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電圧変動率についての基礎知識まとめ

電圧変動率は、電力系統の品質を表す重要な指標の一つのこと。
主に、電力機器(特に変圧器)や送配電線路において
負荷の増減によって発生する電圧の変化の度合いを示すもの

目次

電圧変動率についての概略

電圧変動率(Voltage Regulation, VR)は
無負荷時の電圧と定格負荷時の電圧の差が、定格負荷時の電圧に対してどれくらいの割合になるか
を示す値です。

定義式

ε=Vn​V0​−Vn​​×100[%]

  • ε (イプシロン): 電圧変動率 [%]
  • V0​: 無負荷時の出力電圧(例:変圧器の二次側無負荷電圧、送電線の受電端無負荷電圧)
  • Vn​: 定格負荷時の出力電圧(例:変圧器の二次側定格負荷電圧、送電線の受電端定格負荷電圧)

この式は、負荷がゼロの状態(無負荷)から定格負荷を接続した際に
どれだけ電圧が変動するか(降下または上昇するか)を示すもの。

「無負荷時」と「定格負荷時」を計算式に用いる理由

  • 無負荷時
    回路に電流が流れていない状態であり、内部インピーダンスによる電圧降下
    発生しない理想的な電圧状態に近いと考えられる。

  • 定格負荷時
    機器が設計された通りの最大負荷(またはそれに近い状態)で運転されている時の
    電圧であり、実際の運用において重要な基準となる。

電圧変動率が発生する原因

電圧変動率の主な原因は
電力機器や電路が持つ内部インピーダンス(抵抗成分とリアクタンス成分)による
電圧降下(または電圧上昇)のこと。

抵抗成分(R)による電圧降下

電流が流れると、抵抗によって熱が発生し、電圧が消費される(V=IR)。
これは常に電圧を低下させる要因となる。

リアクタンス成分(X)による電圧降下/上昇:

電流がコイル(リアクトル)やコンデンサ(キャパシタ)を流れるときに発生する電圧の変化のこと。

  • 誘導性負荷(遅れ力率
    モーターなどコイル成分が多い負荷の場合、リアクタンスによる電圧降下が起こり
    電圧は低下する。これが一般的な電力系統における電圧変動の主因となる。

  • 容量性負荷(進み力率)
    コンデンサや長距離送電線など容量成分が多い負荷の場合
    リアクタンスによる電圧上昇が起こり、電圧が定格値よりも高くなることがある(フェランチ現象など)。

電圧変動率の計算式(変圧器の場合)

変圧器の電圧変動率は
その変圧器の

●パーセント抵抗降下 (%r)
●パーセントリアクタンス降下 (%x)、
●負荷の力率 (cosθ)

を用いて近似的に計算できる。

  • パーセント抵抗降下 (%r)
    定格電流が流れたときの抵抗による電圧降下を定格電圧に対する百分率で表したもの。
  • パーセントリアクタンス降下 (%x)
    定格電流が流れたときのリアクタンスによる電圧降下を定格電圧に対する百分率で表したもの。

近似式

ε≈%rcosθ+%xsinθ[%]

cosθ: 負荷の力率(力率が進みなら正、遅れなら負で代入するなど符号の扱いに注意が必要だが
多くの場合、遅れ力率の負荷を想定する)。

電圧変動率は負荷の力率に大きく依存し、特に遅れ力率の負荷が多いと、電圧変動率は大きくなる。

電圧変動率が高いことの影響

電圧変動率が高い(つまり、負荷によって電圧が大きく変動する)と
以下のような問題が発生する。

  • 機器の誤動作・性能低下・寿命短縮
    • 電灯
      電圧が低下すると暗くなり、電圧が高すぎるとランプの寿命が短くなる。
    • 電動機(モーター)
      電圧が低下するとトルク(回転力)が小さくなり、始動しにくくなったり、効率が低下したり
      過熱の原因となることがある。
      逆に電圧が高いと、励磁電流が増加し、モーターが過熱する可能性がある。
    • ヒーター・電熱器
      出力が電圧の2乗に比例するため
      電圧が低下すると出力が大幅に低下する。
    • 電子機器
      電圧変動に敏感なものが多く、機能の停止、誤動作、再起動などを引き起こす可能性がある。
  • 電力損失の増加
    電圧変動が大きいということは、それだけ内部インピーダンスによる電圧降下が大きいということであり
    電力損失(I2R損失)が増加していることを意味する。
  • 系統安定度の低下
    電圧が不安定だと、電力系統全体の安定性が損なわれ
    最悪の場合、系統事故につながる可能性もある。

電圧変動率の許容範囲

電気事業法やJIS規格などにより、供給電圧の許容範囲が定められている。

  • 100V系: 101V ± 6V (95V〜107V)以内
  • 200V系: 202V ± 20V (182V〜222V)以内

これは電力会社が供給する受電点での電圧範囲だが
受電点から各負荷までの構内配線でも電圧降下が発生するため
末端の負荷での電圧がこの範囲から外れる可能性がある。

多くの電気機器は、定格電圧に対して±10%程度の電圧変動には耐えられるように設計されているが
これを超えると故障や性能低下のリスクが高まる。

電圧変動率の改善策

電圧変動率を抑制し、安定した電圧を供給するための対策には
以下のようなものがある。

  • 電線サイズの適正化(太線化)
    電線の抵抗を減らすことで、電圧降下を抑制する。
    特に、負荷から離れた場所へ電力を供給する場合に有効

  • 変圧器タップの調整
    変圧器の巻数比を変更することで、二次側の電圧を調整する。
    ※電力会社が行う主要な電圧調整方法の一つ。

  • 力率改善
    進相コンデンサなどを設置して、遅れ力率の負荷による無効電力を補償し
    力率を改善することで、電圧降下を抑制する。

  • 電圧調整器(SVR: Step Voltage Regulatorなど)の設置
    自動的に電圧を検出し、タップを切り替えることで電圧を一定範囲に保つ装置。

  • 分散型電源の活用
    太陽光発電や蓄電池などの分散型電源を適切に配置することで、需要地に近い場所で発電し
    送電線からの電圧降下を緩和する。ただし、分散電源が多すぎると
    逆に電圧上昇の問題を引き起こすこともある。

  • 無効電力補償装置の導入
    SVC(Static Var Compensator)やSTATCOM(Static Synchronous Compensator)などの
    無効電力補償装置を設置し、系統の電圧を自動的に調整する。

  • 配電線の短縮化・受電点の変更
    可能な場合、供給元から負荷までの距離を短くすることで、電圧降下を抑制する。
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