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過電圧についての基礎知識まとめ


目次

過電圧の概略

過電圧 (Overvoltage) とは電気回路や電気機器に
設計上想定されている、あるいは許容されている電圧よりも高い電圧がかかる現象のこと。
この「許容されている電圧」とは、通常、機器の定格電圧や、その回路の標準電圧
(例:日本の家庭用100Vや200Vなど)を指す。

過電圧は、電気機器の故障、劣化、焼損、さらには火災や感電といった重大な事故を引き起こす可能性があるため
電気設備の設計や運用において非常に重要な問題となる。

過電圧の種類と発生メカニズム

過電圧は、その発生原因や特性によっていくつかの種類に分類される。

常時過電圧(定常過電圧)

  • 原因: 系統の電圧調整不良、負荷の急激な変動、発電機の過励磁、誤配線など。
  • 特徴: 比較的長時間にわたって定格電圧よりも高い電圧が続く状態です。

    具体例
    • 中性線欠相による過電圧: 単相3線式回路で中性線が断線すると、不平衡負荷の場合に一方の100V回路に200Vに近い電圧がかかることがある。これは常時過電圧の典型例であり、非常に危険な状態となる。
    • 電源電圧の異常: 電力会社からの供給電圧が一時的に高すぎる場合。
    • トランスのタップミス: 変圧器のタップ設定が誤っている場合。
  • 影響: 機器の絶縁劣化を早め、寿命を縮める。モーターなどのコイルが過熱し、焼損する可能性がある。
       電子回路では半導体部品が破壊されることがある。

雷過電圧(インパルス過電圧)

  • 原因: 落雷(直撃雷、誘導雷)によって発生する非常に大きなサージ電圧
  • 特徴: 極めて短時間(マイクロ秒オーダー)で、非常に大きなピーク値(数kV~数十kV以上)を
    持つ電圧が発生する。
  • 影響: 電線や機器の絶縁破壊を引き起こし、機器の破壊や火災、停電の原因となる。
       建物内への侵入経路は、電力線、通信線、アンテナ線など多岐にわたる。
  • 対策: SPD(Surge Protective Device: サージ防護デバイス)や避雷器の設置が重要。

開閉過電圧(インパルス過電圧)

  • 原因: 電路の開閉操作(ブレーカーのON/OFF、スイッチの切り替え)、モーターの始動・停止
       コンデンサリアクトルの投入・遮断など、誘導性・容量性の回路の急激な変化によって発生。
  • 特徴: 雷過電圧に比べるとピーク値は小さいが、それでも機器の絶縁を脅かすレベル(数kV~数10kV程度)になることがある。持続時間も短い(マイクロ秒~ミリ秒オーダー)インパルス状の電圧。
  • 影響: 電子機器の誤動作や故障、半導体素子の破壊、電線や機器の絶縁劣化
  • 対策: サージキラー、SPD、開閉サージ吸収器の設置。スイッチング対策がされた機器の選定。

地絡・短絡時の過渡過電圧

  1. 原因: 地絡(漏電)や短絡事故が発生した際に、その事故点と電源との間で複雑な電磁現象が起こり
       一時的に高い電圧が発生することがある。
  2. 特徴: 事故発生時に一時的に生じる、比較的短時間の過電圧。
  3. 影響: 事故箇所の損傷拡大や、関連機器への悪影響。

過電圧が引き起こす具体的な影響

  • 電気機器の故障・損傷・焼損:
    • 半導体素子(IC、トランジスタなど)の破壊: 電子回路は電圧変動に弱く
      わずかな過電圧でも内部素子が破壊されることがある。
    • コンデンサのパンク: 電圧に耐えきれず破壊される。
    • コイルの焼損: モーターやトランスのコイルが過熱し、絶縁が破壊されてショートし、焼損する。
    • ディスプレイの損傷: テレビやPCモニターなどが表示異常を起こしたり、電源が入らなくなったりする。
    • バッテリーの劣化・発火: 充電器などに過電圧がかかると、充電中のバッテリーに悪影響を与え
                  劣化や発火のリスクを高める。
  • 絶縁破壊:
    電線や機器内部の絶縁材料が、過電圧によってその絶縁性能を失い、電流が漏れたり、短絡したりする。
    これにより、感電や火災のリスクが著しく高まる
  • 火災:
    機器の焼損や電線の過熱、絶縁破壊による短絡などが火災の原因となる。
    特に、中性線欠相による過電圧は、100V機器が200Vに晒され、突然発火する可能性があるため非常に危険。
  • 感電:
    過電圧によって機器の金属部分が帯電したり、絶縁破壊によって電気が漏れ出したりすることで
    人が触れた際に感電する危険性がある。
  • 誤動作・機能停止:
    電子制御された機器(パソコン、PLC、通信機器など)は、過電圧によって内部の制御プログラムの誤動作や、フリーズ、完全な停止などが発生したりする。

過電圧からの保護対策

  1. 中性線欠相保護機能付き遮断器:
    • 単相3線式回路において、中性線欠相による過電圧を検出し、回路を遮断することで機器の損傷や火災を防ぐ。家庭や小規模事業所の分電盤の主幹ブレーカーや分岐ブレーカーに必須の機能。
  2. サージ防護デバイス(SPD: Surge Protective Device)/ 避雷器:
    • 雷過電圧や開閉過電圧(サージ電圧)から機器を保護するために設置される。
      過電圧が発生すると、瞬時に抵抗値を下げて電流を大地に逃がし、機器への電圧印加を抑制する。
    • JIS/IEC規格: 電源用SPDは、クラスI、クラスII、クラスIIIに分類され、それぞれ設置場所や保護レベルが異なります。
      • クラスI: 直撃雷保護レベル(幹線引き込み口など)
      • クラスII: 誘導雷保護レベル(分電盤など)
      • クラスIII: 機器直前保護レベル(コンセントタップなど)
        ※通信回線用、アンテナ用など、用途に応じたSPDも存在する。
  3. 過電圧継電器 (OVR: Over Voltage Relay):
    • 電力系統や大規模な設備において、常時電圧を監視し
      設定値以上の電圧が一定時間続いた場合に警報を発したり、回路を遮断したりするリレーのこと。
  4. 定電圧装置(AVR: Automatic Voltage Regulator)/ UPS (Uninterruptible Power Supply):
    • 比較的ゆっくりとした電圧変動や、ノイズ、瞬時電圧低下などに対応し、機器に安定した電圧を供給する。
      AVRは入力電圧を一定範囲に保ち、UPSは停電時にも電力を供給しつつ、電源品質の安定化も図る。
  5. 適切な配線と接地:
    • 電気設備全体で適切な接地(アース)を行うことは
      雷過電圧や地絡による過電圧を安全に大地に逃がす上で非常に重要。
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