配線用遮断器の概略

電気設備に関する技術基準を定める省令の第14条では
と規定している。
過電流遮断器にはさまざまな種類があり
高圧では真空遮断器やガス遮断器、高圧ヒューズ
低圧では配線用遮断器、低圧気中遮断器、低圧ヒューズなどがある。
下記図は配線用遮断器(定格電流125A)の例で
配線用遮断器は低圧の過電流遮断器の一種に分類される。

配線用遮断器は一般に、ブレーカーなどと呼ばれる。
文字記号はMCCB(Molded Case Circuit Breaker)でMCCBと記していることが多い。
※配線用遮断器をMCBやNFBなどと呼ぶこともある。
配線用遮断器の役割

電線や電気機器には許容電流や定格電流が決められており
規格上安全に流すことのできる最大の電流だが
次のような場合これを超える電流が流れることがある。
このような場合
・導体抵抗による発熱が大きくなり
・そのまま放置すると電線の絶縁被覆が溶解して発火したり
・電動機が焼損したりする
おそれがある。
過負荷や短絡などの要因で異常な過電流が流れたときに電路を開放し
電源供給を遮断することにより電線や電気機器を
損傷から保護するための安全装置がMCCBとなる。
配線用遮断器の構造

MCCBを構成する主要部は、ばねとリンク機構によって
・接点の開閉を行う開閉機構
・過電流や短絡電流に応動してMCCBをトリップ(引外し)させる過電流引外し装置
・電流を遮断する際に発生するアークを消滅させる消弧装置
これらを一体にして小形のモールドケースに組み込んだものがMCCBとなる。
開閉機構

ハンドルを「ON(入り)」「OFF(切り)」の位置に操作することにより開閉する。
リンク機構により操作速度に関係なく、連入り・連切り動作を行うので接触子の溶着を防止できる。
また、MCCBはハンドルをONの位置に拘束した状態でも、引外し動作を妨げない構造となっている。
ハンドルの位置は、状態表示を表しているが、「ON」状態からトリップしたときは
ハンドルは「ON」と「OFF」の中間位置に止まる。
この場合、MCCBを再投入するには、一旦ハンドルを「OFF」の位置に戻す必要がある。
=リセット操作(上記図参照)
事故原因が残っている状態で投入操作をすると
再度トリップするので、必ず事故現象を除去してから再投入する必要がある。
② 過電流引外し装置
過電流引外し方式は動作原理により
熱動-電磁式、電磁式、電子式に大別できる。
a. 熱動-電磁式
バイメタルを使用した方式で、過電流が流れるとジュール熱によりバイメタルが
湾曲してトリップレバーを押すのでMCCBがトリップする。
この場合、バイメタルの湾曲は時延特性(小さい電流では長い時間、大きい電流では短い時間で動くこと)を
持っているのでMCCBも時延特性になる。
また、短絡時は、大電流により電磁石の可動鉄片が固定鉄心側に瞬時に吸引されるので、瞬時引外し特性となる。

熱動-電磁式の動作特性例。
b.完全電磁式

上記図のように電磁石を使用した方式で
コイルが巻かれたパイプ内に鉄心、ばね、シリコンオイルが入っている。
過電流が流れるとばねの力に打ち勝って
鉄心が移動するので磁気回路の磁気抵抗が小さくなる。
これにより、磁束が増加して固定鉄心の磁力が大きくなり
可動鉄片が吸引され、これと連動したトリップ機構が動作し回路が遮断される。
※シリコンオイルには粘性があるので動作時は時延特性となる。
一方、短絡電流のような大電流が流れた場合には
鉄心の移動に関係なく可動鉄片が瞬時に引き寄せられるので瞬時引外し特性となる。
c.電子式
各相の電流をCT(変流器)で検出して、演算、制御、引外し指令などはすべて電子回路により行う方式。
定格電流値や動作特性の変更が可能なので保護協調を取るうえでは便利。
また、プレアラームや計測表示などさまざまな機能を有したものもある。
③ 消弧装置

低圧電路で短絡事故が発生すると数千アンペア程度の大電流が流れることがある。
これを、一般の開閉器で遮断しようとすると開閉時に発生するアークを
消弧できずに開閉器自体が損傷してしまう。
MCCBは上記図のようにグリッド(消弧板)と呼ばれる
磁性板を適当な間隔で支持した装置(消弧装置)でアークの消弧を行うので遮断が可能になる。
消弧装置ではアークを電磁力によりグリッドの奥のほうへ駆動して分断する。
これにグリッドによる冷却効果が加わり
電源電圧がアーク電圧を維持できなくなるのでアークが消滅する。

配線用遮断器の性能

① AF(アンペアフレーム)
AFはアンペアフレームと呼び、MCCBの大きさ(外形)のことで
MCCBに流せる最大の電流値(最大定格電流)を表している。
具体例
100AFであれば最大定格電流が100Aであり
100Aまでは通電しても損壊しないことを表している。
→AFが大きくなるほど、MCCBの大きさや許容電流が大きくなる。
また、AFサイズにより遮断容量の大きさが決まるので
MCCB設置点の短絡電流の大きさによりAFサイズを選定する必要がある。
② AT(アンペアトリップ)
ATはアンペアトリップと呼び
実際に動作する電流でMCCBの定格電流のこと。
具体例
50ATであれば、50A以上の電流が流れたときにMCCBが動作する。
ATはAFサイズごとに数種類ある。
例)100AF の 30AT、50AT、75AT、100AT など
③ 開閉耐久回数

JIS C8201より引用
MCCB の開閉耐久回数を上記表に示す。
MCCB は過電流や短絡電流の遮断が目的なので
許容される開閉回数はそれほど多くはない。
よく、MCCB をスイッチとして使用し、電動機の運転停止や照明の点滅を行っている場合がある。
この場合、例えば、100 AF の MCCB を毎日入り切り(1回/日)した場合は
4年程度(1500回÷365日=4年)で寿命となってしまう。
→頻繁に開閉する場合は、電磁開閉器やリモコンリレーなどを使用する必要がある。
電磁開閉器の開閉耐久回数は数十万回以上ある。

配線用遮断器の周囲温度

MCCB の基準周囲温度は40℃なので
これと異なる温度で使用する場合は注意が必要。
熱動−電磁式の時延引はずし要素の場合
加熱によって生ずるバイメタルの湾曲を利用しているので
周囲温度が変化すると、特性も変化する。
完全電磁式の場合
シリコンオイルの粘性を利用しているので
温度が変われば粘性が変わるので特性が変化する。
熱動−電磁式
完囲温度が変化しても特性はほとんど変化しない。
熱動−電磁式で周囲温度が変化した場合の補正曲線例

参考資料
新電気2019年8月号 現場の疑問解決塾「配線用遮断器と漏電遮断器って何が違うの?」
より引用

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