  1. 物理的・外的な損傷
    • 「オフィスで椅子をフロアコンセントにぶつけて配線が剥き出しになった」
    • 「ネズミなどの小動物がケーブルをかじった」
    • 「ステップル(配線留め)をきつく打ちすぎて絶縁被覆を突き破った」
  2. 水分・湿気の浸入
    • 「雨漏りにより天井裏のジョイントボックスが水没した」
    • 「清掃業者が床にワックスをかけた際、フロアコンセント内に水分が浸入した」
    • 「屋外の防水コンセントのパッキンが劣化し、雨水が浸入した」
  3. 機器の経年劣化
    • 古いモーターやヒーターなどの絶縁材(エナメルや樹脂)が熱や振動で劣化し、外箱に電気が漏れるケース。

低圧設備における地絡保護(漏電遮断器:ELCB)

動作原理:ZCT(零相変流器)の仕組み

漏電遮断器の内部には、「ZCT(零相変流器)」というドーナツ状のセンサーが入っており
行きと帰りの電線(単相なら2本、三相なら3本)をまとめて貫通させている。

  • 正常時
    行きの電流と帰りの電流は等しいため
    ZCT内で発生する磁界は打ち消し合いゼロになる。
  • 地絡発生時
    行きの電流の一部が大地に漏れてしまうため、帰りの電流が少なくなる。
    この「行きと帰りの差分(零相電流)」をZCTが検知し
    設定値を超えるとトリップコイルを動作させて回路を遮断する。

回路分割と実務的な工夫

地絡が発生すると、漏電遮断器が動作して対象回路が停電する。
仮に分電盤の主幹(メイン)にのみ漏電遮断器が付いていると
末端の1箇所の地絡で建物全体が停電する「全停電」を引き起こし、業務に甚大な被害をもたらす可能性がある。

  • 夜中に停電し、飲食店の業務用冷蔵庫の食材が全滅した。
  • 病院の診察中や機器稼働中に停電し、人命に関わる事態になりかけた。
  • データセンターやサーバー室で予期せぬシャットダウンが発生した。

実務での対策

水回り(厨房、トイレ、屋外など)や重要機器の回路には
メインではなく分岐回路(子ブレーカー)ごとに個別の漏電遮断器(分岐漏電ブレーカー)を設置することが
強く推奨される。これにより、地絡が発生しても被害をその回路のみに局所化(保護協調)が可能となる。

高圧設備における地絡保護(波及事故の防止)

工場やビルなど、キュービクル(高圧受電設備)を持つ施設(高圧需要家)では
低圧側とは異なる地絡保護が求められる。

高圧(6600V)での地絡は、エネルギーが桁違いに大きく
放置すれば自社だけでなく周辺地域一帯を停電させる「波及事故」に発展する。
波及事故を防ぐために、地絡継電器(GR / DGR)と高圧交流負荷開閉器(PAS / UGS)の設置が必要となる。

  • 責任分界点での保護
    電力会社からの電気を引き込む電柱(責任分界点)にPAS(気中開閉器)などを設置する。
    施設内で高圧地絡が発生した場合、PASに内蔵されたZCTとDGR(地絡方向継電器)が連携し
    電力会社の変電所の遮断器が落ちるよりも早く、自施設の切り離しを行う。
  • DGR(地絡方向継電器)の必要性
    高圧ケーブルが長い場合、他所で起きた地絡による「もらい事故」で自社のブレーカーが誤動作することがある。これを防ぐため、電流だけでなく「電圧の方向(零相電圧:ZPDで検出)」も同時に監視し
    自社側の事故なのか他所からの事故なのかを判別できるDGRが現在では主流となっている。

法令における設置義務と最新動向

電気設備技術基準の解釈(電技解釈第29条、第40条など)により
漏電遮断器の設置は厳密に規定されている。

  • 義務付けられる場所
    「金属製外箱を有する使用電圧が60Vを超える低圧の機械器具に接続する電路」や
    「水気のある場所(浴室、厨房など)」には
    地絡を生じた際に自動で電路を遮断する装置(ELCB)の施設が義務付けられている。
  • 接地工事の省略要件
    最新のガイドラインでは、高感度・高速形(例:感度電流15mA、動作時間0.1秒以内)の漏電遮断器を水気のある場所以外に設置するなどの条件を満たせば、D種接地工事を一部省略できるケースも明記されている。
    ※安全性を考慮すれば接地工事は可能な限り実施が推奨。
  • 有資格者による作業
    漏電遮断器の設置、交換、ならびにコンセント周りの修繕などは「電気工事士」の資格が必須となる。
    ※無資格での作業は法令違反であるだけでなく、重大な感電リスクを伴う。

実務における地絡の測定・探査手法

① 絶縁抵抗計(メガー)による停電探査

回路を停電させた状態で
絶縁抵抗計(メガー)を用いて電路と大地の間の抵抗値を測定する。

低圧回路の場合、電気設備技術基準により
対地電圧150V以下なら0.1MΩ以上
300V以下なら0.2MΩ以上といった基準値が定められており
測定して基準値以下の回路(例:0.01MΩなど)があれば、そこに地絡の疑いがある。
さらに配線を分割しながら測定を繰り返し、不良箇所を特定していく。

② リーククランプメーターを用いた活線探査

「業務中でどうしても停電させられない」という場合に活躍するのが
漏れ電流(リーク電流)を測定できる高感度なクランプメーターです。

分電盤内で、単相なら2本、三相なら3本の電線を一括してクランプ(挟む)して
ZCTの原理と同じく、正常なら0mAだが、地絡していれば行き帰りの差分がmA単位で表示される。
分岐回路を順番にクランプしていくことで、停電させることなく漏電している回路の特定が可能。

参考資料

  • 経済産業省:「電気設備の技術基準の解釈」(第14条 絶縁抵抗値、第29条・第40条 地絡遮断装置の施設 等)
  • 独立行政法人 労働安全衛生総合研究所 / IEC 60479-1(人体に流れる電流値と感電の危険性)
  • 公益社団法人 日本電気技術者協会:電気技術解説資料(地絡・漏電・保護協調)
  • 各地域の電気保安協会:漏電および波及事故防止に関する技術資料
  • 各種メーカー技術資料(三菱電機・パナソニック等):漏電遮断器、地絡方向継電器(DGR)の動作原理
ななし

はじめまして、当ブログ「名無し電気管理事務所」を運営している名無しと申します。 ここでは、私の経歴や当ブログの運営目的についてご紹介します。 1. 保有資格 実務に関わる以下の国家資格を保有しています。 第3種電気主任技術者(2023年取得) 第1種電気工事士 建築物環境衛生管理技術者 2. 経歴・実務経験 電気保安・ビルメンテナンスの業界で約7年の実務経験があります。 現在は電気保安法人にて、保安業務従事者として勤務しています。