進相コンデンサは
交流回路において力率(りきりつ)を改善するために使用されるコンデンサのこと。
別名「力率改善コンデンサ」とも呼ばれる。
交流回路では、電圧と電流の位相がずれることがあり
特にモーターや変圧器などの誘導性負荷(コイル成分を持つ機器)が多い工場やビルでは
電流の位相が電圧よりも遅れる「遅れ無効電力」が発生する。
この遅れ無効電力は、実際に仕事をする「有効電力」とは異なり、エネルギーを消費しない電力であり
電力会社の送電線や変圧器に余分な電流を流す原因となる。
進相コンデンサは、この遅れの無効電力と逆の性質を持つ「進み無効電力」を発生させることで、遅れ無効電力を打ち消し、回路全体の無効電力を少なくする役割を担う。
これにより、力率を改善し、電力の有効利用を促進する。
進相コンデンサを設置する主な目的は
力率を改善することであり、これにより様々なメリットが得られる。
メリット
デメリット
突入電流について
コンデンサ投入時には高周波の過渡的な充電電流が流れる。
変圧器の励磁突入電流に比べて時定数が極めて小さいのですぐに減衰するが
投入瞬時には非常に大きな電流が流れる。
突入電流の最大値 Ip [A] は、次式で求められる。
Ic:コンデンサの定格電流(ピーク値)
Xc :コンデンサの基本波リアクタンス
XL :系統の基本波リアクタンス
コンデンサの容量を Q [kvar]
電源の短絡容量を S [kVA]
とすると、上の式は次で表すことができる。
計算例
短絡容量 100 [MVA}の場所に 100 [kvar]のコンデンサを設置した場合の突入電流は
となり、定格電流の 30 倍以上の電流が流れることになる。
大きい突入電流を抑制するためには、一般に直列リアクトルを使用する。
上記のコンデンサに 6% の直列リアクトルを付属した場合の突入電流は
となり大幅に小さくなる。
突入電流による影響
①
コンデンサの開閉回数が多いと、開閉器の接触子の異常損耗を生じることがある。
接触子の損耗は、投入時の突入電流波高値が大きいほど
電流の立上がり峻度が急峻なほど大きくなるといわれている。
この接触子面の荒れは、遮断性能に悪影響を及ぼし、再点弧の発生や遮断不能
あるいは開閉器自身の破損に至ることもある
→突入電流の大きさを把握した上で開閉器の機種を選定する必要がある。
②
変流器の二次回路に高電圧が発生して、フラッシオーバーあるいは
計器や継電器の焼損に至ることがある。
二次回路に発生する電圧は、変流器二次側のインピーダンスと電流の積で求まるが
高周波によるインピーダンスの増大と突入電流倍数の影響を受け、定常時に比べ非常に高い電圧が誘起される。
③
過大な突入電流によりコンデンサ自体が内部不具合を発生することがある。
主な対策
日常的にコンデンサの開閉を行う場合は突入電流を抑制する必要がある。
突入電流の抑制に最も効果があるのは、直列リアクトルの設置となる。
例えば、6% の直列リアクトルを設置すると、突入電流は約8倍程度
※突入電流により直列リアクトルが磁気飽和し、リアクタンスが低減ずることを考慮した値
周波数は4倍程 度に低下する。
コンデンサを自動制御するような設備では、直列リアトルの設置は特に重要となる。
回復電圧
コンデンサの端子電圧は電流より90°遅れているため、回路の電流遮断時には
下記図に示すように電圧ピークの残留電圧が残る。
遮断後0.5サイクルを経過すると開閉器の極間の電圧(回復電圧)は電源電圧の約2倍の高い値になる。
図:コンデンサ開放時の回復電圧
開閉器の極間に現われる回復電圧が、極間の絶縁回復特性よりも大きい場合には
開閉器の極間は再びアーク閃絡を起こし、いわゆる再点弧現象となる。
再点弧を引き起こすと、コンデンサに加わる過電圧は定常電圧の約3倍となり
大きな再点弧突入電流が流れる。
これは、コンデンサに大きなダメージを与えるだけでなく、母線にも同じ過電圧が加わるので
再点弧は避ける必要がある。
そのためには、進相電流遮断能力のある開閉器(極間絶縁回復特性の優れた開閉器)を使用する必要がある。
コンデンサ用の開閉器としては真空開閉器やガス開閉器などがある。
負荷開閉器(LBS)や高圧カットアウト(PC)は、多頻度開閉には適さないので
コンデンサの日常の開閉器としては使用すべきではない。
残留電荷の放電
コンデンサを閉路後には残留電荷による残留電圧があるため、これを放電しなければならない。
コンデンサには一般に、下記図のように放電抵抗が内蔵されており
コンデンサを開路すると、この放電抵抗により残留電荷が放電される。
図:放電抵抗内蔵コンデンサ
しかし放電抵抗の放電性能は、開路後コンデンサの端子電圧を5分間で50V以下に低減できることと規定されており
放電にかなり長い時間を要する。
このため、開路後に短時間でコンデンサを再投入すると残留電圧のために異常に大きな過渡過電圧を
発生してコンデンサに大きなダメージを与えることがある。
自動力率制御などで短時間にコンデンサを再投入する必要がある場合には
放電抵抗ではなく放電コイルを使用する。
放電コイルは、5秒間で開路後のコンデンサ端子電圧を50V以下にできる。
※放電コイルは下記図のように直列リアクトルの電源側に接続する。
これは、直列リアクトルによる過電圧を避けるためとなる。
図:放電コイルの設置図
新電気2019年 12月号 「現場のギモン 解決塾 第12回 コンデンサの保護で気を付けることは?」
より一部引用