はじめに

高圧受電設備の年次点検では、断路器(DS)の開閉操作がとても重要で、危険も伴う作業となる。
この操作に欠かせない道具として「ジスコン・フック棒(断路器操作用フック棒)」を用いる。
この記事は、篠原電機株式会社製ジスコン・フック棒の取扱説明書とカタログをもとにした備忘録であり、基本的な仕様と構造、現場で安全に扱うためのポイント、関係する法令をまとめた。
ジスコン・フック棒の基礎知識と仕様

基本構造(JIS C 4510 準拠品)
JIS C 4510「断路器操作用フック棒」は
電気回路の断路器の開閉に使う操作用フック棒について定めた日本産業規格となる。
篠原電機製のフック棒は
主に次の部分でできている。
- フック部
断路器の操作リング(フック穴)に引っ掛ける部分。
FB型は白色、FBK型は黒色。FBK型はフック部が長く、断路器だけでなくカットアウトの開閉操作もしやすくなっている。
安全表示線は握り部の端に近い位置にあるため、握れる範囲は短い。
両手とも端の近くを握り、体は棒の長さぶん充電部から離れて操作する。 - 補強ピン
フック部とパイプの接合部にあるピン。 - パイプ
PVC(ポリ塩化ビニル)管で、外径はφ32mmです。危険色の黄色が使われている。 - 安全表示ラベル(安全表示線)
操作するときに握ってよい範囲の限界を示す表示で、安全上きわめて重要。
仕様と適用電圧
長さ(L)によって適用電圧が変わる。
対象設備の電圧に合ったものを選ぶこと。
公称6.6kVの一般的な高圧受電設備であれば、10kV品が使える。
| 品番 | 長さ (L) | 適用電圧(メーカー表示) |
| FB-10 / FBK-10 | 1.0m | 10kV |
| FB-15 / FBK-15 | 1.5m | 20kV |
| FB-20 / FBK-20 | 2.0m | 30kV |
実務における取扱いのポイントと注意点
取扱説明書の警告と注意の記載をもとに
現場で必ず守るべきポイントを整理する。
1. 保護具の着用と握る位置

- 保護具の着用
操作時は、高圧用ゴム手袋と絶縁ゴム長靴などを着用すること。
あわせて電気用安全帽も着用する。
アークに備えて、保護面や難燃性の作業服を使うのも効果的となる。 - 握る位置
必ず安全表示線より下(フックと反対側)を握ること。
表示線より上を握ると十分な絶縁距離がとれず、たいへん危険となる。 - 濡れた手は厳禁
濡れた手では絶対に触らないこと。
1-2. 現場での操作のコツ

ここからは取扱説明書の記載ではなく
現場で一般に心がけられている注意点。
- 2人1組で行う
操作する人と監視する人の2人1組で行う。
操作する断路器と、遮断器が「切」であることを指差呼称で確認してから操作する。 - フックを奥まで掛ける
フックが断路器の操作穴に奥まで掛かっていることを確かめてから力を入れる。
掛かりが浅いと、操作の途中で外れて体勢を崩すおそれがある。 - ためらわず一気に操作する
開くときも閉じるときも、途中で止めずに一気に操作する。
中途半端な位置で止めると、接触が不完全になって危険。 - 操作後の状態を目で確かめる
開いたときはブレードが開ききっていること
閉じたときはブレードが閉じきってラッチ(掛け金)が掛かっていることを、目で確かめる。
2. 用途外の使用と改造の禁止
この製品は断路器の開閉操作専用であり(カタログでは、FBK型はフック部が長いのでカットアウトの開閉操作もしやすい、と説明されています)。物を引っ掛けて引っ張る、叩くなど、ほかの用途には絶対に使わないこと。
改造も重大な事故につながるおそれがあるので、絶対に行ってはいけない。
3. 日常の手入れと保管

- 清掃
使う前に、乾いた布で汚れを拭き取ること。
汚れや水分が付いていると、表面に沿って放電が起きる(沿面放電)原因になり
絶縁性能が落ちるおそれがある。 - 保管
屋内の湿気の少ないところで保管すること。
カタログでは「つりさげて」保管するよう案内されている。
樹脂製品なので、直射日光や高温を避けると劣化を抑えられる。 - 備え付けと表示
キュービクル式非常電源専用受電設備の認定基準では、フック棒を受電箱内に備え
扉の表面にフック棒を備えていることを表示するよう定められている。
実務における法令基準と事故事例

道具を正しく使うだけでなく
法令に沿った管理と、電気事故を防ぐ操作手順を守ることも求められる。
操作する人は特別教育が必要(労働安全衛生規則 第36条第4号)
労働安全衛生規則第36条第4号では
「高圧若しくは特別高圧の充電電路若しくは当該充電電路の支持物の敷設、点検、修理若しくは操作の業務」を
特別教育が必要な業務として定めている。
フック棒で断路器を開閉するのは、まさにこの「操作の業務」に当たる。
操作する人は、高圧・特別高圧電気取扱者の特別教育を受けている必要がある。
後述の災害事例が示すように、特別教育を受けた人でも慣れによる危険があるため、定期的な再教育も大切となる。
作業開始前の点検(労働安全衛生規則 第352条)
絶縁用保護具や活線作業用器具などを使う日は、作業を始める前に
「ひび、割れ、破れその他の損傷の有無及び乾燥状態」を点検し、異常があれば直ちに補修するか取り換えなければならない。フック棒についても、使う前にひび、割れ、汚れ、湿りがないかを目で確かめること。
定期自主検査(労働安全衛生規則 第351条)
労働安全衛生規則第351条では、高圧の活線作業などで使う
絶縁用保護具、絶縁用防具、活線作業用器具、活線作業用装置について、次のように定めている。
- 6か月以内ごとに1回、定期に、その絶縁性能について自主検査を行うこと(一般には耐電圧試験で確認)
- 6か月を超えて使わない期間は検査しなくてよいが、使い始める前には検査すること
- 異常が見つかったら、補修などをするまで使わないこと
- 検査の記録を3年間保存すること(第4項)。
記録するのは、検査年月日、検査方法、検査箇所、検査結果、検査した人の氏名、補修などをした場合は
その内容となる。
ジスコン・フック棒は、条文の中で名前が挙げられているわけではない。
ただ、行政通達(昭和47年9月18日 基発第602号)では、「活線作業用器具」を
「ホットステックのように、その使用の際に手で持つ部分が絶縁材料で作られた棒状の絶縁工具で
高圧、特別高圧または交流で300ボルトをこえる低圧の充電電路に対して用いるもの」と説明している。
フック棒はこれに当たると考えられ、一般に第351条の定期自主検査の対象として扱われている。
取扱説明書にも「定期的な点検(目視点検、JIS C 4510に基づく検査等)を必ず行って下さい」と書かれている。日常の目視点検に加えて、定期的に耐電圧試験を行い、その記録を保存しておくことが欠かせない。
負荷電流が流れたままの開放(引き切り)は絶対厳禁

