進相コンデンサについての概略
進相コンデンサは
交流回路において力率(りきりつ)を改善するために使用されるコンデンサのこと。
別名「力率改善コンデンサ」とも呼ばれる。
交流回路では、電圧と電流の位相がずれることがあり
特にモーターや変圧器などの誘導性負荷(コイル成分を持つ機器)が多い工場やビルでは
電流の位相が電圧よりも遅れる「遅れ無効電力」が発生する。
この遅れ無効電力は、実際に仕事をする「有効電力」とは異なり、エネルギーを消費しない電力であり
電力会社の送電線や変圧器に余分な電流を流す原因となる。
進相コンデンサは、この遅れの無効電力と逆の性質を持つ「進み無効電力」を発生させることで、遅れ無効電力を打ち消し、回路全体の無効電力を少なくする役割を担う。
これにより、力率を改善し、電力の有効利用を促進する。
進相コンデンサの原理
進相コンデンサは、交流電源に接続されると
電圧に対して電流の位相が90度進む特性を持っている。
一方、誘導性負荷(モーターなど)では、電圧に対して電流の位相が遅れる。
進相コンデンサを誘導性負荷と並列に接続することで
コンデンサが発生する「進み無効電力」と、誘導性負荷が発生する「遅れ無効電力」が互いに打ち消し合い、全体の無効電力が減少する。
これにより、皮相電力に対する有効電力の割合が高まり、力率が改善される。
進相コンデンサを設置する目的とメリット
進相コンデンサを設置する主な目的は
力率を改善することであり、これにより様々なメリットが得られる。
メリット
- 電気料金の割引
多くの電力会社では、契約電力量に応じて基本料金が設定されており
力率が一定以上(例えば85%)改善されると、基本料金が割引される制度がある。
力率を改善することで、電気料金の削減に直結する。
- 電力設備の有効利用
力率が改善され、流れる電流が減少すると、構内の変圧器や配電線路に余裕が生まれる。
これにより、設備を増設しなくても、負荷の増設が可能になるなど、既存の電力設備を有効に活用できる。
- 電力損失の低減
電線路や変圧器には抵抗があるため、電流が流れると熱として電力が失われる(電力損失)。
力率が改善されて流れる電流が減ると、この電力損失が低減され、電力をより効率的に利用できる。
- 電圧の安定化
電力損失の低減と関連して、電線路での電圧降下も抑制される。
これにより、負荷側の電圧が安定し、電気機器の性能向上や誤動作の防止に繋がる。
- 高調波対策(直列リアクトルとの併用)
工場などで使用されるインバータや整流器などの非線形負荷からは
高調波という歪んだ電流が発生することがある。
進相コンデンサ単体では、高調波によって回路が共振し、コンデンサが損傷したり
他の機器に悪影響を与えたりする可能性がある。
そのため、一般的には直列リアクトルを進相コンデンサと組み合わせて設置し
高調波の抑制や突入電流の抑制を行う。
デメリット
- 過剰な力率進み
軽負荷時(例えば昼休みや夜間など、工場の稼働が少ない時間帯)に進相コンデンサを接続したままだと
負荷の遅れ無効電力よりも進相コンデンサの進み無効電力が大きくなり
力率が過剰に進んでしまう(進み力率になる)ことがある。
これにより、電力系統の電圧が上昇する「フェランチ効果」が発生し
機器の損傷や保護継電器の誤動作を引き起こす可能性がある。
そのため、負荷変動に応じてコンデンサの容量を切り替える
または自動力率調整装置(APFC)を導入するなどの対策が必要となる。
- 高調波との共振
高調波電流が多い環境では、進相コンデンサと系統インピーダンスが共振することで
過電流や過電圧が発生し、コンデンサや他の機器に損傷を与える可能性がある。
このため、直列リアクトルの設置が推奨される。
- 設備費用とメンテナンス
進相コンデンサ設備の導入には初期費用がかかる。
また、定期的な点検や保守が必要であり、故障した場合は交換が必要。
- 寿命
コンデンサは消耗品であり、使用環境や運転時間によって寿命があり
適切な時期に交換する必要がある。
進相コンデンサの種類と設置場所
進相コンデンサは、使用される電圧によって「低圧進相コンデンサ」と「高圧進相コンデンサ」に大別される。
また、設置場所によってもメリット・デメリットがある。
低圧進相コンデンサ
特徴
比較的容量が小さく、個別の負荷(モーターなど)の近くに設置されることが多い。
メリット
各負荷で発生する無効電力をその場で打ち消せるため、配電線路全体の電力損失低減効果が高い。
また、自構内で発生する高調波電流を吸収しやすくなる。
デメリット
設置台数が多くなる傾向があり
総コストやメンテナンスの手間が増える可能性がある。
高圧進相コンデンサ
- 高圧進相コンデンサ
特徴
大容量で、受変電設備の高圧側(主幹)に一括して設置されることが多い。
メリット
大容量のものを一括で設置できるため、設備コストやメンテナンス面で有利な場合がある。
デメリット
負荷変動に応じたきめ細かな力率調整が難しい場合がある。
また、高圧系統からの高調波障害の影響を受けやすいという側面もある。
※近年では、誘電体に局部的な絶縁破壊が生じても自己回復する「SHコンデンサ」や、環境に配慮した窒素ガス封入乾式コンデンサなども普及している。
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