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絶縁監視装置についての基礎知識まとめ

目次

絶縁監視装置とは

絶縁抵抗測定漏えい電流測定はどちらも測定したときだけの絶縁管理であり
測定時には正常であっても、次回の測定時まで絶縁が正常であることを保証するものではない。

絶縁抵抗は緩やかに変化するものばかりでなく、急激に低下する場合もある。
このような場合でも絶縁管理を行うには、監視装置を設置して常時絶縁状態を監視する必要がある。
これを「絶縁監視装置」と呼び、絶縁監視装置を設置することにより
無停電で常時絶縁状態の監視が可能となり、保守管理の効率を高められる。

現在の絶縁監視装置は通信機能を搭載しており
絶縁に異常が発生したときには保守管理者や監視センターにリアルタイムに状況を発信することができる。
このため、「遠隔監視装置」と呼ばれることもあります。

主な役割として「目に見えない危険」である漏電や絶縁劣化を早期に検知することで
感電事故や火災といった重大事故を未然に防ぐことができる。

絶縁監視装置の仕組み・原理

絶縁監視装置にはさまざまな種類があるが、どの方式も漏えい電流の大きさで絶縁状態を監視している。
漏えい電流の検出は変圧器ごとに、検出用のCTは変圧器のB種接地線に取り付けられている。

絶縁監視装置は、漏えい電流の種類や演算方法により
下記の3つに大別できる。

Io方式 (零相電流方式)

概略

回路を流れる零相電流 (Io) を測定し、絶縁の状態を監視する方法。


商用電圧(50Hzまたは60Hz)による漏えい電流をB種接地線に取り付けたCTで検出する方式。
原理的には、リーククランプメータによる測定と同じ。
上記図でわかるように次のような特徴がある。

① 接地相の絶縁劣化は検出できない
電灯、動力回路ともB種接地を行っている相(N相)では
対地電圧がゼロなので絶縁劣化しても、漏えい電流は流れない。
したがって、接地相の絶縁不良は検出できない
※絶縁抵抗測定では検出可能

対地静電容量による漏えい電流も検出してしまう
絶縁劣化とは直接関係しない対地静電容量による漏えい電流も検出してしまう
そのため、この値が大きいと、絶縁劣化による漏えい電流との区別が付きにくくなる。

③ 漏えい電流が実際より小さくなる場合がある
電灯回路の非接地相(L1​相、L2​相)の両方で絶縁劣化した場合
対地電圧が逆なのでL1​相とL2​相の漏えい電流が打ち消し合う(相殺現象)ため
見かけ上の漏えい電流が小さくなる場合がある。
極端な場合、L1​相とL2​相が同じ程度に絶縁劣化すれば、漏えい電流はゼロとなる。

Ior方式 (絶縁抵抗分電流方式)

概略

  • 漏れ電流Ioの中から、絶縁抵抗による成分 (Ior) と対地静電容量による成分 (Ioc) を演算により分離抽出し
    絶縁抵抗成分 (Ior) のみを監視する。
  • 火災や感電事故の原因となるのは主に絶縁抵抗成分であるため
    Io方式よりも精度よく絶縁状態を判別できる。高調波の影響を受けにくいという特徴も持つ。

I0​方式と同様に商用電圧による漏えい電流を検出する方式だが
上記図のように電圧(基準電圧)も取り入れている。
これにより、I0​方式の対地静電容量成分による漏えい電流も検出してしまうという欠点を改善している。

下記図のベクトル図のように、検出する漏え漏えい電流I0​は
絶縁不良の抵抗成分による漏えい電流Iorと対地静電容量成分による漏えい電流Iocを合成したもの。
また、絶縁不良の抵抗成分による漏えい電流Iorは線間電圧と同相になる。

したがって、検出した漏えい電流I0​の中から線間電圧Vと同相の成分だけ演算して取り出すことにより
対地静電容量成分による漏えい電流I0を分離できる。
この方式には、次のような特徴がある。

① 接地相の絶縁劣化は検出できない I0​方式と同様
B種接地を行っている相では、漏えい電流は流れないので絶縁不良は検出できない。

② 対地静電容量による漏えい電流は検出しない I0​方式と異なり
対地静電容量による漏えい電流を演算により分離しているので
抵抗成分による漏えい電流のみ検出できる。
ただし、この演算は対地静電容量が各相とも均等であることを前提にしているので
三相回路では対地静電容量が不均等の場合は誤差を生じる。

③ 漏えい電流が実際より小さくなる場合がある I0​方式と同様
漏えい電流の相殺現象があるので見かけ上の漏えい電流が小さくなる場合がある。

Igr方式 (絶縁抵抗方式)

概略

  • 監視用の低電圧低周波交流電源の電圧を大地と電線間に重畳させ
    監視電源の電圧に対する漏れ電流を変流器により検出し、そこから絶縁抵抗を演算する。
  • Ior方式と同様に、より正確な絶縁抵抗値を把握できる。

I0​方式やIor方式と異なり、商用電圧と異なる電圧を使用して漏えい電流を監視する方式。

上記図の注入Trは変圧器の原理でB種接地線に監視用電圧を注入する装置。
監視用電圧は、他の機器に影響を与えないように低周波(12.5Hz程度)、低電圧(0.7V程度)となっている。

この注入した監視用電圧による漏えい電流を検出する方式で、次のような特徴がある。

① 接地相の絶縁劣化も検出する
監視用電圧はB種接地線に注入しているので、すべての相の監視が可能になる。
なお、接地相が絶縁劣化した場合は、商用電圧による漏えい電流が流れないため
リーククランプメータでは測定できない。

