蓄電池における過充電とは、蓄電池がすでに満充電に達しているにもかかわらず
さらに充電電流を流し続ける状態を指す。
これは蓄電池にとって非常に有害であり性能の劣化、寿命の短縮、最悪の場合には発熱、発火、爆発といった
重大な事故につながる可能性がある。
目次
過充電のメカニズムと種類による影響

過充電が蓄電池に与える影響は、その種類(鉛蓄電池、リチウムイオン電池など)によって異なるが
基本的なメカニズムは共通している。
鉛蓄電池における過充電

鉛蓄電池の場合、満充電に達すると、それ以上充電電流を流しても電気エネルギーは化学反応として蓄えられず
主に水の電気分解(電解液中の水が水素ガスと酸素ガスに分解される反応)に使われる。
影響と問題点
- ガスの発生(水素ガス、酸素ガス)
水の電気分解により、水素ガスと酸素ガスが発生する。これらのガスは可燃性であり
空気と混合して一定濃度に達すると、引火源(火花など)がある場合に爆発する危険性がある。
密閉型(制御弁式鉛蓄電池)の場合、発生したガスを内部で再結合させる仕組みがあるが
過充電が激しいと再結合が追いつかず、内部圧力が上昇してケースが膨張・破損する可能性がある。 - 電解液の減少(液減り)
ガスの発生に伴い、電解液中の水が消費され、液量が減少する。
液量が極端に減少すると、極板が露出して乾燥し、性能劣化や故障の原因となる。
特に液式鉛蓄電池では定期的な補水が必要になる。 - 極板の腐食・劣化
正極板(陽極)の格子体が過充電によって酸化・腐食し、活物質との結合力が低下する。
これにより、活物質の剥離や脱落が起こり、蓄電池の容量が低下し、寿命が短縮する。 - 発熱
水の電気分解や、極板の劣化反応は発熱を伴う。過充電による発熱は、さらに化学反応を促進させ
劣化を加速させる悪循環を引き起こす。高温は蓄電池の寿命を著しく縮める最大の要因の一つとなる。 - サルフェーションの促進
過充電は、特に高温環境下で、電解液の硫酸鉛が硬い結晶(サルフェーション)として極板表面に形成されるのを促進することがある。これにより、充電効率が低下し、最終的に充電を受け付けなくなる可能性がある。 - 安全弁の作動
密閉型鉛蓄電池では、内部圧力が高くなりすぎると安全弁が開き、ガスを外部に放出する。
しかし、これにより電池内部の水分が失われ、性能が低下する。
リチウムイオン電池における過充電

リチウムイオン電池は、鉛蓄電池とは異なる化学反応を利用しており
過充電に対する危険性がより高いとされている。
影響と問題点(特に危険性)
- 内部反応の制御不能化(熱暴走のリスク)
満充電を超えて充電を続けると、正極のリチウムイオンが過剰に電解液中に溶出し
正極の構造が不安定になる。
同時に、負極に金属リチウムが析出(デンドライト形成)したり電解液の分解反応が促進されたりする。
これらの反応は発熱を伴い、さらに温度が上昇すると電解液の分解が加速され
酸素ガスや可燃性ガスを発生させる。
最終的には、内部温度が急激に上昇し、熱暴走(Thermal Runaway)と呼ばれる状態に陥る可能性がある。
熱暴走は、内部の温度が急激に上昇し、自己発熱によってさらに温度が上がるという連鎖反応で
一度始まると止まらず、発火や爆発につながる。 - 発火・爆発
発生したガスが内部圧力を高め、ケースを膨張・破裂させることがある。
破裂と同時に、可燃性ガスや電解液が外部に噴出し、空気と混ざることで発火
さらには爆発を引き起こす非常に危険な状態となる。 - デンドライト(針状結晶)の形成
過充電により、負極表面にリチウム金属の針状結晶(デンドライト)が析出することがある。
このデンドライトが成長すると、セパレーター(正極と負極を隔てる絶縁体)を突き破り
内部で短絡(ショート)を引き起こし、発熱・発火の原因となる。 - 容量の低下と寿命短縮
過充電は、電極の劣化、電解液の分解、内部抵抗の増加など
蓄電池の構成要素に不可逆的な損傷を与え、結果として容量が大幅に低下し、寿命が著しく短くなる。 - 膨張
内部で発生したガスによって、電池パックが膨らむことがある。
スマートフォンのバッテリー膨張などがその典型例。
膨張したバッテリーは内部で異常が起きている証拠であり、使用を中止し、適切に廃棄する必要がある。
過充電を防ぐための対策

最近の蓄電池、特にスマートフォンやノートパソコンなどの電子機器に内蔵されているリチウムイオン電池は
非常に高度なBMS(バッテリーマネジメントシステム)によって過充電が厳しく制御されている。
これにより、通常の使用では過充電が起こることはほとんどない。
しかし、産業用や非常用電源など、より大規模な蓄電池システムや
古いタイプの充電器を使用する場合には、BMSが搭載されていない可能性があり注意が必要。
主な対策
- 適切な充電器の使用
蓄電池の種類や容量に合った、適切な電圧・電流制御機能を備えた充電器を使用することが最も重要。 - 充電電圧・電流の正確な管理
- 定電圧充電
満充電に近づくと電流を絞り、規定の電圧で充電を維持する方式が一般的。
浮動充電もこの一種。 - 電圧監視
充電中の蓄電池の電圧を常に監視し、規定の電圧を超えないように制御する。
特にリチウムイオン電池では、セルごとの電圧を厳密に管理する「セルバランシング機能」が必須。 - 電流制限
過剰な充電電流が流れないように制限する。
- 定電圧充電
- 温度監視
充電中の蓄電池の温度を監視し、異常な発熱を検知した場合は充電を停止または制限する。
高温は過充電のリスクを高めるため、設置場所の温度管理も重要。 - タイマー制御
特定の状況下では、充電時間を制限するタイマーを設けることもある。 - 定期的な点検・メンテナンス
液式鉛蓄電池の場合は、電解液の液量や比重のチェック、補水などの定期的なメンテナンスが不可欠。
異常(膨張、異臭、発熱など)に気づいた場合は、直ちに使用を中止し、専門業者に相談すること。
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