表皮効果(Skin Effect)とは、交流電流が導体を流れるときに、電流が導体の中心部ではなく
表面近くに集中して流れる現象のことを指す。周波数が高くなるほど、この現象は顕著になる。
表皮効果の原理

- 交流電流による磁界の変化
交流電流が導体を流れると、その電流によって導体の周囲に磁界が発生する。
交流電流は時間とともに大きさと方向が変化するため、この磁界も時間的に変化する。 - 電磁誘導による渦電流の発生
時間的に変化する磁界は、ファラデーの電磁誘導の法則に基づき、導体自身の中に「誘導起電力」を発生させる。この誘導起電力によって、導体内部には「渦電流(うずでんりゅう)」と呼ばれる電流が流れる。 - 渦電流の向きと電流集中
レンツの法則によれば、誘導起電力によって発生する渦電流は
元の磁界の変化を妨げるような方向に流れる。- 導体の中心部
導体の中心部では、周囲を流れる電流によって発生する磁界が全体的に集中し
その磁界の変化を打ち消すような渦電流が発生する。
この渦電流の向きは、元の電流の向きと逆方向になるため、中心部では元の電流が流れにくくなる。 - 導体の表面部
導体の表面部では、磁界の変化が中心部に比べて少なく
また、渦電流の向きが元の電流を助けるような方向に働く傾向があるため
電流が流れやすくなる。
- 導体の中心部
この結果、電流は導体の中心を避け、表面に集中して流れることになる。
表皮深さ(Skin Depth)について

表皮効果の度合いを示す指標として、「表皮深さ(d)」という概念がある。
これは、導体表面の電流密度が、表面から内部へ深さが増すごとに 1/e(約37%)に減衰する深さを表す。
表皮深さが小さいほど、電流はより表面に集中していることを意味する。
表皮深さ d は以下の式で表される。
d=ωμ2ρ
- ρ:導体の電気抵抗率(Ω⋅m)
- ω:電流の角周波数(=2πf, rad/s、f は周波数)
- μ:導体の透磁率(H/m)
この式からわかるように、
- 周波数 f が高いほど、表皮深さ d は小さくなり、電流はより表面に集中する。
- 導電率(抵抗率の逆数)が高いほど、表皮深さ d は小さくなる。
- 透磁率 μ が高いほど(磁性体など)、表皮深さ d は小さくなる。
表皮効果の影響と問題点

表皮効果は、特に電力系統や高周波回路において
以下のような問題を引き起こす。
実効抵抗の増加(抵抗損失の増大)
電流が導体の表面に集中することで、電流が流れる実質的な断面積が減少する。
これにより、直流電流を流した場合に比べて、交流電流を流した際の実効的な抵抗値が大きくなる。
結果として、送電線やケーブルでの電力損失(I2R損失)が増大し、送電効率が低下する。
発熱の増加
実効抵抗の増加は、導体内部での発熱量の増加に直結する。
これにより、機器の過熱や損傷のリスクが高まる。
送電容量の低下
熱的制約の観点から、電線の許容温度が決まっているため
実効抵抗が増加すると同じ温度上昇を許容できる電流値が減少する。
=送電可能な最大電力が低下する。
表皮効果の対策

電力系統や高周波回路では、表皮効果による悪影響を抑えるために
以下のような対策が取られる。
多導体方式の採用(電力送電線)
一本の太い電線ではなく、複数の細い導体を束ねて使用する「多導体方式」が採用される。
これにより、導体全体の表面積が大きくなり、電流が分散して流れやすくなるため
実効抵抗の増加を抑制できる。また、コロナ放電の抑制にも効果がある。
中空導体の使用
特に高周波大電流を扱う場合、導体の中心部分にはほとんど電流が流れないため
導体を中空構造にすることで、材料の無駄をなくしつつ、軽量化や放熱性の向上を図ることができる。
リッツ線の使用(高周波回路)
高周波コイルなどに用いられる「リッツ線」は、細い絶縁された多数の素線を撚り合わせた構造をしている。
各素線が独立して電流を分担することで、表皮効果による電流の集中を緩和し、実効抵抗の増加を抑える。
導体の形状変更
円形断面の導体だけでなく、平たいバスバー(棒状導体)などを採用し
表面積を増やして電流を分散させることもある。
日常生活での表皮効果の例

- IHクッキングヒーター
IHクッキングヒーターは、高周波の交流磁場を利用して鍋底に渦電流を発生させ
発熱させることで調理を行う。この渦電流は鍋底の表面に集中して流れるため
鍋の表面だけが効率よく発熱し、内部はあまり熱くならないといった特性が表皮効果によって説明される。 - 高周波トランス
無線機器などに使われる高周波トランスの巻線には
表皮効果による損失を減らすためにリッツ線が使われることがある。

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