この記事で分かること

地震などの大規模災害では、建物の倒壊と同じくらい恐ろしいのが「火災」となる。
大地震への備えというと家具の固定や備蓄に目が行きがちになるが
過去の大震災では、地震火災の半数以上が「電気」に起因している。
この記事では、電気設備の実務に携わる方や、防災対策を見直したい方に向けて
地震後の電気火災(通電火災)を防ぐ
「感震(かんしん)ブレーカー」の仕組み・種類・性能評価の考え方・選び方のポイント
そして国の最新動向を、公的資料をもとにまとめる。
感震ブレーカーと通電火災に関する基礎知識
地震火災の原因は「電気」が最多
| 地震 | 地震火災の件数 | うち電気関係 | 参考:ガス・石油機器 |
| 阪神・淡路大震災(1995年) | 139件 | 85件(約61%) | 24件(約17%) |
| 東日本大震災(2011年) | 108件 | 58件(約54%) | ―(その他50件に含む) |
※阪神・淡路大震災は消防庁「地震時における出火防止対策のあり方に関する調査検討報告書」(平成10年)、東日本大震災は日本火災学会誌「2011年東日本大震災 火災等調査報告書」をもとに国が作成した資料による。
阪神・淡路大震災では、電気関係の火災がガス・石油機器の3倍以上にのぼっている。
生活様式の変化とともに地震火災の主な原因は移り変わってきたが
近年の大規模地震では電気に起因する火災が中心になっている。
通電火災のメカニズム

電気火災の多くは「通電火災」と呼ばれる流れで発生する。
典型的なのは次のパターン。
- 地震発生・停電
揺れで電気ストーブなどの電熱器具が転倒・落下し、周囲に衣類や紙などの可燃物が散乱する。
停電中のため、この時点では発火しない。 - 避難
住人が避難所などへ移動し、家が無人になる。 - 電力復旧(通電)
しばらくして送電が再開される。 - 発火
倒れたままの電熱器具に通電し、周囲の可燃物に着火する。
このほか、家具の下敷きになって損傷した電源コードのショートや
外見上は無傷でも壁内配線・電気機器内部が損傷しているケースもある。
消防庁は、再通電から長時間経過した後に火災に至る場合があると注意を呼びかけている。
また通電火災は
地震だけでなく台風や豪雨に伴う長時間停電からの復旧時にも発生するリスクがある。
感震ブレーカーとは
感震ブレーカーは、一般的に震度5強以上の揺れを感知すると
自動的にブレーカーを落として電気の供給を遮断する装置。
大地震の際に自動で電源を断つことで、不在時の通電火災を物理的に防ぐことが最大の目的となる。
性能評価の考え方(国のガイドライン)
感震ブレーカーの性能については
内閣府・消防庁・経済産業省が事務局を務めた検討会が「感震ブレーカー等の性能評価ガイドライン」(平成27年2月)を取りまとめている。
作動・不作動の基準
| 確認項目 | 想定する震度 | 考え方 |
| 作動確認 | 震度5強相当 | 電熱器具の落下や家具の転倒で、可燃物が電熱器具に接触する危険性が高い |
| 不作動確認 | 震度4相当 | 上記の危険性が低く、頻発する中小地震での不要な停電を避ける |
評価試験の条件(標準試験)
試験には、再現性・安定性の高い一定の加速度と周期を持つ正弦波を用いる。
| 確認項目 | 加速度 | 周期 |
| 作動確認 | 250gal | 0.3秒・0.5秒・0.7秒 |
| 不作動確認 | 80gal | 0.3秒・0.5秒・0.7秒 |
| 不作動確認 | 250gal | 0.1秒 |
- 加振方向:水平方向の前後・左右それぞれ
- 加振時間:所定の加速度を10秒間継続
- 簡易タイプ・コンセントタイプは、作動確認 250gal・周期0.5秒/不作動確認 80gal・周期0.3秒 の簡易試験で確認することができる
実際の作動に関する注意

