「過電圧継電器」(OVR: Over Voltage Relay)は
電力系統や電気設備において
電圧が異常に上昇した際にそれを検出し、機器の保護や事故の拡大防止を行うための保護継電器のこと。
過電圧継電器の役割と目的

電力系統において、電圧は常に一定の範囲内に維持されることが理想的となる。
しかし、以下のような原因で電圧が上昇することがある。
電圧が上昇する原因
- 発電機の過励磁や故障
発電機が正常に制御されなかったり、内部故障を起こしたりすると
発電電圧が異常に高くなることがある。 - 負荷の急激な減少(軽負荷)
電力系統では、発電と消費のバランスが重要となる。
需要が急激に減少し発電量が相対的に過多になると、系統電圧が上昇することがある。
特に、長距離送電線ではフェランチ効果により、送電端より受電端の電圧が高くなる現象も発生する。 - 地絡事故
非接地系統や高抵抗接地系統において、一線地絡事故が発生した場合
健全相の対地電圧が上昇することがある(零相過電圧)。
これは地絡過電圧継電器(OVGR)の主要な検出対象となる。 - 開閉サージや雷サージ
開閉器の投入・開放時や雷の直撃・誘導などにより
瞬間的に非常に高い電圧(サージ電圧)が発生することがある。
引き起こされる原因
- 電気機器の絶縁破壊
電圧が定格を超えると、ケーブルや変圧器、モーターなどの絶縁体がストレスを受け
最終的に破壊(絶縁破壊)に至り、短絡事故の原因となる。 - コンデンサの保護
力率改善用コンデンサなどは、定格電圧で使用されることを前提に設計されており
過電圧に弱いため、保護が必要。 - 半導体機器の損傷
パワーエレクトロニクス機器や制御盤内の半導体部品は
過電圧に非常に敏感で、容易に損傷する。 - 感電事故のリスク増加
人体が触れる可能性のある部分の電圧が上昇することで
感電事故のリスクが高まる。
過電圧継電器は、これらの事態を未然に防ぐ、あるいは発生した際に被害を最小限に抑えるために設置される。
検出した過電圧信号に基づいて、警報を発したり、遮断器を動作させて故障箇所を切り離したりする役割を担う。
過電圧継電器の動作原理

過電圧継電器の基本的な動作原理は
入力された電圧が予め設定された「整定値(動作電圧)」を超えた場合に、内部の接点を出力し、警報や遮断器の引き外し信号を出すというもの。
過電圧継電器は
計器用変圧器(VT: Voltage Transformer または PT: Potential Transformer)を介して
高電圧を安全な低電圧(例えば110Vなど)に変換した信号を受け取る。
動作のタイプ
過電圧継電器の動作タイプは、主に以下の2種類に大別される。
- 瞬時動作型
整定値を超える電圧が入力された瞬間に動作する。
非常に速い応答が必要な場合に用いられる。 - 限時動作型
整定値を超える電圧が入力された後、予め設定された時間(限時時間)が経過した後に動作する。
一時的な電圧変動による不要な動作を防ぐ目的で用いられる。
一般的に、電圧の異常は電流の異常よりもゆっくり進むことが多いため
限時動作型が使われることが多い。
内部の仕組み(現代のデジタル型の場合)

デジタル型の過電圧継電器の内部では、以下のような処理が行われている。
- アナログ/デジタル変換 (A/D変換)
VTから入力されたアナログ電圧信号をデジタル信号に変換する。 - マイクロプロセッサ/DSP (デジタル信号処理プロセッサ)
変換されたデジタル信号を連続的にサンプリングし、電圧値(実効値)を計算する。 - 整定値との比較
計算された電圧値が、ユーザーが設定した整定値(例えば定格電圧の110%など)を
超えているかどうかを比較する。 - 限時処理
電圧が整定値を超え続けている時間を監視する。設定された限時時間が経過すると、動作指令を出す。 - 出力リレー
動作指令を受けて、内部のリレー(電磁リレーや半導体リレー)が励磁され
外部への接点信号(多くは遮断器のトリップコイルへの電流供給)を出力する。 - 表示・通信
動作状態や警報、計測値などを表示したり、上位システム(SCADAなど)に
通信したりする機能を持つものもある。
過電圧継電器の種類と主な用途