② 対地静電容量による漏えい電流は検出しない
注入電圧と同相成分のみを検出するので静電容量による影響はない。
したがって、各相の対地静電容量が不均等の場合でも誤差は生じない。

③ 漏えい電流を正確に検出する
漏えい電流の相殺現象がなく、複数の絶縁不良でも合成して検出する。

④ 実際の漏えい電流を測定していない
検出装置が検出する漏えい電流は、商用電圧による漏えい電流ではなく
監視用電圧によるものなので、非常に小さい値となる。
このため、実際に表示されるのは商用電圧に換算したものになる。

例:監視用電圧が0.7Vで商用電圧が100Vの場合、測定した漏えい電流を143倍(100/0.7)して表示する。

絶縁監視装置の構成要素

絶縁監視装置は、一般的に以下の要素で構成される。

  • 検出装置: 漏れ電流を検出し、絶縁劣化の有無を検知し、警報信号を発信する装置。
  • 信号搬送装置: 検出装置から発せられた警報信号を受信装置に搬送する。
  • 受信装置: 搬送された警報信号を受信する装置。
  • 発信・通報装置: 搬送された警報信号を、主任技術者や監視センターへ通報する装置。
    メールやスマートフォンへの通知、パトライト点灯、鳴動など、様々な通報方法がある。

絶縁監視装置の役割・導入メリット

安全性の向上

  • 感電事故・電気火災の未然防止
    漏電や絶縁劣化の兆候を早期に発見し、重大事故を未然に防ぐ。
  • 24時間365日の常時監視
    停電することなく活線状態で連続計測が可能であり
    異常発生時には即座に警報を発する。

予防保全・設備管理の効率化

  • 絶縁劣化兆候の早期発見
    わずかな漏電を検知し、初期の段階で問題を発見できるため
    計画的な修理や部品交換が可能になる。
  • 停電を伴わない活線計測
    設備の稼働を止めずに絶縁状態を監視できるため、生産性への影響を最小限に抑えられる。
  • データ履歴の記録・分析
    漏れ電流のデータを時系列で管理し、グラフ化することで、絶縁劣化の傾向を把握しやすくなる。
  • 異常箇所の特定
    いつ、どれだけの漏れ電流が流れたかがわかるため、異常箇所の調査にも役立つ。

コスト削減

  • 電気料金の削減
    漏電による無駄な電気の使用を抑制できます。
  • 月次点検の軽減
    絶縁監視装置を設置することで、毎月の電気主任技術者による点検を隔月(2か月に1回)に
    軽減できる場合がある(契約要件による)。
    これにより、電気管理費用の削減が期待できる。
  • 突発的な事故による損失の抑制
    早期に異常を発見・対応することで、大規模な設備停止や修理費用、損害賠償などのリスクを低減できる。

遠隔監視・管理

リアルタイム通報
異常発生時に技術者やセンターにリアルタイムで状況が発信される。

遠隔での設定変更・状態確認
パソコンやスマートフォンから遠隔で装置の設定変更や現在値の確認が可能。

絶縁監視装置の管理規定(参考)

① 警報動作電流 絶縁監視装置の警報動作値は、事業所の規模や負荷設備の特徴等を考慮し、電気主任技術者の判断で行うべきである。

しかし、常時における設定値運用の煩雑さおよびその煩雑さに伴う誤設定等を生じるおそれがあることから上限値を定める。

本規定では、警報動作電流の上限値を50mAとする。

② 警報発生時の対応 警報が発生した場合、電気主任技術者は当該電気工作物の点検を行うとともに技術基準への適合状況を確認する。

外部委託の場合は、警報動作電流値以上の漏えい電流が5分以上継続、または繰り返し発生している場合は警報発生原因を調査し適切な措置を行う。

自家用電気工作物保安管理規定(JEAC 8021)より引用

50mA以下であっても、平常時から、変圧器にどの程度の漏えい電流が流れているのか
変動があるのか、漏えい電流の原因は何か、機器の増設があったかなど、
設備の状態をよく把握しておくことで絶縁監視装置を有効に活用することが可能になる。

参考資料

新電気:2022.12 現場の疑問解決塾 低圧回路の絶縁監視装置より一部引用

chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.multimic.com/assets/j/instruction_manual/ma_LS-7S_1.pdf
Io 方式絶縁監視装置LS-7S 取り扱い説明書より画像引用

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この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (3件)

    • ご質問ありがとうございます。
      ムサシ製の節煙監視装置(監視王)やマルチ計測製(LS-7SIRV)の取り扱い説明書やHPではV結線や異容量V結線などは
      非対応と記載されています。↓下記リンク先
      ムサシ chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/http://www.musashi-in.co.jp/catalog_9/PDF/012.pdf
      マルチ https://www.multimic.com/products/detail/2669.html の一般仕様に記載

      以前マルチ計測のオペレーターにスコットトランスB種接地に使用可能か聞いた場合、正しい値が検出される保証はできなといとの回答を
      口頭で頂いた記憶があります。(文書での回答はなし)

      光商工製集合形絶縁状態監視システム LSIG-8だと条件付きでスコットトランスのB種接地をIorで使用できるみたいです。
      ※自身は今まで使用したことはありません。

      リンク先 chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.hikari-gr.co.jp/dcms_media/other/T-LSIG-8.pdf の55ページ

  • いつも拝見し勉強させて頂いております。
    丁寧なご回答ありがとうございます。
    参考リンクで勉強いたします。

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