「間欠アーク地絡(Intermittent Arc Ground Fault)」は
主に中性点非接地方式の電力系統で発生する特有の地絡事故現象のこと。
地絡点におけるアーク(放電)が、断続的に発生・消滅を繰り返すことによって
系統に異常な過電圧を発生させる現象を指す。
目次
間欠アーク地絡発生のメカニズム

中性点非接地方式では、一線地絡事故が発生しても
地絡電流は系統の対地静電容量を通じて流れる充電電流のみとなり、非常に小さいのが特徴。
この微小な電流が、間欠アーク地絡の発生に深く関わっている。
間欠アーク地絡の発生原理
- 地絡発生とアークの発生
電線と大地(または接地された構造物)の間で絶縁が破壊され、アーク放電が発生する。
例えば、電線が樹木に触れる、がいしにピンホールが生じる、送電線が揺れて構造物に接触するなど。 - アークの消滅
地絡電流が非常に小さい(特に充電電流が主成分)ため
交流電圧のゼロクロス点(電流がゼロになる瞬間)でアークが自然に消滅しやすい特性がある。
これは、アークが維持されるのに十分な電流が供給されなくなるため。 - 健全相の対地電圧上昇
アークが消滅すると、一時的に地絡が解消される。
しかし、その直前に地絡相の電位が大地電位(ほぼゼロ)に張り付いていたため
健全な2相の対地電位は、通常の相電圧の3倍まで上昇したままの状態となる。
- アークの再点弧と過電圧の発生
アークが消滅した後、健全相の対地電圧が高い状態のまま、地絡点に再び高電圧がかかることで
アークが再点弧する。このとき、回路内に存在するインダクタンスとキャパシタンスによる共振現象が発生し
過渡的な高周波振動電圧が生じる。
この過電圧は元の線間電圧の数倍に達することもある。 - 繰り返しと累積
この「アーク発生→アーク消滅→健全相の電圧上昇→アーク再点弧→過電圧発生」のサイクルが
短時間に何度も繰り返されることで、異常な過電圧が間欠的に発生し続ける。
間欠アーク地絡の問題点

- 機器の絶縁破壊
継続的な異常過電圧は、変圧器、ケーブル、がいしなどの電力機器の絶縁を劣化させ
最終的に絶縁破壊を引き起こす可能性がある。
これにより、地絡事故が相間短絡事故などに発展することもある。 - 保護の困難さ
地絡電流が間欠的かつ微小であるため、通常の地絡保護継電器では検出が難しく
事故の発見や除去が遅れる原因となる。
また不必要な動作や、逆に動作しないといった問題が生じることがある。 - 通信障害
高周波の異常電圧は、近接する通信線に電磁誘導障害を引き起こす可能性がある。 - 設備へのストレス
間欠的な過電圧は、系統全体の機器に電気的ストレスを与え、寿命を縮める可能性がある。
間欠アーク地絡への対策

間欠アーク地絡は中性点非接地方式の最大のデメリットの一つであるため、その対策が重要となる。
- 接地用変圧器(EVT)による高インピーダンス接地
日本の6.6kV配電系統で一般的に用いられる対策。
計器用変圧器(VT)の開放デルタ巻線に抵抗器を接続し、仮想的な中性点接地を行うことで
地絡時の零相電圧を検出する。
これにより、微小な地絡電流でも地絡事故を検出できるようになり、間欠アーク地絡の発生を抑制し
早期に事故を除去できる。 - 消弧リアクトル接地方式への移行
より大規模な系統や、地中線のように対地静電容量が大きい系統では
消弧リアクトル接地方式が採用されることがある。
これは、地絡電流を積極的に相殺することでアークの発生自体を抑制し
間欠アーク地絡による過電圧を防ぐ効果がある。 - 絶縁レベルの強化
間欠アーク地絡による過電圧に耐えられるよう、機器の絶縁レベルを高く設計することが考えられるが
これは経済的負担が大きくなるデメリットをもつ。 - 地絡保護継電器の高性能化
微小電流や高周波成分を検出できる、より高性能な地絡保護継電器の開発・導入が推奨される。 - 定期的な設備点検
がいしや電線の劣化など、地絡につながる要因を早期に発見し
補修することで事故の発生自体を防ぐことができる

コメント