継電器の「慣性特性」とは
保護継電器が、極めて短時間の電流変化に対して、意図的に動作しないように設計された特性のこと。
これは、実際の事故ではなく、モーターの始動電流や変圧器の励磁突入電流のような一時的で
健全な大電流によって、継電器が誤って動作(トリップ)するのを防ぐために非常に重要な機能。
電気設備では、以下のような一時的な大電流が発生することがある。
もし保護継電器が、これらの正常な一時的大電流に対して瞬時に動作してしまえば
頻繁に設備が停止し、電力供給の安定性や生産性が著しく損なわれる。
そこで、継電器にはある程度の「我慢」や「不感」時間を持たせる必要があり
その特性を「慣性特性」と呼ぶ。
慣性特性は、特に
過電流継電器(OCR)や地絡継電器(GR)に
求められる特性。
過電流継電器(OCR)の慣性特性
過電流継電器は、電路の過負荷や短絡事故時に動作して回路を遮断するが
モーターの始動電流のような一時的な大電流には動作しないように設計されている。
地絡継電器(GR)の慣性特性
地絡継電器は、地絡事故(漏電)時に動作して回路を遮断するが
遮断器の投入時の不揃いや外部事故による一時的な地絡電流の回り込みなどに対して誤動作しないよう
慣性特性が求められる。
JIS C 4609(高圧地絡継電器)の規定
「零相変流器(ZCT)に整定電流の400%の零相過電流を50ms(ミリ秒)間通電しても、地絡継電器が動作してはならない」と定められている。
この「50ms動作しない」という特性が、地絡継電器の代表的な慣性特性。
これは、遮断器の三相投入が完全に揃わない場合(ごくわずかな時間差で各相が投入される)に
発生する一時的な零相電流や、外部事故の際に発生する一時的な零相電圧・電流サージに対して
GRが誤って動作しないようにするため。
アナログ回路による時間遅延
初期の電気機械式継電器では、円板の回転慣性やダッシュポット(粘性抵抗を利用した遅延機構)のような
物理的な機構が「慣性」として機能していた。
静止形継電器(アナログ電子回路を使用)では、CR回路(コンデンサと抵抗を組み合わせた回路)の
時定数を利用して、入力信号が一定時間以上継続しないと動作しないような
遅延回路が組み込まれている。
デジタル演算による時間遅延(ソフトウェア処理)
最近のデジタル継電器(マイコンを搭載)では、入力された電流・電圧データを高速でサンプリングし
ソフトウェアで演算処理を行う。
この際、特定の時間(例えば50ms)以上、設定値を超える電流が継続した場合にのみ動作するよう
プログラムで「不感時間」や「時限特性」を実装している。
これにより、従来の機械式やアナログ式の継電器よりも、より精密で柔軟な慣性特性やその他の動作特性
(反限時特性、定限時特性など)を実現できるようになっている。
継電器の「慣性特性」は、その継電器が持つ様々な「動作時間特性」の一部であり
特に短時間の大電流に対する不動作領域を規定するもの。
これらの動作時間特性カーブは、継電器が「何アンペアの電流が何秒間流れたら動作するか」を示しすが
「慣性特性」は、そのカーブよりもさらに短い時間での不動作を保証するもの。
例えば、瞬時特性が設定されていても、特定の短時間(例:50ms)は動作しない
という領域が慣性特性によって確保される。
アナログ回路で慣性特性を実現している古いタイプの継電器では
経年劣化により、その回路を構成するコンデンサなどが劣化することがある。
これにより、本来保証されている「不感時間」が短くなり
継電器が過敏に反応して不要な誤動作を引き起こす可能性が出てくる。
そのため、電気設備の定期点検(年次点検など)においては
継電器の動作試験だけでなく
この慣性特性が正常に機能しているかどうかの確認(慣性特性試験)
も重要な項目となる。