「中性点非接地方式」は、電力系統における接地方式の一つで
三相交流回路のY結線(スター結線)変圧器の中性点を大地に接続しない方式を指す。
日本では、高圧配電系統(6.6kVなど)で広く採用されている。
目次
中性点非接地方式の仕組み

中性点非接地方式では
変圧器の中性点と大地との間に意図的に接続がない。
このため、電路と大地との間には、電線や機器の絶縁によって生じる
わずかな「対地静電容量」が存在する。
- 通常時
健全な状態では、各相の電圧は平衡しており、対地静電容量を通る電流も平衡しているため
大きな電流は流れない。 - 1線地絡事故時
1つの相(例えばR相)が地絡した場合、その相の電位は大地電位(0V)になる。
中性点が接地されていないため、地絡点から大地へ直接流れる短絡電流の経路がない。
その代わりに、地絡していない健全な他の2相(S相とT相)から
それぞれの対地静電容量を介して大地に「充電電流」が流れる。
この充電電流=地絡電流となる。
中性点非接地方式のメリット・デメリット

中性点非接地方式のメリット
- 地絡電流が小さい
地絡事故が発生しても、地絡電流が非常に小さいため、火災や感電のリスクが低減される。
事故点における設備損傷が小さく抑えられる。
高圧線と低圧線を共架している配電線において、高圧側地絡時の低圧側への電位上昇を抑制し、
混触時の危険性を低減できる。 - 停電範囲の限定
1線地絡事故が発生しても、直ちに系統が遮断されるわけではない。
地絡電流が小さいため、一時的な地絡であれば自力でアークが消滅することもある。
この特性により、瞬間的な地絡であれば、停電せずに運転を継続できる可能性がある。
(ただし、異常電圧の問題があるため、適切な対策が必要)。 - 通信線への電磁誘導障害が少ない:
- 地絡電流が小さいため、通信線などへの電磁誘導障害(ノイズなど)がほとんど発生しない。
これは、電力線と通信線が近接して敷設されることが多い日本の配電系統において重要なメリットとなる。
- 地絡電流が小さいため、通信線などへの電磁誘導障害(ノイズなど)がほとんど発生しない。
- 変圧器の結線に自由度がある:
中性点非接地方式のデメリット
- 地絡事故の検出が難しい
地絡電流が小さすぎるため、一般的な過電流リレーでは検出が困難。
このため、地絡過電圧リレー(OVGR)や地絡方向リレー(DGR)といった
より高感度で特殊なリレーを用いて地絡を検出する必要がある。 - 健全相の対地電圧上昇
1線地絡事故が発生すると、健全な他の2相の対地電圧が
通常時の相電圧の3倍(線間電圧に等しい)まで上昇する。
そのため系統の絶縁レベルは線間電圧に基づいて設計する必要がある。
機器の絶縁耐力に余裕を持たせる必要がある。 - 異常電圧の発生リスク
1線地絡事故時に、地絡点のアークが
断続的に発生・消滅を繰り返す「間欠アーク地絡」と呼ばれる現象が起こることがある。
この間欠アーク地絡は、高周波の異常電圧(サージ電圧)を発生させ
系統内の機器に過大なストレスを与え、絶縁破壊を引き起こす可能性がある。
特に、架空線路が長い系統や、ケーブルが多く対地静電容量が大きい系統で発生しやすくなる。 - 絶縁監視の必要性
地絡電流が小さく、直ちに遮断されない可能性があるため、絶縁劣化を早期に発見するための
絶縁監視装置が必要となる場合がある。
これにより、事故の拡大を防ぎ、計画的な保守に繋げることができる。
中性点接地方式の比較まとめ

中性点接地方式は、電力系統において変圧器や発電機の中性点を大地に接続する方法であり
その接続方法によって「非接地」「抵抗接地」「消弧リアクトル接地」「直接接地」の4種類に大別される。
それぞれの方式は
●地絡事故発生時の挙動(地絡電流の大きさ、健全相の対地電圧上昇)
●保護協調
●機器の絶縁設計
●経済性
などに大きな違いをもたらす。

日本の配電系統での採用状況

日本では、高圧配電系統(6.6kV)において中性点非接地方式が主流となる。
中性点非接地方式が主流な理由
- 架空線路が多い: 架空線路は、大地との間に十分な距離があるため、地絡電流を小さく抑えやすい。
- 通信線との共架: 電力線と通信線が近接して敷設されることが多いため、電磁誘導障害の抑制が重要。
- 停電の回避: 短時間のアーク地絡であれば、瞬時停電を避けて供給を継続したいという運用思想がある。

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