ブレーカーとヒューズは、電気回路を過電流から保護するための重要な安全装置。
どちらも、回路に異常な大電流が流れた際に、回路を「遮断」することで
機器の損傷や火災、感電などの事故を防ぐ役割を担っている。
目次
「トリップ」についての概略

「トリップ(Trip)」という言葉は
主にブレーカーが動作して回路を遮断する状態を指す。
ブレーカーのスイッチが「切」の位置に倒れることで、電気の流れが止まる。
「トリップする」=「ブレーカーが落ちる」と表現されることも多い。
ブレーカーの種類とトリップのメカニズム

ブレーカーにはいくつかの種類があり
それぞれ異なるメカニズムでトリップする。
主なブレーカーとトリップメカニズムは以下の通り。
アンペアブレーカー(契約ブレーカー)

- 役割: 電力会社との契約電流値を超えた場合にトリップし、家庭全体の電気使用量を制限する。
- トリップメカニズム
熱動式(バイメタル方式)
異なる熱膨張率を持つ2種類の金属を貼り合わせた「バイメタル」が内蔵されている。
契約電流を超える電流が流れると、バイメタルが発熱して湾曲し
この湾曲が引き外し機構を動作させてスイッチを「切」にする。
このため、契約電流を少し超えた程度ではすぐにトリップせず
ある程度の時間(数分)が経過してからトリップすることが多い。
安全ブレーカー(配線用遮断器、MCB/MCCB)

- 役割: 分電盤から各部屋やコンセントへ分岐している個別の回路を保護する。
短絡(ショート)や過負荷から電線や接続機器を守る。 - トリップメカニズム
- 熱動式(バイメタル方式)
過負荷(定格電流を多少超える電流)が長時間流れた場合に動作する。
アンペアブレーカーと同様にバイメタルが熱で湾曲し、トリップします。比較的ゆっくりとした動作。 - 電磁式(電磁石方式)
短絡(ショート)のように非常に大きな電流が瞬時に流れた場合に動作する。
コイルに大電流が流れると強力な磁界が発生し、この磁力で鉄心(プランジャー)を引き寄せ
引き外し機構を瞬時に動作させてスイッチを「切」にします。非常に高速な動作が特徴。 - 熱動・電磁式
上記の熱動式と電磁式の両方を組み合わせたものが一般的。
過負荷には熱動式、短絡には電磁式が動作し、回路を保護する。
- 熱動式(バイメタル方式)
漏電ブレーカー(漏電遮断器、ELB/RCD)

- 役割
漏電(電気が本来通るべきではない経路を通って大地に流れる現象)を検知し
感電や電気火災を防ぐ。
主幹ブレーカーとして分電盤全体を保護するものと、個別の回路を保護するものがある。 - トリップメカニズム
モーターブレーカー(MMCB)

- 役割
モーター(電動機)の保護に特化したブレーカー。
モーターの始動電流のような一時的な大電流には動作せず
モーターの過負荷や短絡時に確実に動作するよう、特別な特性を持っている。 - トリップメカニズム
基本的には配線用遮断器の熱動・電磁式に近いが
過電流が流れてからトリップするまでの時間特性(I-t特性)が
モーターの許容電流や始動特性に合わせて調整されている。
具体的には、通常のブレーカーよりも少し動作時間が長く設定されていることで
モーターの始動電流を誤って過負荷と判断し、トリップしてしまうのを防ぐ。
ヒューズの溶断(トリップに相当する現象)

ヒューズは、ブレーカーとは異なり
一度動作すると交換が必要な使い捨ての安全装置。
ブレーカーのように「トリップ」してリセットするのではなく
「溶断(よう-だん)」または「切れる」と表現される。
溶断のメカニズム

- ジュール熱の利用
ヒューズの内部には、融点が低い金属(可溶体またはエレメント)が内蔵されている。
回路に過電流が流れると、この可溶体の電気抵抗によってジュール熱(P=I2R)が発生する。 - 溶融と回路遮断
発生する熱が放熱量を上回り、可溶体の温度がその融点に達すると
金属が溶けて物理的に回路が断線する。
これにより、電流の流れが遮断され、機器や配線が保護される。
ヒューズの特性

- 速断性
短絡電流のような非常に大きな電流が流れた場合
瞬時に溶断して回路を遮断する。半導体保護用ヒューズなどは
非常に速い溶断速度を持つ「速断ヒューズ」と呼ばれる。 - 限流作用
大電流が流れて溶断する際、可溶体が溶融・気化することで一時的に大きな抵抗が生じ
異常電流の増加を抑制する効果がある。 - 種類
流れる電流の大きさや、溶断特性(速断型、タイムラグ型など)
形状(ガラス管ヒューズ、ブレードヒューズ、円筒ヒューズなど)によって様々な種類がある。
ブレーカーとヒューズの比較表

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