高圧受電設における停電年次点検の主な点検項目とチェックポイントまとめ

高圧受電設における停電年次点検の概略

高圧受電設備の停電年次点検
電気事業法に基づき実施が義務付けられている、最も重要で詳細な法定点検のこと。

感電・火災・波及事故(自社の事故が電力会社の系統に影響を及ぼし広範囲に停電を引き起こす事故)などの
重大な電気事故を未然に防ぎ設備の安全と事業の安定的な継続を確保することを目的としている。

停電年次点検の目的と必要性

停電年次点検は、通常の月次点検(活線状態、つまり電気を流したまま行う簡易点検)では
確認できない設備内部の劣化や保護機能の正確な動作を詳細に確認するために行われる。

事故の未然防止

絶縁性能の低下や部品の摩耗・劣化といった不具合を早期に発見し
修理・交換することで、突発的な電気事故(地絡・短絡)を防ぐ。

安全性の確保

絶縁抵抗接地抵抗を正確に測定し
設備が法律で定められた安全基準を満たしているか確認する。

保護機能の動作確認

異常時に電気を遮断する保護継電器遮断器
定められた時間と電流で正確に動作するかを試験し、事故の拡大を防ぐ。

年次点検の主な点検・試験項目一覧表

停電年次点検の各測定及び点検ポイント

接地抵抗測定

点検ポイント

接地抵抗測定で広く用いられている測定方法としては
3 極法の電位降下方式」がある。
3 極法は、測定補助極である P 極と C 極の電位差を利用して測定値を導き出すことから
補助極の確認が重要となる。

また、無停電年次点検で測定するときに万が一にも漏電が発生していると
B 種接地線の対地電圧が上昇している可能性があり感電防止のため
「検電」または「地電圧」を測定して、ほぼ無電圧(3V 以下が目安)であることを確認しておく必要がある。。

2極法での測定時は、回路に微弱な漏えい電流が流れることから
漏電遮断器が誤動作しないように注意が必要。

絶縁抵抗測定 ・高圧電路の絶縁抵抗

停電を伴った年次点検では、絶縁抵抗を測定する。
高圧ケーブル単体の絶縁状態をチェックする方法としては一般的な絶縁抵抗測定に加えて
直流高圧絶縁抵抗測定(漏れ電流法、G端子接地方式)による劣化診断が可能となる。
直流高圧を印加した際の漏れ電流をチャート紙に記録し
キック電流現象の有無や成極指数、弱点比、不平衡率を計算してそれぞれが基準内か確認する。

絶縁抵抗が低下することが多い機器

比較的、絶縁抵抗値が低くなる傾向にあるのが
高圧交流負荷開閉器(LBS)断路器(DS)碍子部分、ベークライト板の支持部品
高圧サポート碍子(エポキシ樹脂系)。
碍子類に付着した塵埃が吸湿した場合は、表面劣化による絶縁低下が多くみられる。
このため、停電時は碍子の劣化が懸念される部分をしっかりと清掃したうえで
トラッキング痕がないか確認すること。

また、キュービクルの設置場所が日陰で湿気の多い場所
るいは変圧器の負荷率が低発熱量が少ない場合では高圧絶縁抵抗値が低くなる傾向がある。
そのため、停電を 伴った年次点検の際にはスペースヒータ」 を設置するなどの湿気対策も有効となる。
まれに、塵埃と湿気によって高圧真空遮断器の上部でもトラッキングを発生していることがあ るので
相間部分はしっかりと清掃しておく必要がある。

LBSを開放し、各機器の絶縁抵抗分割測定 を行うこともあるが
LBSは3極同時に 開放できるように「ストライカ機能」が付い ている。
投入する場合は、ラッチの鈎形金 具が受軸にしっかり引っ掛かっているか目視 で確認すること。

ラッチの引っ掛かりが甘いと復電数時間後にLBSが開放し
停電してしまい、トラブルの原因になる。

低圧電路の絶縁抵抗

低圧電路も高圧電路と同様に絶縁抵抗計による測定を原則として行うが
低圧時絶縁監視装置を設置している事業場も多く
監視状態が良好な場合は絶縁抵抗の一部またはすべてを省略することができる。
その場合、実際に測定する箇所は監視外の部分(常時稼働しない消火栓ポンプのモータなど)のみとなる。

監視状態が良好であるとともに、監視装置の機能が正常に動作することの確認も必要なので
年次点検の際は、監視装置本体の警報動作電流に対する許容誤差の精度試験と、通信状態の確認をする。

