「漏電火災警報器」は、電力を使用する建物において
漏電による火災の発生を未然に防ぐための重要な消防用設備。
電路の漏洩電流を検出し、火災に至る前に警報を発することで、関係者に注意を促す。
漏電火災警報器設置の背景と目的
漏電火災警報器は、主に木造建築物におけるラスモルタル造の壁や天井を
原因とする漏電火災を防ぐために導入された。
ラスモルタル造とは、木製のラス下地や金属製のメタルラス(金網)にモルタルを塗って仕上げる建築工法
電気配線の被覆が劣化したり損傷したりして漏電が発生した場合
漏れた電流がこのメタルラスに流れ、発熱することで火災につながる危険性がある。
漏電火災警報器は、このような漏電を早期に検知し、火災に至る前に警報を発することで
人命と財産を守ることを目的としている。
作動原理の詳述(零相変流器と受信機)
漏電火災警報器の核となるのは
●零相変流器(ZCT: Zero-phase Current Transformer)
●受信機
零相変流器 (ZCT)
- 原理
交流回路では、電気が往路と復路を流れる。通常、この往路と復路の電流の大きさは同じであり
電流によって発生する磁界も互いに打ち消し合う。
零相変流器はドーナツ状のコイルで、このコイルの穴に往路と復路の電線を通す。
- 漏電検
漏電が発生すると、電流の一部が電線から大地に流れ出てしまい、往路と復路の電流に不平衡が生じる。
この不平衡電流によって、零相変流器の内部で打ち消し合わない磁界が発生し
それが零相変流器の二次巻線に誘導電流(漏洩電流の信号)を発生させる。
- 種類
貫通形: 警報器を設置する際に、電線を零相変流器の穴に直接通して設置する。
分割形: 既存の電線を切断せずに、零相変流器を電線に巻き付けるようにして設置でき
工事が容易なのが特徴。
※設置場所に応じて、屋内外用がある。
左:貫通型、右:分割型
受信機
- 信号処理
零相変流器で検出された微弱な誘導電流(漏洩電流の信号)を受信機が受け取る。
この信号は、ノイズ(高調波など)を除去するためにローパスフィルターを通され、増幅回路で増幅される。
- 閾値判定
増幅された信号は
あらかじめ設定された作動電流値(公称作動電流値とも呼ばれる。例: 200mA、1000mAなど)
と比較される。
- 警報発令
検出された漏洩電流が作動電流値を超えると、受信機はリレーを動作させ
音響装置(ブザーなど)を鳴動させ、表示灯を点灯させて漏電の発生を知らせる。
- 復帰方式
- 自動復帰: 漏電が解消されると、自動的に警報が停止し、通常監視状態に戻る。
- 手動復帰: 漏電が解消されても、手動で復帰ボタンを押すまで警報が鳴り続ける。
これは、漏電の発生を確実に人に知らせ、安易に復帰させないようにするためのもの。
- 種類:
- 標準型: 1つの受信機で1つの警戒電路を監視する。
- 集合型: 複数の零相変流器と接続でき、複数の警戒電路を集中して監視できる。
どの電路で漏電が発生したかを個別に表示できる機能を持つものもある。 - 設置方法に応じて、露出形と埋込形がある。
漏電火災警報器の設置義務の詳細
漏電火災警報器の設置義務は、消防法(消防法施行令第22条)に基づき
以下の条件に該当する建物に課せられる。
- 主要な条件
- ラスモルタル造の建物: 壁や天井にラスモルタルを使用している木造建築物
(鉄筋コンクリートや鉄骨造であっても、内部にラスモルタルを使用していれば対象となる場合がある)。 - 用途と規模: 消防法施行令別表第一に定める特定の用途(百貨店、病院、旅館、共同住宅、工場、事務所など)に供される部分で、以下のいずれかの基準を満たす場合。
- 延べ面積による基準: 特定の用途の防火対象物で、一定の延べ面積(例:150m²以上など)を超える場合。
- 契約電流による基準: 特定の用途の防火対象物で、契約電流が50A(アンペア)を超える場合。
<ポイント>
⚫️ラスモルタル造は木造建築において火災の危険性が高まるため、漏電火災警報器の設置が重要視される。
⚫️電流50Aを超える場合、面積に関わらず設置義務が生じるケースがある。
⚫️設置された漏電火災警報器は、国家検定合格品でなければならない。
これは、製品の信頼性と性能を保証するためのもの。
1級と2級の違いについて
警戒する電路の定格電流値によって、以下の2種類に分類される。
- 1級漏電火災警報器: 警戒電路の定格電流が60Aを超える場合に設置される。
- 2級漏電火災警報器: 警戒電路の定格電流が60A以下の場合に設置される。
※分岐回路が60A以下であれば
分岐回路ごとに2級漏電火災警報器を設置することで
1級漏電火災警報器の設置を回避できる場合もある。
点検と管理
消防法により、漏電火災警報器を含む消防用設備は定期的な点検が義務付けられている。
点検の種類と頻度
- 機器点検: 半年に1回(6ヶ月に1回)実施。外観確認や簡単な操作確認(試験ボタンによる動作確認など)を行う。
- 総合点検: 1年に1回実施。実際に設備を作動させて、総合的な機能を確認する。
漏洩電流検出検査(試験器を用いて模擬漏洩電流を流し、作動電流値を測定)などが含まれる。
点検実施者
消防設備士または消防設備点検資格者。専門知識と資格が必要なため、専門業者に依頼するのが一般的。
届出義務
工事完了後4日以内に、所轄の消防署長に「消防用設備等設置届出書」を提出する必要がある。
また、定期点検の結果も消防署に報告する義務がある。
誤報と対策
漏電火災警報器は、微弱な漏洩電流を検出するため
環境によっては誤報を発する場合がある。
主な誤報の原因
- 経年劣化: 機器自体の劣化や配線の劣化。
- ノイズ: 周囲の電気機器からの電磁ノイズや、落雷などの突発的な電圧変動。
- 対地静電容量による漏洩電流
電路が長く、対地静電容量が大きい場合に、わずかな漏洩電流が発生し、警報を発することがある。
- 湿気: 湿度の高い環境や結露により、絶縁抵抗が低下して漏電と判断される場合がある。
主な対策方法
定期的な点検とメンテナンス
機器の劣化や配線の不良を早期に発見し、修理・交換を行う。
適切な作動電流値の設定
誤報が頻繁に発生する場合は、専門業者と相談し、作動電流値の再設定を検討する。
※作動電流値を上げすぎると、火災の危険性が高まるため慎重に行う必要がある。
設置環境の改善
湿気の多い場所やノイズ源の近くへの設置を避ける、または適切な防護措置を施す。