接地形計器用変圧器(EVT)についての概略

EVTは、主に高圧・特別高圧受電設備において
地絡事故時の零相電圧を検出するために用いられる特殊な計器用変圧器。
接地形というように一次端子の一端を接地して使用している。
EVTは(Earthed Voltage Transformer)の略で、日本語では「接地形計器用変圧器」という。
以前はGPT(Grounding Potential Transformer)という文字記号が使用されていた
EVTとGPTは同じもの。
下記外部結線図からわかるように、一次巻線と二次巻線はY接続で、三次巻線はΔ接続とし
一端を開放して、そこに電流制限抵抗(CLR)を挿入する。
一次巻線は高圧側に接続して、その中性点はA種接地とする。
また、二次巻線は通常の計器用変圧器として使用する。

接地形計器用変圧器(EVT)の定格電圧

EVTの定格電圧は
一次側は6600V、二次側は110V、三次側は190/3V(110/3Vのものもある)となっている。
そして、一次側、二次側、三次側の結線は
Y-Y-オープンΔ(オープンデルタ)となっているので
各巻線の電圧はそれぞれ次のようになる。
一次側:6600/√3 V
二次側:3110/√3 V
三次側:190/√3 V
したがって、一次側と二次側の変圧比n12は、
n12=6600/√3 ÷3110/√3 =60
一次側と三次側の変圧比n13は、
n13=6600/√3 ÷190/√3 =60
と、どちらも同じ変圧比になる。
接地形計器用変圧器(EVT)の目的と役割

EVTを設置する目的は、地絡事故時に発生する零相電圧を検出すること。
高圧配電線の地絡事故時には、EVTの三次巻線に電圧が発生するので
これにより保護装置を動作させる。発生する零相は、受電相電圧が最大となり
地絡点の抵抗が大きくなるほど小さくなり、健全時には電圧が発生しない。
(ただし、配電線の線路定数のアンバランスや不平衡負荷などがあると残留電圧が発生するがこの値は一般に小さい)。
また、高圧配電線はほとんどが中性点非接地方式を採用しており
完全に非接地であると1線地絡時に異常電圧が発生する場合があるので
これを防止する役割もある。
接地形計器用変圧器(EVT)の役割:詳細Ver
- 零相電圧の検出
- 健全な状態(地絡事故がない状態)では、三相の電圧は平衡しており、零相電圧はほぼゼロ。
しかし、電路が大地に接触する「地絡事故」が発生すると、三相の電圧平衡が崩れ、零相電圧が発生する。
EVTは、この零相電圧を検出し、二次側に低い電圧として出力する。
- 健全な状態(地絡事故がない状態)では、三相の電圧は平衡しており、零相電圧はほぼゼロ。
- 地絡保護継電器への入力
- システム保護と安全確保
- 地絡事故を早期に検出して遮断することで、事故の拡大(火災、機器損傷など)を防ぎ
人身事故のリスクを低減する。
また、系統全体の安定性を保ち、広範囲な停電を防ぐ役割も果たす。
- 地絡事故を早期に検出して遮断することで、事故の拡大(火災、機器損傷など)を防ぎ
接地形計器用変圧器(EVT)の構造と動作原理

●三相回路
上記図三相回路でEVTの動作原理を考える。
(二巻線は考える必要がないので、以後省略して説明)
EVTの電圧ベクトルは、一次側の定格電圧6600V、三次側の定格電圧190/3Vとすると
変圧比がn=60の場合、下記図のようになる。

●電圧ベクトル図
① 健全時
健全時においては、三相回路の対地電圧Va、Vb、Vcはバランスが取れており
下記図のように電源の相電圧Ea˙、Eb、Ecと等しく、大きさは3810Vで
それぞれ120°の位相差が発生する。

●健全時の対地電圧
したがって、EVTの一次側の各相にかかる電圧もバランスの取れた対地電圧3810Vとなり
下記左ベクトル図のようになる。
また、三次側に発生する電圧ea˙、eb、ecは下記右ベクトル図のように大きさが63.5Vで
位相差が120°の平衡三相電圧となる。
このため、ea、eb、ecを合成すると電圧は零となり、電流制限抵抗に電圧は発生しない。

