コロナ臨界電圧とは、送電線や変電機器などの高電圧が印加された導体の表面において
周囲の空気が絶縁破壊を起こし、コロナ放電が始まる最小の電圧を指す。
別名、「コロナ開始電圧」とも呼ばれる。
コロナ臨界電圧は、電力系統の安定運用と効率性
環境への影響を考える上で非常に重要な概念となる。
目次
コロナ臨界電圧のメカニズムと重要性

コロナ放電は、導体表面の電界(電場の強さ)が、
周囲の空気の絶縁耐力(空気が電気を絶縁できる限界の電界強度)を超えたときに発生する。
この「空気が絶縁破壊を起こし始める電界強度」に対応する導体への印加電圧が、コロナ臨界電圧となる。
電界の集中と空気の電離
導体の表面、特に曲率の大きい部分(細い電線、表面の傷や突起、水滴、雪の付着など)には
電界が集中しやすくなる。この電界が一定の値を超えると、空気中の分子がイオン化(電離)され
コロナ放電が始まる。
コロナ臨界電圧の重要性
- 電力損失の抑制
コロナ放電が発生すると、光、熱、音としてエネルギーが消費され
電力損失(コロナ損失)が発生する。
コロナ臨界電圧を高く設計することで、通常運用時にコロナ放電の発生を抑え
電力損失を最小限に抑えることができる。
- 電波障害・騒音の防止
コロナ放電は、電磁波ノイズや騒音(コロナ音)を発生させる。
コロナ臨界電圧以下で運用することで、これらの障害を抑制し、周辺環境への影響を軽減する。 - 絶縁劣化の防止
長期間にわたるコロナ放電は、オゾンの発生などを通じて絶縁材料を劣化させ
最終的な絶縁破壊(アーク放電、地絡事故)につながる可能性がある。
コロナ臨界電圧を高く保つことは、設備の長寿命化と信頼性向上に寄与する。 - 送電容量の確保
前述のコロナ損失や絶縁劣化は、送電可能な電力量(送電容量)に制約を与える。
コロナ臨界電圧を高く保つことで、より高い電圧で安全に送電することが可能となり
結果として送電容量の増大に貢献する。
コロナ臨界電圧に影響を与える要因

コロナ臨界電圧は、様々な要因によって変動する。
設計や運用においては、これらの要因を考慮する必要がある。
導体の形状と寸法
- 直径(または等価半径)
導体が太いほど、表面の電界集中が緩和され、コロナ臨界電圧は高くなる。
これが、超高圧送電線で「多導体方式」(複数の細い電線を束ねて一本の相を構成する)が
採用される主な理由の一つ。
多導体化により、実質的な直径(等価半径)が大きくなりコロナ臨界電圧が上昇する。
例)単導体に比べて15~20%程度上昇すると言われる。 - 表面状態
導体表面の傷、汚れ、水滴、雪、氷の付着などは、局所的に電界を集中して、コロナ臨界電圧が低下する。
気象条件
- 空気密度
気圧が低い(標高が高い)ほど、また気温が高いほど、空気密度が低下し、空気分子の数が減るため
絶縁耐力が低下し、コロナ臨界電圧も低くなります。 - 湿度
湿度が高いと、空気中の水蒸気によって絶縁耐力が低下し
コロナ臨界電圧が低くなる傾向がある。
霧や雨、雪などの悪天候時にはコロナ放電が発生しやすくなる。
導体配置
- 導体間の距離
導体同士の距離が近すぎると、相互作用によって電界が集中し
コロナ臨界電圧が低下することがある。
- 相配置
三相送電線における相配置も電界分布に影響を与え
コロナ臨界電圧に影響を及ぼす。
コロナ臨界電圧の計算(ピークの式)

コロナ臨界電圧は、主に導体の半径、空気密度、表面状態、導体の配置などに基づいて計算される。
簡略化されたピークの式では、単導体の場合のコロナ開始電界強度 Ec は以下のように表される。
Ec=E0δm(1+δrk)
- Ec:コロナ開始電界強度(V/mまたはkV/cm)
- E0:標準状態(20℃、760mmHg)での空気の
絶縁破壊電界強度(約 30 kV/cm [波高値] または約 21.2 kV/cm [実効値]) - δ:相対空気密度(標準状態の空気密度を1とした場合の比率)
- m:表面係数(導体表面の滑らかさを示す係数。平滑な導体で約1.0、劣化した導体で0.8~0.9程度)
- k:定数
- r:導体の半径(mまたはcm)
この Ec から、導体の配置などを考慮して、印加すべきコロナ臨界電圧が計算される。
実際には、送電線の設計においては、このコロナ臨界電圧が運用電圧よりも十分に高くなるように設計される。

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