零相過電圧を理解するために「零相」とは何かから説明していく必要がある。
三相交流システムでは、各相(R相、S相、T相)の電圧や電流は
通常、互いに120度の位相差を持っている。
零相過電圧とは
三相交流システムにおいて、各相の電圧が不平衡になった結果、大地に対して同相で現れる過電圧のことを指す。
簡単に言えば、通常ゼロであるはずの各相電圧のベクトル和がゼロにならず、大地に対して浮き上がる(電圧が発生する)現象のこと。
零相過電圧は、主に以下のような電力系統の異常時に発生する。
地絡事故(一線地絡、二線地絡など)
・一線地絡: 三相のうち一相が大地に接触(短絡)する事故が最も一般的で、零相過電圧の主要な原因となる。
健常相(地絡していない相)の対地電圧が上昇する。
非接地系統や抵抗接地系統では、健全相の対地電圧が相電圧の3倍(線間電圧レベル)まで上昇することがある。
この時、地絡電流が流れるが、この電流が零相電流として検出される。
・二線地絡: 二相が同時に大地に接触する事故でも、零相過電圧が発生する。
開閉サージによる過電圧
送電線の開閉(投入・開放)時に発生する過渡的な電圧変動によって
零相過電圧が発生することがある。特に、無負荷送電線の開放時などに発生しやすい。
非接地系統におけるフェランチ効果
フェランチ効果は、軽負荷時の送電線で受電端電圧が送電端電圧よりも高くなる現象だが
非接地系統においてこれが生じると、健全相の対地電圧が異常に上昇し、零相過電圧として現れることがある。
変圧器の励磁突入電流
変圧器の投入時に発生する大きな励磁突入電流が、系統のインピーダンスと結合して
一時的な零相過電圧を引き起こすことがある。
系統の不平衡状態
送電線の断線や不平衡な負荷によって、系統全体の電圧バランスが崩れると
定常的な零相電圧が発生することがある。
零相過電圧は、電力系統の安定性や機器の健全性に重大な影響を与える可能性があります。
機器の絶縁破壊・劣化
定格電圧を超える過電圧が電力機器(変圧器、ケーブル、遮断器など)に印加されると
絶縁がストレスを受け、劣化が加速する。
最悪の場合、絶縁破壊を引き起こし、機器の故障や更なる事故(多重事故)につながります。
変圧器の過励磁
変圧器の鉄心に過大な磁束が加わり、異常発熱、騒音、振動の原因となる。
保護継電器の誤動作
零相過電圧を検出する保護継電器(零相過電圧継電器: OVR)が誤って動作し
健全な回線を遮断してしまう可能性がある。
逆に、零相過電圧継電器が正しく動作しないと、地絡事故が継続し、被害が拡大する恐れがある。
通信線への誘導障害
零相電流(地絡電流)が流れると、その磁界によって近傍の通信線に誘導電圧が発生し
通信障害や通信機器の損傷を引き起こすことがある。
アーク地絡による間欠アーク発生
非接地系統などでは、地絡点でのアーク放電が不安定になり
断続的に地絡が発生・消滅を繰り返す「間欠アーク地絡」と呼ばれる現象が起こることがある。
これにより、非常に大きな過電圧(アーク地絡過電圧)が発生し
健全相の対地電圧がさらに異常に上昇する可能性がある。
中性点接地方式の適切な選択
避雷器(サージアブソーバ)の設置
開閉サージや雷などによる過電圧から機器を保護するために、変電所や重要な機器の近くに避雷器が設置される。
避雷器は、異常電圧が発生した際に瞬時に導通し、過電圧を大地に放電することで、機器の絶縁を保護する。
零相過電圧継電器(OVR)による保護
地絡電流抑制対策
抵抗接地や消弧リアクトル接地は、地絡電流を抑制することで
地絡点でのアークの継続を防ぎ、ひいては過電圧の発生を抑制する効果がある。
絶縁レベルの強化
機器の設計において、想定される過電圧に耐えうる十分な絶縁レベルを確保することも重要となる。