●健全時のEVT電圧
② c相完全地絡時
次に、c相が完全地絡したとする。
電源や線路のインピーダンスは無視できるので
地絡しても相電圧Ea、Eb、Ecと線間電圧Vab、Vbc、Vcaは健全時と変わりません。
1線地絡によって変化するのは、下記図のように、c点の電位が大地と同電位になること。

●C相完全地絡時の対地電圧
このため、a相およびb相の対地電圧は正常時の3倍(線間電圧と同じ6600V)になる。
したがって、EVTの一次側の各相にかかる電圧は下記左ベクトル図のようになる。
この場合、a相およびb相の巻線の電圧は相電圧の√3倍(6600V)となり、その位相差は60°になる。
また、c相は大地と同電位となるのでc相巻線には電圧がかからない。
したがって、EVTの三次側のa相とb相の電圧は、6600×1/60=110[V]となり
c相の電圧は零になる。また、a相とb相の位相差も一次側と同じく60°になる。
このため、EVTの三次側の電圧は下記図右のようになるので、合成すると、110×3≒190[V]となる。

●C相完全地絡時のEVT電圧
このように、EVTの三次側には各相の対地電圧を合成した電圧(ただし、変圧比で変換した値)が発生する。
接地形計器用変圧器(EVT)の構造と動作原理まとめ
EVTは通常、一次巻線、二次巻線、三次巻線(開放デルタ巻線)を持つ三巻線変圧器として構成される。
- 一次巻線: 各相の電路に接続され、もう一端が接地される。
- 二次巻線: 計測器(電圧計など)や地絡保護継電器の電圧入力端子に接続される。
- 三次巻線(開放デルタ巻線): この巻線がEVTの重要な特徴となる。
三次巻線は、各相の巻線の両端を繋ぎ合わせた状態(開放デルタ接続)で接続される。
健全な状態では、各相の電圧が平衡しているため、三次巻線に誘起される電圧は互いに打ち消し合い
開放デルタ端子間の電圧はゼロになる。
しかし、地絡事故が発生して零相電圧が発生すると、各相の電圧平衡が崩れ
三次巻線に誘起される電圧が打ち消し合わなくなり、開放デルタ端子間に零相電圧に応じた電圧が現れる。
この三次巻線からの出力が、地絡過電圧継電器(OVGR)の主要な入力となる。
EVTの内部結線図と外部結線図
内部結線図

外部結線図

EVTの設置箇所

- 受変電設備
電力会社からの引き込み口(高圧・特別高圧側)や
自家用発電設備(太陽光発電、コージェネレーションなど)の系統連系点などに設置される。 - 太陽光発電システムにおけるEVT
特に、特別高圧で電力系統に連系するメガソーラーなどでは
地絡保護のためにEVTの設置が必須となる場合がある。
これは、既存の電力系統保護と協調させるため、または発電設備自体の地絡保護を強化するため。
EVTとZCT(零相変流器)の違い

- EVT: 零相電圧を検出する。地絡方向継電器と組み合わせて、地絡点の方向を特定することも可能。
主に高圧・特別高圧の非接地系統や抵抗接地系統で地絡検出に用いられる。 - ZCT: 零相電流を検出する。電路を貫通させて設置し、地絡時に流れる零相電流を検出する。
主に高圧・特別高圧の直接接地系統や低圧・高圧の非接地・抵抗接地系統で地絡検出に用いられる。
両者は検出する物理量が異なるため、システムの接地方式や必要な保護レベルに応じて使い分けられたり
併用されたりする。
接地形計器用変圧器(EVT)の注意点

- 既存設備への設置
既存の特別高圧受電設備に太陽光発電システムなどを連系する場合
既存の保護協調や設備構成によってはEVTの追加設置が必要となることがある。
しかし、既存の変圧器に三次巻線がない場合や
設置スペースの制約などにより、工事が困難な場合もある。 - 専門知識
EVTの選定、設置、保護継電器との協調設定には、電気主任技術者などの専門的な知識と経験が必要となる

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