過電圧継電器には、検出する電圧の種類や目的によっていくつかの種類がある。
- 過電圧継電器 (OVR: Over Voltage Relay)
検出対象
相間電圧(線間電圧)や相電圧(対地電圧)が定格値を超えた場合。
主な用途
- 発電機の過励磁や調速機異常による過電圧保護。
- 送電線や変圧器の過負荷や、軽負荷時における電圧上昇からの保護。
- コンデンサバンクの過電圧保護(特に力率改善用コンデンサは過電圧に弱いため)。
- 重要機器の過電圧保護。
- 地絡過電圧継電器 (OVGR: Over Voltage Ground Relay)
検出対象
地絡事故時に発生する「零相電圧」を検出する。零相電圧は、三相平衡時にはゼロだが
地絡事故が発生すると非接地系統や高抵抗接地系統で発生する。
検出方法
一般的に、計器用変圧器(VT)のオープンデルタ結線(または零相電圧検出装置 ZPD)から
零相電圧を取り出し、OVGRに入力する。
主な用途
非接地系統や高抵抗接地系統における地絡事故の検出。
特に、分散型電源(太陽光発電、コージェネレーションなど)の系統連系における保護協調において非常に重要。
系統地絡時に、分散型電源を系統から切り離し、感電事故や機器損傷を防ぐ。
日本の太陽光発電システムでは
OVGRの設置が電力系統への連系規程で義務付けられている場合がある。
注意点: OVGRは地絡方向継電器(DGR: Directional Ground Relay)と組み合わせて
使用されることが多い。OVGR単体では地絡が発生した方向を特定できないため
DGRと組み合わせることで、事故区間をより正確に特定し、必要な遮断器だけを動作させることができる。
過電圧継電器の整定(設定)

過電圧継電器の「整定」とは、継電器が動作する条件(電圧値と時間)を設定すること。
適切な整定は、システムの安定運用と保護協調のために不可欠となる。
- 電圧整定値 (動作電圧)
通常、定格電圧に対するパーセンテージ(例:110%Vn、120%Vnなど)で設定される。
例えば、定格電圧が110Vの二次側で120%Vnに整定した場合、110V × 1.2 = 132V を超えた場合に動作を開始します。
設定する際は、通常の電圧変動範囲を考慮し、不要な動作を避ける必要があるが
機器の許容電圧範囲を超えないように設定する。 - 限時時間 (動作時間)
電圧が整定値を超えてから実際に継電器が動作するまでの時間のこと。
通常、秒単位で設定される(例:0.5秒、1秒、2秒など)。
一時的な電圧変動(モーター起動時の電圧降下など)で動作しないように
ある程度の時間を設けることが一般的となる。
複数の継電器が直列に接続されている場合(保護協調)
事故点に近い側の継電器を速く電源に近い側の継電器を遅く整定することで
事故箇所だけを瞬時に切り離し広範囲停電を防ぐ(タイムディレイ方式)。
過電圧継電器と保護協調の関係性

保護協調とは、電力系統において、事故発生時に最も適切な範囲の機器を切り離し
他の健全な部分への影響を最小限に抑えるように、保護継電器や遮断器の動作を調整することです。
過電圧継電器の整定も、この保護協調の一部として行われる。
特に、分散型電源が系統に連系されている場合、電力会社側の保護リレーとの協調が非常に重要になる。
系統側で地絡事故が発生した場合、分散型電源は速やかに系統から切り離されなければならない。
この際、OVGRの動作特性が電力会社の要求する範囲内であるか
そして系統側継電器との時間差が適切であるかを確認する必要があります。

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