保安法人や技術者協会によって測定省略の有無は異なるので注意

非常用予備発電装置の始動・停止試験と保護継電器動作試験およびインターロック試験

非常用予備発電装置を設置している事業場における停電を伴った年次点検の場合は
商用電源停止後に発電装置が自動始動・停止するかどうかタイムチャートの計測を行う。
無停電年次点検の場合は、「試験」による始動・停止の確認をする。

また、各保護継電器については、接点メーカにより警報および表示が正常に動作するか確認を行う。
※保護継電器の接点メーカの方法は、発電装置メーカーによって異なる。

制御操作盤の裏面でテスト端子間を短絡する場合は、比較的作業しやすいが
原動機に付いているセンサの端子から制御線を引き抜くことが多いため
特に冷却水温度上昇や潤滑油油圧低下の試験時には
冷却ファンやオルタネータ用ベルトなどの回転部に試験用リード線や衣服が
巻き込まれないよう十分注意する必要がある

発電装置関連に付随して同時に測定するのが
始動用蓄電池の比重や液温および電圧となる。
近年は、車両のバッテリー同様にシール形で密閉されており、電解液の比重測定ができない蓄電池が多く
経年劣化の具合や性能は内部抵抗測定によって判断する。

内部抵抗の測定値は、放電後の不安定な状態では誤差が大きくなることから
発電装置の始動・停止試験や保護継電器の起動渋滞試験などで放電させる前に測定する。

蓄電池内部抵抗の判定基準は、メーカーの型式や容量ごとに管理値(mΩ)が決められており
初期値や警告値、寿命値と劣化具合によって抵抗値が増加することから
数値が適正かどうかはカタログなどで確認が必要となる。

各種保護継電器試験

地絡継電器

責任分界点、またはこれに近い箇所に地絡保護装置が付いていることが多い。
構内高圧回路の対地静電容量が大きい場合は、地絡方向継電器(DGR)の採用が多くなっている。
DGRは区分開閉器に連動しているケースがほとんどで、停電を伴った年次点検の際は
DGRの連動試験により停電を開始するパターンが多い。
計器用変圧器(VT)内蔵の区分開閉器であっても、VT焼損防止のために試験電源は所内から受ける場合がある。

受電盤にDGRが付いているケースでは、電圧要素として零相電圧検出装置(ZPD)
地絡過電圧継電器(OVGR)との組合せもある。
その場合は、テスト端子(テスト端子の取り付け位置を探し、線番号を確認)による
印加電圧を事前に確認する必要がある。

過電流継電器

過電流継電器(OCR)はCB型の受電設備に設置されており
停電を伴った年次点検の際に高圧遮断器と連動試験を行う。

OCRには、なかに円盤が見える誘導形」と、「静止形とがある。
試験の際に動作しない場合の原因としては
いずれも雷サージの侵入によって内部回路が焼損しているケースが多い
誘導形は内部の焼損箇所が見え、静止形でも焦げた異臭がするのがほとんどとなっている。

連動する高圧遮断器の引外し要素として
「電流トリップ」「コンデサトリップ」「電圧トリップ」などがあり、電流トリップ以外は補助電源が必要となる。
そのため、OCR試験器の電源確保も含めた試験用のポータブル発電機を持参する。

また、遮断器は真空遮断器が多く設置されているが
内部機構のグリス枯れによって経年劣化をするため、定期的な遮断器整備(注油メンテナンス)が必要となる。
追加の試験項目としては、遮断器開閉特性試験やVCB真空度試験があ
事業場の要望に応じて遮断器の性能確認をする必要がある。

そのほかの保護継電器として、発電所を系統連系している自家用電気工作物には「系統連系規程JEAC 9701」により、系統連系用複合継電器が設置されてる。
具体低には周波数継電器(OFR、UFR)、電圧継電器(OVRUVR)および逆電力継電器(RPR)などは専用の試験器で実施する。

外観点検

停電を伴った年次点検の場合は、測定類の試験後に清掃と併せて外観点検を実施する。
高圧機器や母線などを手で直接確認できる貴重な機会であり
接続部の緩みがある場合には、増し締めを行う。
異常を察知するという点では、特に端子類やLBSの接触部などを間近で目視することが大切であり
停電を伴った年次点検の最も重要な点検項目といえる。

参考資料

新電気2019年8月号 現場の電気保安実務第161回 自家用電気工作物の維持管理と点検実務より一部引用

名無し管理事務所