設置場所での揺れは、住宅の構造、耐震・免震機能、階数、取付壁の剛性などによって大きく異なる。
そのため、実際の地震で必ずしも各地の計測震度どおりに作動するわけではない。
ガイドラインでも
「屋内で家具の転倒等が生じる程度の大きな揺れで、電熱器具等への通電が遮断されることを期待するもの」
と位置付けられており、施主・利用者への説明が必要となる。
感震ブレーカーの4つの種類と特徴
感震ブレーカーは
設置方式や遮断範囲によって主に4つのタイプに分かれる。
| 種類 | 仕組み | 遮断範囲(出火予防範囲) | 価格の目安 | 工事 |
| 分電盤タイプ(内蔵型) | 感震センサー内蔵の分電盤に交換する | 分電盤以降の屋内配線・コンセント・電源コード・電熱器具等 | 約5万〜8万円(標準的なもの) | 必要(電気工事士による) |
| 分電盤タイプ(後付型) | 既設の分電盤に感震機能を外付けする。漏電ブレーカーが設置されている場合に設置可能 | 同上 | 約2万円 | 必要(電気工事士による) |
| コンセントタイプ | センサー内蔵のコンセントで、そのコンセントの通電を遮断する | 接続した電熱器具等・電源コード・そのコンセント(コンセントまでの屋内配線は対象外) | 約5,000円〜2万円 | 差込型は不要/埋込型は必要 |
| 簡易タイプ | ばねの作動や重りの落下により、既設ブレーカーのスイッチを落とす | 分電盤タイプと同様 | 約3,000〜4,000円程度 | 不要(利用者が取付け可能) |
※価格は国の資料による一般的な目安。製品により異なる。
分電盤タイプ

- 感震性能が高く、専門の工事業者が設置するため、作動の信頼性が高い。
- 感震後、遮断までに一定の待機時間(通常3分程度)が設定されており
その間に照明を確保したまま避難や電気製品の電源を切るなどの安全確保ができる。
待機時間は変更可能。 - 分電盤タイプについては
日本配線システム工業会の「感震機能付住宅用分電盤規格(JWDS0007付2)」に基づく自主認定が行われている。 - 待機時間後は建物全体の通電が遮断されるため
在宅医療機器がある場合はバッテリー等の備えが必要。
ガイドラインでは
分電盤タイプをさらに次のように分類している。
- 基本型
揺れを感知し、一定時間後(通常3分後)にブレーカーを落とす標準的な仕様 - バリアフリー型
基本型に加え、別の部屋の子機から音声で事前に警告したり、安全確認後に子機から遮断動作を中断したりできる - 増設型
感震機能のない既設分電盤に感震リレーを外付けし、既設の漏電ブレーカーを作動させる
(いわゆる後付型)
コンセントタイプ

未設置のコンセントへの通電は維持されるため、照明などが使え、避難への支障は小さい。
一方、コンセントまでの屋内配線や、未設置のコンセントから出る火災は予防できない。
電気製品の種類やレイアウト変更に合わせた、継続的な見直しが必要。
簡易タイプ

安価で電気工事が不要。
利用者が自分で取り付けるため、設置方法によって作動の信頼性にばらつきが生じるおそれがある。
既設分電盤の形状によっては取付けが困難な場合がある。
作動すると即座に全体の通電が遮断されるため、避難用の照明を別途確保する必要がある。
まずは既設の分電盤を確認する
どのタイプを選ぶかは、今付いている分電盤の状態によっても変わる。
下の写真は、感震機能のない一般的な住宅用分電盤の例。

