「大地震が来たら、うちのキュービクルは大丈夫なのか?」
能登半島地震(2024年)をはじめ近年の大規模地震では
高圧受変電設備(キュービクル)の損壊や長期停電、
復旧時の通電火災といった二次災害が繰り返し問題になった。
電気主任技術者には、設備の耐震状況を把握し
設置者・管理者に対して「どこを・なぜ・どう直すか」を具体的に提案することが求められる。
本記事では、過去の地震で実際に多かった被害パターンから
キュービクル・変圧器・引込設備の耐震対策、さらに地震後の点検・復電手順までを
現場目線で整理した。
地震で受変電設備に起きやすい被害パターン

地震の揺れでは、機器そのものの強度よりも
「固定部」と「接続部」に力が集中して壊れるケースが目立つ。
点検やリスク評価では、次の4パターンを念頭に置く必要がある。
① 変圧器の移動とブッシングの破損
変圧器本体と、そこにつながる低圧母線(銅バー)は揺れ方が異なる。
両者を剛な銅バーで直結していると
相対変位による力が接続部のブッシング(磁器製の絶縁物)に集中し、割れてしまう。
特に騒音・振動対策で防振ゴムの上に載せた変圧器は大きく揺れやすく
耐震ストッパーがないと移動・脱落につながる。
② キュービクル・盤の移動、転倒
アンカーボルトの本数・径の不足、基礎コンクリートの劣化、ボルトの腐食などが原因で
キュービクル自体がずれたり転倒したりする。
屋上や上層階の設置は地上より揺れが大きくなるため、より注意が必要。
③ 地盤変動による地中ケーブル・管路の損傷
液状化や地盤沈下で建物・基礎と周辺地盤に段差(不同沈下)が生じると
地中の管路や、そこから立ち上がる引込ケーブルが引っ張られて損傷する。
被覆の傷は外から見えにくく、後日の地絡事故として表面化することもある。
④ 引込柱の傾斜・開閉器(PAS)の損傷
引込柱が傾いたり大きく揺れたりすると
柱上の区分開閉器(PAS)の取付部・がいしの損傷や、高圧線の断線・樹木接触による地絡・短絡が起こる。
自家用設備の事故が配電線へ波及すると、周辺地域まで停電させる波及事故になる可能性がある。
現場で提案すべき具体的な耐震対策
キュービクルや変圧器の耐震設計は
一般に「建築設備耐震設計・施工指針」(日本建築センター)の考え方がベースになっている。
同指針では、設置階が上になるほど設計用の地震力(設計用標準震度)が大きく設定されており
「同じ機器でも、1階と屋上では必要な固定強度が違う」点がポイントとなる。
キュービクル・変圧器まわりの対策

- 低圧母線の接続部に「可とう導体」を使う
変圧器二次側のブッシングと銅バーの接続部に
編組線などの可とう導体(フレキシブル導体)を入れることで
揺れによる相対変位を吸収し、ブッシングの破損を防ぐ。 - 防振ゴム付き変圧器には「耐震ストッパー」を
防振装置で支持された変圧器は、上下・水平方向の移動を制限する耐震ストッパーが付いているかを確認する。
ストッパーのボルトの緩みや、防振ゴムの劣化(ひび割れ・硬化)も点検項目となる。 - キュービクル・機器の確実な固定
キュービクル本体のアンカーボルトに加え、内部の変圧器・コンデンサ等の機器固定ボルトも確認する。
設置階や機器重量に応じたアンカーボルトの径・本数・埋込深さが適切か
施工業者・メーカーと耐震計算の有無を含めて再確認する。 - 引込ケーブルの損傷対策
建物・基礎への導入部には可とう電線管などのフレキシブルな配管を用い
ケーブル自体にも十分な余長(たるみ)を持たせる。
液状化が懸念される地域では特に重要となる。
屋外設備(引込柱・高圧配線)の対策

- 引込柱の傾斜対策
地盤の緩みを考慮し、根かせの追加や、電線の張力と反対側への支線の設置で傾斜・倒壊を防ぐ。
根入れ深さが十分かも確認する。 - 高圧配線の短絡・地絡防止
揺れで建物や周辺樹木と接触しないよう、十分な離隔距離を確保する。
樹木の枝払いも定期的に提案すること。
あわせて、がいしのひび割れやバインドの緩みを点検し、電線が腕金に接触するのを防ぐ。 - 区分開閉器(PAS等)の脱落防止
取付金具・ボルトの強度に余裕を持たせ、定期的な増し締めと腐食点検を行う。
また、地絡継電装置付き(SOG)であれば、地震で構内側に地絡が発生しても自動で切り離し、波及事故の防止につながる(PAS本体や電源側の損傷は対象外)。
点検でそのまま使える耐震チェックリスト
| 点検箇所 | 確認ポイント |
|---|---|
| キュービクル基礎 | アンカーボルトの緩み・腐食、基礎コンクリートのひび割れ |
| 変圧器 | 固定ボルトの有無、防振ゴムの劣化、耐震ストッパーの有無 |
| 低圧母線接続部 | 可とう導体が使われているか(銅バー直結になっていないか) |
| 盤内機器 | コンデンサ・計器用変成器などの固定状態 |
| 引込ケーブル | 導入部の可とう管、ケーブルの余長 |
| 引込柱 | 傾き、根かせ・支線(玉がいし)の状態 |
| 区分開閉器(PAS等) | 取付ボルトの緩み・腐食、引下げ線のたるみ |
| 高圧架空線 | 樹木・建物との離隔、がいしのひび割れ・バインドの緩み |
地震発生後の点検と復電の手順