断路器(DS)は、充電部を回路から切り離すための機器で、アークを消す能力がない。
負荷電流が流れているまま断路器を開くと、激しいアークが出て
作業者が重いやけどや感電を負うおそれがある。
さらに、アークが隣の相に移って相間短絡が起きることがある。
受電用の断路器は主遮断器より電源側にあるので、ここで短絡すると構内の遮断器では止められない。
その結果、電力会社側の遮断器が動き、周辺の地域まで停電させる波及事故につながるおそれがある。
労働安全衛生規則第340条でも、負荷電流を遮断するためのものではない断路器を開くときは
誤操作を防ぐため、パイロットランプ(表示灯)やタブレットなどで
電路が無負荷であることを操作する人に確認させるよう定めている
(無負荷でなければ開けない緊錠装置を設けている場合は除く)。
厚生労働省「職場のあんぜんサイト」には、次のような災害事例が載っている。
- 発生状況:貸ビルの電気室で、常駐する設備管理者8名が毎年行っている定期点検の最中に起きた
- 原因:負荷のかかった状態で断路器を開放したため遮断アークが発生し、開放作業をしていた3名がアークを浴びた
対策としては、
●指揮者を決めて作業の方法と順序を周知すること
●パイロットランプなどで無負荷を確認させること(第340条の内容)
●慣れによる危険を防ぐために定期的に再教育をすること
が挙げられている。
操作時の鉄則
必ず先に負荷側の主遮断器(VCBなど)を開放すること。
そのうえで、遮断器の開閉表示が「切」になっていること、表示灯、電流計がゼロであることなどで
電路が無負荷であることを目で確かめてから断路器を操作する。
フック棒で操作する単極の断路器には、遮断器とのインターロックが付いていないことが多いため
確認は操作する人自身の責任で確実に行うこと。
投入するときは逆の順序です。断路器を先に投入し、最後に遮断器を投入する。
断路器を投入するときも、遮断器が「切」であることを必ず確認すること。
断路器でも、変圧器の励磁電流やケーブルの充電電流のようなごく小さな電流なら開閉できる
と説明されることがある。しかし実務では「遮断器を先に開放してから断路器を操作する」のが原則となる。
断路器を開放した後の停電作業の措置(労働安全衛生規則 第339条)

断路器を開放して停電させ、その電路で点検や修理を行うときは
開路した後に次の措置をとらなければならない。
- 施錠・表示・監視人
開路に使った開閉器に、作業中は施錠するか、通電禁止に関する事項を表示するか、監視人を置く - 残留電荷の放電
電力ケーブルや電力コンデンサなどがあり、残留電荷で危険が生じるおそれがある電路は
安全な方法で確実に放電させる - 検電と短絡接地
高圧・特別高圧の電路は、検電器具で停電を確認する。
さらに、誤通電、他の電路との混触、他の電路からの誘導による感電を防ぐため
短絡接地器具で確実に短絡接地する。
作業中や作業後に再び通電するときは
●作業者に感電の危険がないこと
●短絡接地器具を取り外したことを確認してからでなければ、通電してはいけない(同条第2項)。
短絡接地器具を付けたまま送電する事故を防ぐための大切な規定となっている。
まとめ

ジスコン・フック棒は、高圧電気設備を安全に操作するためのきわめて重要な道具となる。
次の基本を徹底することで、感電やアーク事故といった重大なリスクを未然に防ぐことができる。
- 適切な仕様を選ぶ:長さと適用電圧を確認する
- 正しく操作する:特別教育を受けた人が、安全表示線より下を握り、高圧用ゴム手袋と絶縁ゴム長靴を着用して操作する
- きちんと管理する:使う前に点検して乾いた布で拭き、6か月以内ごとに定期自主検査をして記録を3年間保存する
- 操作手順を守る:開放するときは遮断器→断路器、投入するときは断路器→遮断器の順にする(負荷電流の遮断は厳禁)
- 停電作業の措置をとる:施錠・表示、残留電荷の放電、検電、短絡接地を行い、送電前には短絡接地器具を外したことを確認する
参考資料
- 篠原電機株式会社 ジスコン・フック棒 取扱説明書(17.11版)、総合カタログ C-109
- JIS C 4510「断路器操作用フック棒」
- 労働安全衛生規則 第36条、第339条、第340条、第348条、第351条、第352条
- 「労働安全衛生法および同法施行令の施行について」(昭和47年9月18日 基発第602号)
- 厚生労働省「職場のあんぜんサイト」労働災害事例(断路器の開放時のアークによる災害)

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