電磁誘導障害は、電力線(送電線やき電線など)に流れる電流によって発生する磁界が
その近傍にある通信線や他の金属体に電圧を誘起し、さまざまな障害を引き起こす現象。
静電誘導障害と並び、誘導障害の主要な原因の一つとされている。
目次
電磁誘導障害の原理

電磁誘導の原理は、ファラデーの電磁誘導の法則に基づいている。
電流が流れる導体の周囲には磁界が発生し
この磁界が時間的に変化すると、近くにある別の導体に誘導起電力(電圧)が生じる。
電力線に流れる電流は、交流であるため常に変化している。
特に、送電線で地絡事故が発生した場合など、大電流が流れる際には
その磁界の変化が大きくなり、通信線などに大きな誘導電圧を発生させることがある。
電磁誘導障害の種類

電磁誘導障害は、発生する状況によって大きく2つに分けられる。
常時誘導電圧(常時誘導障害)
電力線に常に流れている電流(負荷電流など)によって発生する誘導電圧。
通常は大きな問題になることは少ないが、通信線に雑音を発生させたり
通信品質を低下させたりする原因となることがある。
異常時誘導電圧(異常時誘導障害)
落雷や地絡事故など、電力系統に異常が発生した際に流れる大電流(地絡電流など)によって
発生する非常に大きな誘導電圧。
この電圧は、通信設備の焼損、通信障害、さらには通信設備の利用者や
保守作業員の感電事故につながる危険性がある。
電磁誘導障害が及ぼす影響

- 通信障害
電話回線の雑音、通信品質の低下、データ伝送の遅延やエラー、最悪の場合は通信途絶。 - 設備への影響
通信機器の誤動作、故障、焼損。 - 人体への影響
感電による人身事故(特に、通信設備の保守作業員や利用者が高電圧に触れるリスクがある)。 - 鉄道における影響
鉄道沿線の通信線に誘導電圧が発生し、信号システムや通信に影響を及ぼすことがある。
電磁誘導障害の対策

電磁誘導障害を軽減するための対策は
電力線側と通信線側の両方で行われる。
電力線側の対策
- 撚架(ねんが)
送電線の各相の位置を一定間隔ごとに交互に入れ替えることで
送電線全体としての磁界の不平衡を抑え、誘導電圧を減少させる。 - 架空地線の設置
送電線の上部に架空地線(アース線)を設置することで
誘導電流の一部を大地に流し、遮蔽効果を高める。
高導電率の材料を使用したり、複数条設置したりすることで効果が増す。 - 中性点接地方式の選択
電力系統の中性点接地方式(直接接地方式、抵抗接地方式、消弧リアクトル接地方式など)によって
地絡電流の大きさが変わるため、誘導電圧の発生に影響する。
電磁誘導障害の観点からは、地絡電流を抑制する方式(抵抗接地方式や消弧リアクトル接地方式)が
有利になる場合がある。 - 高速遮断方式の導入
事故発生時に、電力系統の保護継電器が迅速に異常を検知し
送電を高速で遮断することで、大電流が流れる時間を短縮し、誘導電圧の発生を抑える。
通信線側の対策
- 離隔距離の確保
電力線と通信線の間に十分な距離を確保することが最も基本的な対策。
距離が離れるほど、磁界の影響は小さくなる。 - 遮蔽ケーブルの使用
アルミシースケーブルや金属管に収納されたケーブルなど
外部からの磁界の影響を遮蔽する構造のケーブルを使用する。
これにより、誘導電圧の発生を抑制する。 - 光ファイバケーブルの採用
光ファイバケーブルは電気的な導体ではないため、電磁誘導の影響をほとんど受けない。
そのため、電磁誘導障害が懸念される場所では、積極的に光ファイバケーブルへの置き換えが進められている。 - 保安器(アレスタ)の設置
通信線に過大な誘導電圧が発生した場合に、機器や人体への被害を防ぐために
誘導電圧を大地に放電させる保安器(避雷器、アレスタなど)を設置する。 - 通信線の地下化
通信線を地下に埋設することで、地表を伝わる磁界の影響を低減することができる。

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