アルカリ蓄電池についての概略

アルカリ蓄電池とは
屋外及び建物の中の受変電設備や消防施設等の非常電源、予備電源用として、
屋内・屋外キュービクル、電気室や蓄電池室等に設置されるアルカリ蓄電池を指す。
主な特徴
また鉛蓄電池は角形電池だが、アルカリ蓄電池は角形電池の他にも
乾電池の様な形状の円筒状のものもある。
アルカリ蓄電池の原理

電解液は水酸化カリウム(KOH)。
充電状態の場合
正極活物質はニッケル酸化物(オキシ水酸化ニッケル:NiOOH)
負極活物質はカドミウム化合物(金属カドミウム:Cd)
放電を行うと
正極は還元されて水酸化ニッケル(Ni(OH)2)に
負極は酸化されて水酸化カドミウム(Cd(OH)2)となって
正極から負極に電流が流れる。
また、充電すれば逆の反応が生じ電気エネルギーを蓄える。
化学式

電解液中の水酸化カリウム(KOH)は直接的に充放電反応には関与せず
陽極陰極間のイオンの移動を容易にするための導電性を与えるもの。
したがって、鉛蓄電池とは異なり、充放電によって
電解液の比重は変化しないので日常の比重測定は不要。
しかし、電解液の比重が規定より低いと、電解液の抵抗が増加して特性が低下したりする。
逆に高い場合は、構成部分の劣化を促進することがあるので
1年に1回の頻度でパイロットセルを決めて測定することを推奨している。
アルカリ蓄電池の種類

アルカリ蓄電池の構造は「ベント形」「触媒栓式」「シール形」の3種類がある。
(上記図参照)
ベント形
排気栓(液口栓)に防爆機能を持たせ、アルカリ霧(大量の電解液)が出るのを防ぐ構造をしている。
充電中に電解液中の水が電気分解され(陽極から酸素ガス、負極から水素ガスを発生)
電解液が減少してしまう。
このため、ベント形は定期的な補水が必要となる。
触媒栓式
水の電気分解により発生する酸素ガスと水素ガスを触媒の作用で水に戻すため
補水の手間をなくすことができる。
しかし、触媒栓には寿命があるため、その費用と手間が必要になる。
シール形
負極の容量を正極の容量より大きくすると
正極から発生する酸素ガスは負極に吸収され、負極からは水素ガスを発生させないため
補水をまったく必要としない。
ベント式と触媒栓式は、極板の形状によって「焼結式」と「ポケット式」の2種類に分けられる。
いずれも電解液は主にアルカリ性水溶液である水酸化カリウムが主に使われており
このことからアルカリ蓄電池と呼ばれている。
「密閉式」は建物内の自動火災報知機、非常警報設備、非常放送設備、防火シャッター、誘導灯の予備電源
に使用されるため説明省略
ポケット式アルカリ蓄電池
極板は多数の小さな穴をあけた薄い鋼板の縁を折り曲げてポケットを作り
その中に正極は水酸化ニッケルと黒鉛、負極はカドミウムと鉄からなる活物質を
それぞれ充填して板状に配列したもの。
電解液は時間の経過とともに消費して減るので定期的に精製水を補充する必要がある。
具体的な用途や設置場所
受変電設備や非常照明、非常用発電機始動用、鉄道車両の始動用や非常用電源
焼結式アルカリ蓄電池
極板はニッケル粉末を焼結した多数の穴があいた薄い鋼板に
正極は水酸化ニッケル、負極は水酸化カドミウムをそれぞれ活物質として充填させた物。
電解液は時間の経過とともに消費して減るので定期的に精製水を補充する必要がある。
(具体的な用途や設置場所)
受変電設備や非常照明、非常用発電機始動用、鉄道車両の始動用や非常用電源
アルカリ蓄電池の使い分け

負荷時間
アルカリ蓄電池の適した負荷時間は、短い順にタイプを示すと
AHH(15分)→AH(30分)→AMH(1時間)→AM(5時間) となる。
メンテナンス
手間のかかる順に、
ベント形→触媒栓式→シール形 となる。
※蓄電池の監視が不要なのはシール形
コスト
ポケット式のほうが焼結式より安価。
用途
発電所の遮断器操作用ならばAHかAMHを
非常用発電機の始動用ならば、AHHが推奨される。
アルカリ蓄電池の寿命

アルカリ蓄電池は構造的に鉛蓄電池よりも堅牢で長寿命だが、
あくまで消耗品であり、定期的な点検や交換は必要となる。
これを怠ると非常時に満足な動作ができない場合や
最悪の場合は火災の原因になることもある。
各アルカリ蓄電池の期待寿命は以下のようになる。

※保守点検の実施頻度は年1~2回を推奨している。
アルカリ蓄電池の劣化要因

ポケット式
長期間の使用で正極活物質の導電材が正極から発生する酸素により酸化し、
導電性が悪くなることで容量が低下。
ポケット式は蓄電池内のセパレータが無く、内部短絡が要因となることは少ないため、
外観の目視のみでは劣化進行の具合が分からない場合が多数。
焼結式
充放電を繰り返す中で負極活物質のカドミウムの結晶が粗大化し、
化学反応する為の表面積が減少して容量が低下。

アルカリ蓄電池の適正使用環境

アルカリ蓄電池は熱に敏感な蓄電池と言えます。
焼結ベント式を例にした場合
温度が高くなることによって負極板活物質のカドミウムが電解液中に
溶解し易くなり、それがセパレータ上で結晶化し、成長してセパレータを貫通し
正極とつながることによって短絡を起こし、早期に寿命を迎える可能性がある。
上記を予防するために適切な蓄電池の使用環境温度は、25℃とされている。
蓄電池の交換時期が近い時に現れる兆候
① 電解液量の減りが異常に早い
② アルカリ蓄電池本体にキズやヒビ割れ等がある
③ 接続部に過度なサビ等の異常がみられる
④ 電解液が過度に染み出している
⑤ 汚れが浮いている
⑥ 各電池の浮動充電電圧にばらつきがある
上記の兆候が見られる場合は、危険信号であり
お早めに点検業者・製造メーカーへお問い合わせが推奨される。
アルカリ蓄電池セルフチェックの方法
アルカリ蓄電池の交換時期は、蓄電池が収納されているキュービクルの扉内側や、
台車に貼り付けてある製造業者のラベルを確認することで暫定的な判断が可能。
ラベルには、メーカー名・蓄電池名称・製造年月が記載されている。
※触媒栓付きの場合は触媒栓の交換時期のラベルも貼り付けてある。
鉛蓄電池の比較

コスト
鉛蓄電池のほうが安価。
容量が大きくなればなるほど大きな価格差がでる。
寿命
鉛蓄電池はHS形、HSE形で5~7年、MSE形で7~9年。
これに対し、アルカリ蓄電池は12~15年で、寿命は長い。
※エンジン始動用、CVCF用などの短時間負荷ならアルカリ蓄電池のほうが小さい容量で済む。
参考資料
https://corp.furukawadenchi.co.jp/ja/news/news20211008.html
アルカリ蓄電池とは?保守点検方法や交換時期を古河電池が解説! より一部引用
新電気2019年 4月号 理論と実務を結ぶ電気のQ&A 蓄電池 その1 より一部引用

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