停電した設備に電気が戻る瞬間は、最も事故が起きやすいタイミングとなる。
地震後は「すぐに投入しない」ことを徹底する。
- 安全確認
余震・建物損傷・浸水の有無を確認し、二次被害のおそれがあれば近づかない。 - 外観点検
キュービクルの移動・傾き、変圧器・ブッシングの破損、油漏れ、焦げ臭いにおいの有無を確認。 - 引込設備の確認
引込柱・PAS・ケーブルの損傷と、PAS(SOG)のトリップ・ロック状態を確認。異常があれば電力会社へ連絡する。 - 絶縁抵抗の測定
異常が疑われる回路は、停電・検電・接地を行ったうえで、送電前に絶縁抵抗を測定する。 - 段階的な送電
負荷側の遮断器をすべて開放した状態で受電し、回路ごとに1つずつ投入して異常がないか確認する。
施設利用者・従業員への啓発事項(通電火災などの二次災害防止)

内閣府の検討会によると、阪神・淡路大震災や東日本大震災では
揺れに伴う火災のうち原因が特定されたものの過半数が電気関係の出火だった。
停電からの復旧時に、倒れた電熱器具や損傷した配線に再び電気が流れて出火する「通電火災」がその代表例。
設備側の対策とあわせて、利用者への周知も提案することが推奨される。
- 発災時の初動
避難するときは、使用中の電気器具のスイッチを切り
電気ストーブやアイロン・ドライヤーなどの電熱器具はコンセントから抜く。
可能であれば分電盤のメインブレーカー(主幹)を切ってから避難する。
ただし施設では、冷蔵設備・サーバー・医療機器なども止まるため、誰がどの盤を切るかを事前に決めておく。 - 感震ブレーカーの導入
一定以上の揺れを感知すると自動で電気を止める感震ブレーカーは、国も設置を推奨している。
夜間・不在時の通電火災対策として有効。
作動すると照明も消えるため、足元灯や懐中電灯をあわせて備える。 - 平時の備え
分電盤の位置を日頃から周知し、可能であれば
漏電遮断器のテストボタンによる動作確認を定期的(目安は月1回)に行う。
テスト中はその回路が停電するため、業務に影響しない時間に行う。 - 浸水した電気製品・配線は使わない
水につかった屋内配線や電気製品は
乾いたように見えても内部の絶縁が劣化しており漏電・発火のおそれがある。
自己判断で使用せず、電気工事店や販売店・メーカーの点検を受けること。
よくある質問

Q. 古いキュービクルでも耐震補強は可能?
A. 可能。アンカーボルトの追加・交換、可とう導体への変更、耐震ストッパーの追加などは
設備全体を更新しなくても実施できる。
ただし劣化が進んでいる場合は、更新時期とあわせて検討するのが効率的。
Q. 耐震対策は義務ですか?
A. 電気設備に関する技術基準では、電気設備が損壊などにより人体や物件に危害を及ぼさないことが求められており、民間規格の高圧受電設備規程(JEAC 8011)にも耐震に関する規定がある。
また、建物の屋上などに設置する場合は、建築設備として建築基準法の耐震規定も適用される。
具体的な対策の範囲は、設置場所や施設の重要度に応じて設置者・電気主任技術者で判断すること。
Q. 地震で停電したら、すぐにキュービクルを確認すべきですか?
A. まずは人命と安全の確保が最優先となる。
余震や建物損傷の危険がない状況になってから
電気主任技術者が外観点検を行い、異常がないことを確認してから復電する。
まとめ

受変電設備の地震被害は、「固定の不足」と「接続部の柔軟性不足」から起きるケースが多い。
可とう導体、耐震ストッパー、アンカーボルト、引込部の余長といった対策は
比較的低コストで効果が大きい。
次回の点検では、本記事のチェックリストを使って設備を見直し
設置者への提案につなげたい。
参考資料
内閣府「大規模地震時の電気火災の発生抑制に関する検討会」報告
一般財団法人日本建築センター「建築設備耐震設計・施工指針」

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