一般的には「漏電」という言葉で馴染み深い現象だが
電気技術の世界では「地絡」という言葉が持つ意味や影響範囲は広く
低圧設備から高圧受電設備まで、それぞれのステージで異なる保護対策が求められる。
一般に「地絡」と「漏電」は同じ意味で使われることが多いが
電気工学や実務の現場では、ニュアンスや使われる対象が異なる。
B種接地工事と地絡の閉回路
配電用変圧器の低圧側(二次側)の1線には
混触による異常電圧上昇を防ぐために「B種接地工事」が施され、大地と繋がっている。
もし、負荷側(モーターや家電など)で絶縁不良が起こり
電気が機器の外箱(D種接地などが施されている)や建物の鉄骨を通じて大地に漏れ出ると
以下のルートで電気が流れます。
【電源(変圧器)】→【充電部】→(絶縁破壊)→【機器外箱・大地】→【B種接地線】→【電源(変圧器)】
大地を巨大な導体として利用し
電気の帰り道(閉回路)が形成されてしまうことが地絡の正体となる。
地絡はその状態によって大きく3つに分類される。
地絡(漏電)を放置すると
「感電」と「火災」という2つの命に関わる事故に直結する。
① 感電リスクと人体への影響
人間の体が充電部と大地に同時に触れることで
人体を通って地絡電流が流れる現象が「感電」となる。
人体への影響は流れる電流の大きさと時間によって決まる。
後述する「漏電遮断器」の感度が「15mA」や「30mA」に設定されているのは
人が自力で電源から離れられなくなる前、あるいは心室細動に至る前に回路を遮断するため。
② 地絡火災のメカニズム
不完全地絡が発生すると、漏れ出た電流(地絡電流 Ig)が流れる経路の抵抗(接触抵抗 Rg)によって
ジュールの法則に基づいた熱が発生する。
発熱量 Q = Ig^2 × Rg × t [J]
この熱が周囲の木材やホコリを引火点まで熱することで火災に至る。
実際は、ほとんどの現代の建物には漏電遮断器が設置されており
地絡が発生すれば瞬時に(0.1秒以内など)回路が切り離される。
そのため、純粋な漏電による火災は、古い建物や漏電遮断器が未設置の回路を除けば減少傾向にある。
動作原理:ZCT(零相変流器)の仕組み
漏電遮断器の内部には、「ZCT(零相変流器)」というドーナツ状のセンサーが入っており
行きと帰りの電線(単相なら2本、三相なら3本)をまとめて貫通させている。
回路分割と実務的な工夫
地絡が発生すると、漏電遮断器が動作して対象回路が停電する。
仮に分電盤の主幹(メイン)にのみ漏電遮断器が付いていると
末端の1箇所の地絡で建物全体が停電する「全停電」を引き起こし、業務に甚大な被害をもたらす可能性がある。
実務での対策
水回り(厨房、トイレ、屋外など)や重要機器の回路には
メインではなく分岐回路(子ブレーカー)ごとに個別の漏電遮断器(分岐漏電ブレーカー)を設置することが
強く推奨される。これにより、地絡が発生しても被害をその回路のみに局所化(保護協調)が可能となる。
工場やビルなど、キュービクル(高圧受電設備)を持つ施設(高圧需要家)では
低圧側とは異なる地絡保護が求められる。
高圧(6600V)での地絡は、エネルギーが桁違いに大きく
放置すれば自社だけでなく周辺地域一帯を停電させる「波及事故」に発展する。
波及事故を防ぐために、地絡継電器(GR / DGR)と高圧交流負荷開閉器(PAS / UGS)の設置が必要となる。
電気設備技術基準の解釈(電技解釈第29条、第40条など)により
漏電遮断器の設置は厳密に規定されている。
① 絶縁抵抗計(メガー)による停電探査
回路を停電させた状態で
絶縁抵抗計(メガー)を用いて電路と大地の間の抵抗値を測定する。
低圧回路の場合、電気設備技術基準により
対地電圧150V以下なら0.1MΩ以上
300V以下なら0.2MΩ以上といった基準値が定められており
測定して基準値以下の回路(例:0.01MΩなど)があれば、そこに地絡の疑いがある。
さらに配線を分割しながら測定を繰り返し、不良箇所を特定していく。
② リーククランプメーターを用いた活線探査
「業務中でどうしても停電させられない」という場合に活躍するのが
漏れ電流(リーク電流)を測定できる高感度なクランプメーターです。
分電盤内で、単相なら2本、三相なら3本の電線を一括してクランプ(挟む)して
ZCTの原理と同じく、正常なら0mAだが、地絡していれば行き帰りの差分がmA単位で表示される。
分岐回路を順番にクランプしていくことで、停電させることなく漏電している回路の特定が可能。
- 経済産業省:「電気設備の技術基準の解釈」(第14条 絶縁抵抗値、第29条・第40条 地絡遮断装置の施設 等)
- 独立行政法人 労働安全衛生総合研究所 / IEC 60479-1(人体に流れる電流値と感電の危険性)
- 公益社団法人 日本電気技術者協会:電気技術解説資料(地絡・漏電・保護協調)
- 各地域の電気保安協会:漏電および波及事故防止に関する技術資料
- 各種メーカー技術資料(三菱電機・パナソニック等):漏電遮断器、地絡方向継電器(DGR)の動作原理