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送電容量についての基礎知識まとめ

送電容量とは、ある送電線路が、電気の品質(電圧、周波数など)を保ちながら
安全かつ安定的に送電できる最大の電力(電力量)のことを指す。
単位は通常、メガワット(MW)で表される。
送電容量は、安定した電力供給を確保し、電力系統の効率的な運用を行う上で非常に重要な指標となる。

※送電容量は単に電線の太さだけで決まるものではなく
様々な制約要因によって複雑に決定される。

目次

送電容量を決定する主な要因

送電容量は、主に以下の3つの観点から決定される。

熱的制約(許容電流

原理

電線に電流が流れると、抵抗によってジュール熱(P=I2R)が発生し、導体の温度が上昇する。
この温度上昇が許容温度を超えると、電線の伸び(たるみ)が大きくなり、電線が地表面に接近したり
隣接する電線と接触したりする危険性がある。
また、電線の引張強度が低下したり、絶縁被覆が劣化したりする可能性もある。

影響要因

電線の種類、導体数、直径、周囲温度、風速、日射量などの気象条件によって
電線の許容温度とそこから導かれる許容電流が変動する。

対策

  • 多導体方式の採用
    複数の導体を束ねることで、実質的な断面積を増やし、電流密度を下げて温度上昇を抑える。
  • 耐熱電線の導入
    より高い温度に耐えられる電線材料を使用する。
  • ダイナミックレーティング(DLR)
    気象条件(気温、風速、日射量など)をリアルタイムで監視し
    それに応じて送電線の許容電流を動的に調整する技術のこと。
    これにより、従来の固定的な評価よりも高い容量で運用できる可能性がある。

安定度制約

電力系統は、発電機が同期して安定に運転していることで成り立っている。
この同期が乱れると、発電機が停止したり、大規模な停電(ブラックアウト)につながる可能性がある。
送電容量は、この安定度を維持できる範囲で決定される。

  • 定態安定度
    日常的な負荷変動や送電線の停止操作などの比較的ゆっくりした変化に対して
    系統が安定を保てる度合いを示す。
    送電線の距離が長くなると、インピーダンスが増加し、安定度が低下する傾向がある。

  • 過渡安定度
    落雷短絡事故など、急激で大きな外乱が発生した際に
    系統が安定運転を継続できる度合いを示す。
    事故時の発電機の脱調(同期運転からの逸脱)を防ぐことが重要となる。

  • 電圧安定度
    負荷の増加などによって系統電圧が維持できなくなり
    電圧が急激に低下(電圧崩壊)する現象を防ぐ能力を示す。
    送電線に流せる電力は、系統電圧の2乗に比例するため、電圧の維持は送電容量に直結する。

対策

  • 高電圧化
    電圧を上げると、同じ送電電力でも電流を小さくできるため
    熱的制約や電圧降下を軽減し、安定度を向上させることが可能。

  • 直列コンデンサの設置
    送電線路のインピーダンスを補償し、電圧降下を抑制し、安定度を向上させる。

  • 調相設備の設置
    SVC(静止型無効電力補償装置)やSTATCOM(静止型同期補償装置)などの調相設備を設置することで
    系統の無効電力を調整し、電圧安定性を向上させる。

  • 高速遮断・再閉路
    事故発生時に、保護リレーが高速で事故区間を切り離し、短時間で再閉路を行うことで
    系統の動揺を抑制し、安定度を向上させる。

  • 系統連系線の増強
    複数の電力系統を強固に接続することで、事故時の影響を分散させ、系統全体の安定度を高める。

    電圧降下制約

    原理

    送電線には抵抗やリアクタンスがあるため、電力を送ると電圧が降下する。
    受電端の電圧が規定値以下になると、需要家側で機器の動作不良や性能低下を引き起こす可能性がある。

    影響要因

    送電線の長さ、電流の大きさ、力率などが影響する。長距離送電線で特に問題となりやすい。

    対策

    • 高電圧化
      電流を小さくすることで電圧降下を抑制する。

    • 調相設備の設置
      受電端に無効電力を供給することで、電圧を維持・向上させる。

    • 中間開閉所の設置
      長距離送電線の場合、途中に変電所を設けて電圧を調整する。

    その他の考慮事項

    • 経済性
      送電容量を増やすためには、電線の増強、鉄塔の強化、変電設備の増設など、多大なコストがかかる。
      需要と供給のバランス、将来の電力需要予測、再生可能エネルギーの導入拡大などを考慮し
      経済性と信頼性のバランスを考慮して最適な送電容量が計画される。

    • 運用上の制約
      系統運用においては、N-1故障基準
      (一つの送電線や発電機が停止しても、残りの設備で安定供給が継続できること)といった信頼度基準を
      満たす運用が求められる。
      この基準を満たすために、平常時の送電容量が制限されることがある。

    • 環境への影響
      送電線の新設や増強は、景観、電磁界、騒音など、周辺環境への影響も考慮する必要がある。

    送電容量のまとめ

    送電容量は、単に「どれくらいの電気を送れるか」という量的な側面だけでなく
    いかに安全に、安定して、品質を保ちながら送れるか」という質的な側面も強く反映された
    非常に複合的な概念のことをあらわしている。
    電力の安定供給を支える上で、送電容量の適切な設計と運用は不可欠であり
    近年では、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、送電系統の柔軟な運用と容量拡大がますます重要になっている。

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