基準電圧と試験電圧の違いについての備忘録

基準電圧について

継電器(リレー)試験における基準電圧(Reference Voltage)とは
主に方向性を持つ継電器(リレー)の試験において
位相角を測定・調整する際の土台となる電圧のこと。

特に、地絡方向継電器(DGR)逆電力継電器(RPR)など
電流の方向や位相を検知して動作するリレーの性能を正確に評価するために不可欠な要素となる。

基準電圧の役割と定義

基準電圧の役割

継電器試験はリレーが
「定められた電流が流れたとき」
「定められた電圧がかかったとき」
「定められた位相関係になったとき」
に、設定された時間内に動作するかを確認する。

基準電圧は、このうち「位相関係」を定めるために使用されることが多い。

位相角の基準

電流ベクトルがどちらの方向に流れているかを判断するため
リレーの端子に印加される電圧を位相 0°の基準として固定する。

リレーの動作安定化

方向性を持つリレーは、この基準電圧が印加されている状態でのみ
電流の位相を正確に検知して動作する。

基準電圧の値

試験で用いられる基準電圧の値は
原則としてリレーが接続されている回路の常用電圧(定格電圧)の実効値を使用する。

受電設備では、一般に計器用変圧器(VT)により一次側(6600V)から二次側(110V)に降圧されている。
よって多くの試験では、VTの二次側電圧である線間電圧 110V(または相電圧 63.5V)を基準電圧として印加する。

基準電圧が定格値からずれると、特に地絡方向継電器(DGR)などの感度が変わり
正確な位相角の測定に誤差が生じる可能性があるため、定格値に固定することが重要となる。

基準電圧を使用する主な試験

地絡方向継電器(DGR/OVGR)試験

地絡事故が発生した際、リレーは「零相電圧 V0​」と「零相電流 I0​」の位相関係から
事故が「構内」か「構外」かを判別する。

基準電圧

この場合の「基準」となるのは、通常、リレーの動作電圧(零相電圧 V0​)が使用される。
試験では、この V0​ の位相を 0° の基準とし、零相電流 I0​ の位相を変化させて
動作範囲(最大感度角など)を測定する。

逆電力継電器(RPR)試験

発電設備などで
構内から電力系統へ電力が逆流するのを防ぐリレーのこと。

基準電圧

リレーが接続されている線間電圧(VT二次側の 110V)を基準電圧として固定する。
試験では、この電圧を基準として、電流の位相を 180°(逆方向)などに設定し
リレーの動作を確認する。

基準電圧の印加方法

継電器試験を行う試験器(リレーテスター)には
通常、基準電圧を発生・調整する機能が備わっている。

基準電圧の設定

試験を開始する前に、まず試験機の設定により
リレー端子に定格の基準電圧(例:110V)を印加し、その位相を 0°に固定する。

試験電流の設定

基準電圧が固定された状態で、試験機により試験用の電流を流し
その電流の位相を 0° から 360° まで変化させる。

動作位相の測定

リレーが動作したときの電流の位相を記録することで
リレーの位相特性が設計通りであるかを確認する。

試験電圧について

継電器(リレー)試験における試験電圧(Test Voltage)は
試験の種類によってその役割と印加される値が大きく異なる。

主に、リレーの動作開始点を測定するため or リレーに定格の基準を与えるために使用される。

試験電圧の二つの主な役割

動作電圧(動作点)の測定

不足電圧継電器(UVR)過電圧継電器(OVR)など
電圧の変化によって動作するリレーの動作開始点を測定するために印加される電圧のこと。

UVR (不足電圧継電器)

規定電圧以下になった場合に動作するリレー。
試験では、定格電圧から徐々に電圧を下げていき、リレーが動作した瞬間の電圧値を測定する。
この電圧が設定値(整定値)の範囲内にあるかを確認する。

OVR (過電圧継電器)

規定電圧以上になった場合に動作するリレー。
試験では、定格電圧から徐々に電圧を上げていき、リレーが動作した瞬間の電圧値を測定する。

基準電圧としての利用(位相・方向性試験)

地絡方向継電器(DGR/OVGR)や逆電力継電器(RPR)など
電流と電圧の位相関係方向を検知して動作するリレーの試験で使われる。

上記試験時の試験電圧は電流位相の基準(0°)として使用され
その値はリレーが接続されている回路の定格電圧(VTの二次側電圧である110Vなど)に固定される。

基準電圧を固定した状態で、試験用の電流の位相を変化させ
リレーが正しく方向を判別するかどうか(最大感度角など)を測定する。
この場合の電圧は、リレーを動作させる役割よりも、基準を与える役割が主となる。

試験電圧の選定と印加方法

継電器試験で使用される電圧は、以下の定格値に基づく。

項目基準となる電圧備考
高圧受電設備110 V(線間電圧)または 63.5 V(相電圧)VT(計器用変圧器)の二次側定格電圧。多くのリレーの定格電圧となる。
地絡継電器零相電圧(事故時に発生する電圧)OVGRなどの地絡継電器の試験基準。

時限試験における印加

過電流継電器(OCR)や不足電圧継電器(UVR)などの時限特性を測定する試験では
リレーの設定値に対する所定の倍率の電圧(または電流)を瞬時に印加(突変)し
そこからリレーが実際に動作するまでの時間を測定
する。

動作電圧試験の場合

設定値の150%などの電圧を定格電圧の状態から一気に印加し
リレーの動作時間を測定する。

リレーの試験では、印加する電圧・電流がリレーの定格を超えて故障させないよう
細心の注意を払って試験機で調整される。
特に、方向性の試験では、電圧と電流の大きさだけでなく
位相を正確に制御すること
が最も重要となる。

基準電圧と試験電圧の違い一覧表

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