住宅用分電盤の例。左が主幹ブレーカー、右が回路ごとの分岐ブレーカー(撮影:筆者)
確認したいポイントは次の3つ。
1. 感震機能が付いているか
最近の分電盤には、すでに感震機能が内蔵されているものもある。
本体の表示や型番、取扱説明書で確認してみる。
※写真の分電盤には感震機能に関する表示は見当たらなかった。
2. 主幹が漏電ブレーカーか
後付型(増設型)は、既設の漏電ブレーカーを作動させて電気を遮断する仕組みのため
主幹に漏電ブレーカーが設置されていることが条件となる。

主幹部分の拡大。「主幹用漏電ブレーカ」の表示と、漏電遮断の動作を確かめるテストボタン(赤)がある(撮影:筆者)
写真の例では主幹に漏電ブレーカーが付いているため、後付型を検討できる。
実際に取り付けられるかは、製品ごとの適合条件を確認すること。
3. 簡易タイプを取り付けられる形状か
簡易タイプは、既設ブレーカーのスイッチ(レバー)に器具を取り付けて物理的に落とす仕組み。
写真のようにレバーがカバーの窓の内側にある場合など
レバーの形や周囲のスペースによっては取り付けられないことがある。
購入前に、製品の対応条件と見比べておく必要がある。
選び方のポイント

作動の確実性と避難のための猶予時間を考えると
電気工事を伴う分電盤タイプが最も信頼性の高い選択肢となる。
高齢者や障害のある方がいる世帯では、警告用の子機を備えたバリアフリー型も検討するとよい。
費用や工事がネックになる場合は、簡易タイプやコンセントタイプも有効な選択肢となる。
それぞれ予防範囲や作動の信頼性に違いがあることを、施主・利用者に説明したうえで選定すること。
賃貸住宅では、分電盤の交換・改修や簡易タイプの取付けにあたって
事前に貸主・管理会社の了承を得ておくのが無難となる。
設置率の現状と国の最新動向
全戸に普及すれば焼失棟数は約7割減
内閣府の首都直下地震対策検討ワーキンググループの試算では
感震ブレーカー等の普及により、焼失棟数を大幅に減らせることが示されている。
- 現状(約20%):約26万8,000棟
- 100%:約7万4,000棟(約72%減) ※都心南部直下地震、冬・夕方、風速8m/sの想定
一方、首都圏の住宅における設置率は都県別で約19〜23%にとどまっている
(令和6年度 内閣府調査)。
2026年1月:関係府省庁が連携して設置促進を強化
この試算を受けて、2026年1月27日、内閣官房・内閣府・総務省消防庁・経済産業省・国土交通省が
「感震ブレーカーの設置促進に向けた取組の強化」を発表した。
主な内容は次のとおり。
- 経済産業省
電気事業法に基づく登録調査機関などが各家庭の電気設備を調査する際に
感震ブレーカーの概要や必要性を冊子で周知(令和7年度から開始)。
著しく危険な密集市街地を抱える自治体では、あわせて自治体の補助制度も案内。 - 総務省消防庁
自治体の普及啓発費用に特別交付税措置。令和7年度補正予算で
著しく危険な密集市街地を抱える自治体が感震ブレーカーの購入・取付けを計画的に支援する場合の費用を支援。 - 国土交通省
密集市街地の整備改善の一環として、自治体による感震ブレーカー設置の取組を支援。

対象となる「著しく危険な密集市街地の未解消地区を有する地方公共団体」は、上の地図の15市区(令和5年度末時点)。
- 埼玉県:川口市
- 千葉県:浦安市
- 東京都:品川区、北区
- 神奈川県:横浜市
- 滋賀県:大津市
- 京都府:京都市
- 大阪府:大阪市、豊中市、門真市、寝屋川市、東大阪市
- 兵庫県:神戸市
- 高知県:高知市
- 長崎県:長崎市
補助金制度の活用

