慣性試験とは

保護継電器の「慣性特性」とは
極めて短時間の電流変化に対して、意図的に動作しないように設計された特性のこと。
慣性試験とは、この継電器の慣性特性が適切に機能するかを確認するための試験。
実際の事故ではなく、モーターの始動電流や変圧器の励磁突入電流のような一時的で健全な大電流によって、継電器が誤って動作(誤動作)するのを防ぐため。
慣性試験の目的

- 誤動作防止の確認
短時間の過渡現象(モーター始動、変圧器励磁突入電流など)に対して
継電器が不必要に動作しないことを確認する。 - 継電器の健全性確認
継電器が設計通りの慣性特性を維持しているかを確認し
経年劣化などによる特性変化がないかを把握する。 - 保護協調の確保
系統内の他の保護装置との協調性を保つために
継電器が適切なタイミングで動作・不動作することを確認する。
慣性試験の方法

慣性試験の具体的な方法は
継電器の種類(過電流継電器、地絡方向継電器など)やメーカーによって若干異なるが
基本的な考え方は共通している。
試験条件の設定
- 試験電流・電圧
継電器の整定値(設定された動作値)に対して
ある程度高い電流や電圧(例:整定値の400%の電流、150%の電圧など)を設定する。 - 位相角
地絡方向継電器の場合、最大感度角に設定する。 - 通電時間
継電器が動作しないとされている短い時間
(例:50ms、あるいは動作時間の60%~90%など)だけ、試験電流・電圧を通電する。
JIS規格では
過電流継電器の場合、動作時間の90%の通電時間で不動作
地絡方向継電器の場合、0.05秒間(50ms)の通電で不動作が規定されている。
試験の実施
- 設定した条件で、短時間だけ試験電流・電圧を印加する。
- 継電器が動作しないことを確認する。
もし動作した場合は、継電器の慣性特性が低下している可能性がある。
最小慣性動作時間の測定(応用)
JIS規格では50msなどが規定されているが、より詳細に継電器の特性変化を把握するために
通電時間を1ms単位で増やしていき、継電器が動作する最小の時間を測定することもある。
これにより、継電器の経年変化をより細かく把握できる。
具体的な試験装置
慣性試験を行うためには、短時間だけ正確な電流・電圧を印加できる専用の試験装置(継電器試験器)が必要となる。タイマー機能が内蔵されているものや、外部タイマーと組み合わせて使用するものがある。
慣性試験の規格

保護継電器の慣性特性に関する規格は
主にJIS(日本産業規格)に規定されている。
JIS C 4602(高圧受電用過電流継電器)
過電流継電器の慣性特性について規定されている。
一般的に、静止形過電流継電器の慣性特性係数は0.9とされており
これは「通電時間が動作時間の90%以内であれば不動作」という意味合いとなる。
JIS C 4609(高圧受電用地絡方向継電装置)
地絡方向継電器の慣性特性について規定されている。
慣性特性試験 継電器の整定電流値及び整定電圧値を最小とし,零相基準入力装置の一次側に三相
一括で,整定電圧値の150%の電圧と,零相変流器一次側の任意の1線に動作位相の整定電流値の400%の
電流とを,同時に急激に0.05秒間通電して継電器の状態を調べる。
JIS C 4609(高圧受電用地絡方向継電装置):7.8より引用

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