設置費用がネックになる場合は
自治体の補助制度を確認してみる。
令和元年の内閣府の調査では、感震ブレーカーの支援制度を設けていた自治体は
都道府県で7府県、市区町村で130だった。
全国的に見ればまだ一部だが
消防庁が令和6年10月時点で調べた結果からは、次のような傾向が分かった。
市町村(130市区町村から抽出した50市町村)
- 対象者:全戸が38(自主防災組織単位や耐震工事と同時などの条件付きを含む)、高齢者・要介護者等が5、木造密集地域等が7 など
- 補助率:2分の1が18、全額が17、3分の2が10、3分の1が4(ほかに配布が5)
- 対象タイプ:分電盤タイプ(内蔵型・後付型)が各40、簡易タイプが38、コンセントタイプが19
府県(7府県)
- 市町村の負担額の2分の1を補助するものが4府県など、市町村の補助に上乗せする形が中心
注意したいのは、ほとんどの制度に上限額があること。
「全額補助」でも上限2,000〜3,000円(簡易タイプ向け)の例から
分電盤タイプに数万円を補助する例まで、自治体によって大きく異なる。
また、制度があっても年間の利用実績が0件の自治体も少なくなく、制度の周知自体が課題になっている。
導入時および復旧時の注意事項

避難時の照明確保
簡易タイプが作動すると、夜間でも家中の照明が即座に消える。
分電盤タイプでも、待機時間の経過後は同様。
停電を検知して自動点灯する保安灯(足元灯)や
すぐに手の届く場所への懐中電灯の配備をあわせて提案してみること。
在宅医療機器への配慮
在宅医療機器(人工呼吸器など)を使用している世帯では、電源の遮断が生命に関わる。
バッテリー等の備えを必ず確認し、遮断範囲や待機時間を含めて慎重に機器を選定すること。
避難時はブレーカーを落とす
感震ブレーカーの有無にかかわらず
地震後に自宅から避難する際はブレーカーを切ることが重要。
利用者への周知もあわせて行うこと。
通電再開(復旧)時の安全確認手順
避難から戻り、ブレーカーを再投入する際は
次の手順を守るよう案内すること。
- ガス漏れのにおいがないか確認する。
- 倒れた電気製品や、損傷した配線・コードがないか目視で点検する。
- 電気製品のスイッチを切り、プラグをコンセントから抜いた状態で主幹ブレーカーを投入する。
- 焦げ臭いにおい・煙・異音などの異常があれば、直ちにブレーカーを再度落とし、消防機関(119番)に連絡する。
まとめ
- 過去の大地震では、電気関係が地震火災の原因の半数以上を占めている。
- 感震ブレーカーは、一般的に震度5強以上の揺れで自動的に電気を遮断し、通電火災を防ぐ。国のガイドラインでは震度5強相当で作動、震度4相当で不作動が基準。
- 種類は分電盤タイプ(工事要)から簡易タイプ(工事不要)までさまざま。予防範囲・作動の信頼性・費用を踏まえて選定する。
- 全戸に普及すれば首都直下地震の焼失棟数を約7割減らせるという試算があり、2026年1月には関係府省庁が連携した取組の強化が発表された。
- 補助制度は自治体によって内容や上限額が大きく異なるため、導入前に必ず確認する。
- 機器の設置だけでなく、停電時の照明確保と、復旧時の安全確認手順もセットで備えることが重要。
参考資料
- 内閣官房・内閣府・総務省消防庁・経済産業省・国土交通省「感震ブレーカーの設置促進に向けた取組の強化」(2026年1月27日)
- 内閣府「首都直下地震対策検討ワーキンググループ」 https://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/taisaku_wg_02/index.html
- 大規模地震時の電気火災の発生抑制に関する検討会「感震ブレーカー等の性能評価ガイドライン」(2015年2月)
- 総務省消防庁「感震ブレーカーの設置・購入に関する都道府県及び市町村の支援(例)」(2024年10月時点の調査)
- 消防庁予防課「通電火災にご注意ください」(2020年9月3日)
- 内閣府 チラシ「地震火災に備えて 感震ブレーカーをつけていますか?」

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